其の痛みに意味は無く

「お兄様、エリーはどこに行ったのかしら」

そうどこかそわそわした様子で話す幼い少女。

そこに付き添うようにいる青年はやわらかな笑みを少女に返す。


「アンナ、そこまで心配しなくても大丈夫だ」

「雨が降ってきたし、いずれ帰ってくる――と、ほら」


「セルバ!君もいたのかい、おっとこれはお嬢さん…」


クレイスはセルバに駆け寄った後、アンナの手を取り恭しく挨拶した。


しかしアンナは気にも留めることなく、エリーのほうへ向き直る。


「エリー、どこに行っていたの?…ってその男と一緒だったのかしら」

「ああ、アンナ。ごめんなさいね、姉様の墓参りへ行っていたの」

「そうならそうと、伝えてくれれば良いのに……あんな奴と一緒に行かないでよ」

「ふふ。次はアンナにも姉様の面白い話を聞かせてあげるわよ」


アンナは大きく頷いて、エリーの胸に飛び込んだ。


「にしても、僕はどうやら君の姫君に嫌われているようだね」

「そうだな…昔からだしもうどうしようもないだろう」

セルバはそう受け流すが、クレイスは食い下がらない。


「僕だって!かわいいアンナちゃんと仲良くしたいのさ……あっ」

そう言った瞬間、セルバの眼が一気に冷たくなる。ギロリとクレイスを睨みつけ不適な笑みを浮かべた。


「貴様は何と言った?アンナ、と仲良くしたいのかほう」

「しかし、そんな不純な動機だったとはなあ…ふ」

セルバは、腰に携えていた剣に手を置きいつでも、と言わんばかりの形相で話す。


「セ、セルバ!ちょっと待ってくれ!それで斬られたら僕はひとたまりもない!」

「そうだな。それがどうした?」


「大丈夫だ。痛くはしない。一思いに眠らせてやる。」

「大丈夫じゃないよね!?特に僕の命とか!」

そう剣を抜きかけた時―。


「お兄様」

アンナの声で、セルバの剣は鞘へ戻る。

「私、エリーと一緒に書庫へ行って来て良い?」

「勿論だ。……だが、あまりエリヴェルに迷惑をかけるなよ」

「分かっているわ。ありがとう、お兄様。」

アンナは朗らかに笑うと、エリーの手を取り書庫へ向かって走っていった。


「命拾いしたな」

「………すみませんでした」


「ところで」

クレイスは軽く咳払いをして話を始めた。

「君達はどんな用で此処に来たのかい?」

「ああ…そうだな」




「イアレステラの黒魔術の継承……それを今日教えようと思っていた」

「いずれエリヴェルは当主になる。亡きメイヴェル=イアレステラに代わって」

「けれど彼女は何も知らない。」

セルバは淡々と告げる。

魔術が命を削るもの、魔女は命を狙われるものだということも。

「セルヴェン」

クレイスが話を遮り。セルバは目を丸くする。

「ああいや、なんだ……メイはきっとエリーのことを思って言わなかったのだろうね」

「そうだろうな」


「―また…三人で喋りあいたいね、いつかの日のように」


―黒き闇は人をも喰らう。気付かない事すら許されない。

けれど、もう手遅れだったのだ。嗚呼、悲しきかな、その理は。

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Eclipse Requiem 華飴 @drops_rainy

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