サイコパス とても強くて マイワイフ

田舎村の中心部たる集会所から徒歩5分くらいのところに、俺の家はあった。

外観は北欧調の木組みの家。内装はこれまた木をふんだんに使ったナチュラルな雰囲気で、そこに俺は奥さんと二人で住んでいた。


俺はシャウゾ・リェン。発音のし辛さから、知り合いからはと呼ばれる。

で、俺の奥さん。

リェンという名前に嫌気が差していた時に俺を支えてくれた人だ。

リェン……離縁に通ずるものだから、俺は女子からはひどく嫌われていた。が、彼女だけは、リェン……レン……恋。


『レン君の名前が離縁に聞こえるから?そんなヤツと付き合って離縁したくない?バツ付くのがそんなに嫌?

……そんな理由で左右されるのなんて、恋なんて言わないよ。

本気で好きになったら、そんなの関係無い』


なんと後輩だった彼女は、ずっと密かに俺に恋していてくれたらしいのだ。

どこにいるか分からないものだな、と実感した瞬間だった。

で、そんな彼女。名前はツァヴェル。歳は顔相応の14歳(この世界では10歳から婚約出来る)。

ちなみに俺の年齢は16歳だ。

こちらの世界では成人してるぜ。




さて、結婚式で俺達二人が交換した結婚指輪。あれには――厳密には指輪にはめ込まれた宝石には――ある魔術が仕込まれていた。


【身につけた者に魔力を付与する魔法】。


そう、それのせいで俺達夫婦は黒魔術師として覚醒してしまったのだ。

知識もなかったのでどうして良いものかも分からず、とりあえず力の事は隠しておこう、と夫婦間で取り決めておく事にした。


だがその取り決めはすぐに破綻してしまった。


「なぁリェン……お前式でやらかしたってなァ?奥さんが可哀相だなァ?エェ?」


腐れ縁かつ最悪の同級生。

生粋のワル、エル・ダシェントである。


「なんなら俺が貰ってやっても良いぜ?

お前より潤沢な金、権力、土地!!

お前の持ってる物のどれでも、俺には勝てない。あんな若い娘だ、お前みたいな優男にゃ合わねぇよ」

「煩いぞダシェント」

「なに調子こいてんだリェン!!お前が婚約して良い人間か!?

俺よりも先に、手前なんかが!!」

「――――やめて下さいっっ!!!」


「ツァヴェル!?」

左手に黒い焔を携えたツァヴェルが、ダシェントを睨んでいたのだった。


「……へぇ、奥様は魔女、ってか?

しかも黒魔術師と来た」

「その口を閉じろダシェント!!

お前だけは許さねぇぞ……」

「何もない奴からの許しなんて必要ねぇよ」


俺はその瞬間、ダシェントの顔面を思い切り握り拳で殴った。

予想外だったのか、ダシェントの顔は目をカッと見開いていた。


「権力に物言わせてるだけの奴よりは、勇気と行動力は持ってるつもりだぞ……。

あと、俺の事を好きでいてくれる奥さんも」

「……チッ、俺を殴った感覚を、しっかりと覚えておけよ。その5倍の痛みを、手前に与えてやるからなァ……!!」

「やなこったな。俺は二度と顔見たくねぇ」

「処すべきですか、旦那様」

「……好きにして良いよ、ツァヴェル」


「それじゃあ、痛覚を頂戴します」

「――――は?」


ふっと手をかざし、ツァヴェルはダシェントから痛覚を奪った。


「へへっ、ありがとうよ奥さん……。ざまぁねぇなリェン!!」

「何言ってるんです?今からあなたをダルマにするっていうのに」

「えっ…………」


顔が青ざめていく。

痛みが無いために、苦悶の叫びはなかった。

が、じわじわと絶望に染まっていく表情、痛々しくも静かな流血に、俺は目を背けた。




性格が酷いとはいえ、村長の孫に手をかけてしまった俺達夫婦。

これからどうしたものか……そう考えていると、彼女がとんでもない提案をして来た。


「ハネムーン、まだでしたね?

ぜひ行ってみたい所があるんです」

「……それは?」

「――――【海底都市ニライカナイ】」


……海の底とは恐れ入った。


「善は急げ、急がば回れ。

焦らず、急いで準備しましょう?

でないと…………ほら、外が騒がしい」


えっ。

俺は窓から外をちらと覗く。

物凄い人数――全村人大集合だろうか――が我が家に包囲網を敷いていたのだ。


「魔女、出てこいや!!」

「出てこないと……後は分かるな?」

「幼妻だから魔女というより魔法少(ry」

「細けぇ事ぁ良いんだよ!」


どうでも良いこと有ること無いこと、なんでもかんでも叫んでいる辺り、この騒ぎが何なのか、彼らの大半は理解していない……?


「……あの方達が行動するのはもう少し後ですから。逃避行は今のうちですよ」

「……そうだな。少し急ごう」


こうして俺達は手早く最低限の持ち物となけなしの貯金を持って、家の裏口から外へ出た。裏口と言っても、家の裏には背の高い雑草が鬱蒼うっそうしげっていて、ほとんど人が通る事はないし、幸いにもここは囲まれていなかったが為に、好都合な抜け穴と化していた。


「……さ、逃げましょう。二人の楽園へ」


雑草畑へ足を踏み入れる。

二人の逃亡劇が、始まる。

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