鹿紙路さんの「レッド・シーダー」
鹿紙路さんの「レッド・シーダー」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881943590
名緒という北米を旅している写真家の女性と、彼女が滞在する村の男性との恋愛についての短編です。
7,664文字。とても短いです。が、分量に比べて読むのに時間がかかった印象があります。設定があまり読みなれないものなのと、文章が丁寧で一文一文をしっかり読んでいきたい気分になったからかもしれません。北米の田舎というあまりなじみのない舞台ですが(私は行ったことない)、「こんな感じだろうな」という説得力のある風景描写が美しくていかにも「文章がうまい人」の作品という印象です。性描写がありますが、これもとても上手だと思いました。作品のトーンを崩さない抑制が効いたものでありながら、人物の感情が行為から伝わってくるような、よい性描写です。
ただ風景描写の繊細さというか静けさの印象に比べて台詞などの人物の反応がやや落ち着かない印象を受けます。この辺りは好みの問題かもしれません。ごく個人的な好みとしては、動作などでの感情表現はしっかりとできているので、台詞をもう少し落ち着かせるか、感情が出過ぎているものは削ったほうが全体的のトーンが揃ってしっくりくると思います。
あと最初に分量に比べて読むのに時間がかかった印象があると言いましたが、名前のある登場人物が短い間に四人出てきて、そのうちの誰が重要な人物なのかがわからない、というのが少し理解をもたつかされました。最初に出てくるネッドという男性はごく短い文章ながらも読者がはっきりと興味を惹かれるように描かれており、またシーン自体が美しいので、彼がそのあと他の登場人物の会話以外で出てこなくなるのは少しもったいないように感じます。主人公の名緒という女性もこの分量では彼女の興味深い人物像がこちらには伝わり切れていないと感じます。最後のバンケットのシーンも、これまでほとんど出てこなかったシヴィルが急に個性を発揮しだすので少し唐突に感じます。全体的に人物ひとりひとりにもっと踏み込んで、もっと長く書いたほうがいい題材なのではないでしょうか。
色々言いましたがとにかく文章がめっちゃうまいとおもいました。
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