我が家内 住みたい場所は ニライカナイ

魔女は迫害されるのが世の常。

……いや、他よりも抜きん出ている者、の間違いだった。

何故か皆、自分より優れた者を恐れ、いといい、最後には討つ。

時には結託して、出る杭を打つものだ。


だが迫害される者達にも、もちろん救いはある。……それが俗に【楽園】と呼ばれる、秘境の奥にある集落だ。


【ニライカナイ】――正しくは【217番シェルター】――はそんな【楽園】の中でも、水底にある事を特色に持つ集落である。

水中にあるという事は、即ち安全性が高い事の証明に繋がる。

よってここは人気が高く、入村が難しいのだが……。


「じゃん!招待状!!」


目をキラキラさせて、ツァヴェルはヒラヒラと1枚の紙を目の前で見せてくれた。


「これさえあればニライカナイに入れる!」


と、その時だった。

最早お約束、都合良く強風が吹いて紙が飛ばされたのである。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁあっっ!?」


見事なフラグ回収。問題はこの後どう行動するのか。それによって、未来は変わるのである。

「……黒魔術って操作系の魔法あるっけ?」

「……はっ!!」


文字通りハッとして、ツァヴェルは左手を空にかざした。


「……いや、今回は俺がやる!」


俺は手を翳し、招待状を強くイメージする。

魔法とは、イメージと直感の延長線上の交点だ。

直感とは人間が魔法使いだった頃の名残。

『こっちの方が良い』という未来を、間接的に選び取る力。これを魔法と呼ばずして何と呼ぼうか。

そしてイメージ。イメージは五感をまとめ上げ、その結び付きを強くする。

研ぎ澄まされた感覚は、より練度の高い魔力を産み出す。

そうこの2つは、明らか魔法の根底にある。

そしてこれをより精密に出来るのは……俺。


俺、こう見えても一応作家だからね。イメージするのは得意。そして直感も使い慣れている。

そう、俺は魔法使いに向いている!!


ボフン。

あっ――――俺は左手の違和感に気付き、引っ込める。

不発ファンブル】。俺の左手は魔法の代わりに煙を吐いて、それだけだった。

まずい、このままじゃ招待状が……そう思っていたのも束の間、ツァヴェルが左手を振り翳す。即座に魔力は結晶化し、巨大な腕へと変化していった。


「多分これが……1番早いっ!!」


巨大な結晶の腕はそのままズイズイ伸びていき、やがて遥か飛ばされた招待状にまで届いた。


「……よしっ!」


招待状を掴み、ツァヴェルはドヤ顔を見せてきた。

――――俺が彼女とはじめて会った時も、同じ顔をしていたっけな。

なんてボーッと見ていたら、ツァヴェルは俺を見て言った。


「……さ、急ごっ?」

「……だな」




「こちらに入村したいのですが……」

「ダメです」

「えっ」

「なんで!?」


ニライカナイまでの道程は思っていたよりも平坦だった。

どうやらずっと長いスロープ状になった海を進んでいたらしい。

で、正門のところにいる受付に招待状を見せたのに、彼は入れてくれなかった。


「今、ニライカナイ及び他の楽園でも、外部者は一人として入れない様に、というお達しですので。ご了承下さいまし」

「誰からの?」

「【楽園管理者会】会長代行。

アルゴナナリ・ビフレスト様からのです」

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めおと無双―結婚指輪が最凶の黒魔導アイテムでした― アーモンド @armond-tree

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