第1章 絶対守護絶体絶命 7
大シラン帝国軍は最大戦速で、シラン本星へ向かう小惑星群の側面に回り込もうとする。一次報告では小惑星の数約50であり、大きさは直径10キロメートル級だった。しかし、10キロメートル級の後方に1キロメートルから5キロメートルの小惑星が隠れていた。
小惑星の総数は約200。
高速宇宙艇の偵察結果によると、大シラン帝国軍艦隊の想像通り、小惑星に取り付けられた推進装置の破壊は難しい。
小惑星を掘削して推進装置が埋め込まれているのだ。破壊するには掘削孔の真上から、推進装置の推力を上回るエナジーぶつけるしかない。宇宙戦艦数隻の主砲のレーザービームを集束させれば不可能ではないだろうが、命中させられる位置がとれない。
前方から中間の小惑星を破壊するには、小惑星群の中に入らざるを得ないのだ。それは自殺行為に他ならない。オセロット王国軍は小惑星を誘導し宇宙戦艦を破壊しようとする。衝突を回避しながら推進装置を破壊するのは不可能。しかも通常の小惑星帯と異なり、小惑星群は間隔を密にして移動しているのだ。
後方の小惑星を攻撃するには、大シラン帝国軍2艦隊が回り込むという長距離移動が必要になる。ただでさえ不利な艦隊運用を強いられている大シラン帝国軍は、移動の間に追尾してきたオセロット王国軍の3艦隊によって削りきられるだろう。
選択肢は小惑星の破壊、もしくは軌道を逸らすしかない。
破壊には大量のミサイルを小惑星に叩き込むしかない。しかし、2艦隊が積載しているミサイル全弾を命中させたとしても、小惑星群の2割の破壊が精々だろう。つまり、シラン本星への小惑星群の落下は防げないのだ。
大シラン帝国軍の艦隊司令部は、小惑星の破壊は不可能だと早々に諦め、軌道を逸らし大気圏で弾くシミュレーションを実行した。主砲の攻撃によって小惑星約200の軌道を次々と逸らし、大気圏突入角度を浅くできるとの解析結果がでた。
宇宙戦艦主砲のレーザービームの高エナジーが、小惑星の命中個所を溶解し孔を穿つ。とはいえ、レーザービームが小惑星を突き抜けることなく、孔が穿たれた以外のエナジーは運動エナジーへと変化する。その運動エナジーが小惑星の軌道を変えるのだ。
衝撃によって小惑星から砕け、分離した破片の行き先までは予測不能。大きな破片が大気圏に突入し、シラン星に衝突するかも知れない。
そこで誘導ミサイルの出番となる。
大きな破片は誘導ミサイルで破壊し、なるべく小さな破片にする。そうして、大気圏突入の摩擦熱で燃え尽きさせるのだ。
大シラン帝国軍の絶対守護2個艦隊で、宇宙戦艦175隻、宇宙空母31隻、ビンシー約5千機、グーガン約8千機。
絶対守護の艦隊司令のあるコンバットオペレーションルームから、各艦各処へと作戦を実行のため様々な命令が飛ぶ。
「全艦の主砲管理者へ、主砲の継続発射用意」
主砲のレーザービームを継続発射すると、砲身の冷却が間に合わず歪みが生じる。砲身の歪みが大きくなればなるほど、破壊対象へ向かうエナジーが減少し、砲身へと向かう。最終的には砲身が融解し使用できなくなる。
そのため、冷却が完了しないとレーザービームが発射できないよう制御されている。しかし、その制御を停止させ、砲身を犠牲にしてでも小惑星の軌道を逸らす。
ただ制御停止は、一括で実施できない仕様になっているので、主砲毎に継続発射の準備をするのだ。
「分艦隊毎に対象小惑星の割り当て完了。データ送信。各担当者は確認」
分艦隊は10隻単位。
5キロメートル級までなら1分艦隊で対処可能だが、10キロメートル級の小惑星の軌道を逸らすには、4分艦隊が必要との分析結果が出ている。先行している10キロメートル級の小惑星の軌道を4分艦隊で逸らしてから、5キロメートル級に取り掛かる計画が立案されたのだ。
「副砲。各砲台の判断でオセロット王国軍を攻撃。敵人型兵器は撃破せよ、敵宇宙戦艦へは牽制になれば良い。敵宇宙戦艦は小惑星が破壊してくれるのだからな」
大シラン帝国軍の副砲はレーザービームとレールガンである。敵人型兵器”キセンシ”は主にレールガンで攻撃し、視覚的にも目立つ敵宇宙戦艦はレーザービームで牽制する。敵宇宙戦艦の進攻方向を計算すると、外れた攻撃は小惑星群へと向かう。
「ミサイル班は、大気圏突入の破片を見逃すな。地表に届きそうな破片は、悉く破壊するのだ」
破片であればミサイルで破壊できる。誘導ミサイルなので、まず撃ち漏らさないだろう。
「ビンシー隊は2キロメートル以下の小惑星に取りつき、全ての推進装置を使い軌道変更」
宇宙戦闘機”グーガン”は小惑星を押すのに不向きである。しかし人型兵器”ビンシー”であれば、小惑星の軌道を逸らすために取りつき、押すのが容易である。
「グーガン隊は敵戦艦を自由にはさせるな」
グーガン隊はスピードと数で、敵宇宙戦艦に嫌がらせをするのだ。むろん隙があれば撃破を狙うが、目的は小惑星排除の邪魔をさせないことだ。
各オペレーターは担当している部隊へと指示を出した後も密に連絡をとるため、担当部隊との通信回線をオープンにしてある。兵士たちは戦闘準備の最中、緊張を解す為か戯言を良く口にする。
『小官はヤン大佐だ。全グーガン機に告げる。我らグーガン隊は後方の敵1個艦隊に、全機でグーガンウェブを仕掛ける』
ヤン大佐の台詞に各部隊長たちが、次々と軽口を叩く。
『総隊長殿。嫌がらせは得意であります』
『せめて行動制限と・・・』
『しっかりとグーガンの巣に拘束してみましょう』
『束縛プレイ・・・ゾクゾクしますな』
『恐怖でか?』
『はっ、全く以って下品な連中だ。封家に仕られるぐらいの言葉使いを身につけたまえ』
見下す声色に自然体の気障な言い回し。封家に連なるグーガン機のパイロットが嫌味を口にし、部隊の同僚をいつものようにバカにした。
いつもなら部隊内の空気が悪くなり、誰も話をしなくなるのだが、今回は異なっていた。
『グーガンのパイロットは封家に仕えてる訳じゃねーなぁあ』
『お上品な封家様よぉー、口でなく腕で示せや。敵艦の近くに束縛してきちゃうよ、ボクゥー。恐怖で口も利けなくなるかもなぁ』
『最後は、物理的にも口が利けなくなるかもねぇー』
大シラン帝国の身分制度に亀裂が入り、拡大しつつあったのだ。
幻影艦隊との戦闘で、連敗に次ぐ連敗を喫し、オセロット王国軍には大シラン帝国本星まで進攻を許している。
大シラン帝国は多大な人的損害により、もはや国の形を維持できない状態になってきているのだ。たとえオセロット王国軍を退けたとしても、大シラン帝国の社会制度は崩壊するだろう。その小さな兆しが、大シラン帝国軍の第一、第二艦隊のグーガン隊で顕れていた。
しかし封家の出身でもあり、絶対守護第一艦隊の司令官は、大シラン帝国が続くのを前提としていた。その認識のままで、士気を高め作戦の成功率を上げようと演説したのだ。
「絶対守護第一、第二艦隊。総員に告ぐ。逸らした小惑星の殆どの進行方向は、追尾してきたオセロット王国軍艦隊へと向かう。本作戦はシラン本星を護ると共に、我らをも護る。この戦争での武勲を絶対守護第一、第二艦隊にて、全て独占してやるぞ。そして、大シラン帝国の歴史に、絶対守護第一、第二艦隊の成した奇跡を刻み、我らは永遠に語り継がれる存在となるのだ。兵士諸君、使命を果たせ! 我が大シラン帝国を護るのだ!!」
司令官の演説は将兵の殆どに響かず、大シラン帝国の崩壊は止まらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます