第4章 邂逅。そして脱出 「突然の出会い。これは永遠の友情になるわ」 4

 2時間は与えすぎかな。

 しかし彼らを信用させ、協力させるには充分なコミュニケーションが必要だろうし・・・。

 生まれ育ちの背景が異なり過ぎるから、お互いを理解しあうのは難しい。だが共通の目的を与えれば、それに向かい協力ができる。組織の外部に共通の敵ができれば、内部は固まる。その為に使う時間は、決して無駄とはならないさ。

 琢磨はそう自分を納得させ、ディスプレイとホログラフィーを駆使して説明を始める。

 宇宙には原子等の通常の物質が4.9%、ダークマターが26.8%、ダークエナジーが68.3%の割合で構成されていると推測されている。しかも、一様ではなく偏在している。

 ダークマターにはオリハルコンやミスリルのように良く知られた物質から、未だ性質の解析できていない物質まである。無論、ダークマターだけで構成された知的生命体も存在する。

 周知のとおり、ダークマターは電磁相互作用しない。それにダークマターの多くは、通常物質とは引力干渉と、衝突以外の作用をしない。要は、レーザー兵器はまったく通用しない。ビーム兵器なら、荷電粒子との衝突で破壊は可能なのさ。

 準惑星の防御衛星は、暗黒銀河からきたエルオーガ軍に対抗するため、主砲を改良していてさ。レーザービームに、あるダークエナジーを混合させてるんだよね。因みにダークエナジーにも多数の種類がある。殆どのダークエナジーは、斥力を発生することが知られているかな。オセロット王国の中ではだけどね。

 僕達は主砲で、このダークレーザービームを発射できるように改良したんだけどさ。その所為で発射間隔が大分延びてしまったんだよね。今は連射可能にするのと、小型化が喫緊の課題かな。

 敵は、エルオーガ国。

 まあ、オセロット王国の誰かが名付けたんだけどね。敵種族は、エルフ型と鬼型が存在している。通称”エルフ”と”鬼”と呼んでてね。どうも暗黒銀河には、この種族の他も存在することが判明しているけど・・・今回の敵は、エルフと鬼の2種族だね。彼等種族は共存共栄の関係にあり、エルフは長命で知的、鬼は短命で好戦的という特徴を有している。

 ああ、それと彼等はオセロット王国の敵というより、人類の敵だからね。

 僕達は光・・・つまり電磁波でものを視、音・・・つまり空気の振動で会話する。しかし彼らは、重力波でモノを視、ダークマター”エリアル”の振動で会話をする。

 ただし現時点では、エルフ型と鬼型以外の暗黒種族がどうコミュニケーションを取っているかまでは、分からないけどね。

「ふむ。何故、エルフと鬼なぞと名付けたのか・・・やはり、外見からであるのか?」

 クローの意見にジヨウが反対を述べる。

「どうやって視るんだ、クロー? 重力波測定装置では、詳細な姿までは無理だろ」

「触ってみるのはどうかな~。そうすれば、大体の形は見当つくんじゃないかな~」

 知的な会話は愉しいね。さて、彼らは気付くかな?

「僕達の触覚では、全体像の形を把握するのは難しいね」

「触って、いちいち確認するのは面倒だぜ。ペンキの中にでも漬けこめばイイんじゃねーか?」

 驚いたね。ソウヤ君は意外と賢いらしい。

 ソウヤの適当な意見に、琢磨は即座にお墨付きを与える。

「正解だよ、ソウヤ君。まーペンキの中にいれた訳じゃないけどね。視えないんなら色を付ければ良い。すると僕達にも形が良く解るからね。彼らの姿は、まさにエルフと鬼だったんだ」

 ソウヤたち4人は、唖然とした表情をみせた。

 ソウヤは自分の直感的な答えが当たったことに、他の3人は暗黒種族の姿形に・・・。

「そう別に難しく考えることじゃないのさ。電磁相互作用しないなら、電磁相互作用する物質を表面に塗布すれば良い」

「なるほど。しかし、ダークマターに塗布できる通常物質の調査が・・・」

 ジヨウの考えが言葉となって漏れ出した。その言葉の続きを琢磨が引き取る。

「最初は、かなり大変だったんだよね。だけど塗布できる通常物質を一つ発見した後は簡単だったかな。だけどね・・・どんな事でもそうだろうけど、一番は発想できるか・・・閃くか、が重要なのさ。科学技術なんて、他の分野で当たり前にやってることを自分のやってる分野に応用すれば、即座に解決っていうのが多くあるからね。今回は、模型作りが趣味の研究員が色を塗ることを思いついたのさ。しかも、ダークマターの材質ごとに色を使い分けようとの提案だった。この提案が、なかなか良かったな」

「そうか~、直感は重要なんだ。直感力ならソウヤだね~」

「こういうのは、やはりソウヤだな」

 ジヨウは呆れ成分を多めだった。そしてクローは皮肉成分を多めに込める。

「ふむ。さすが直感力だけの男だぞ、ソウヤ」

「クロー。テメーだけ、褒めてねーぜ」

「アタシの下着姿を覗いたのも、その直感力だった訳。下劣な直感力だわ」

「ざけんな! そんな直感力あるか!」

「ソウヤ君には、その直観力で、キセンシを操縦してもらおうかな。覗きの罰としてね」

 “キセンシ”は、オセロット王国軍の主力人型兵器である。

「パパ!」

「うむ。ならば、我も覗かねばなるまい」

「恵里佳さんでも良いのかな?」

 決意を語ったクローに、相手の変更を要望したジヨウ。

「ジヨウにぃ~。クロー~」

 レイファは、笑顔で口から甘い声音を響かせているのだが、不思議なことに妖しい雰囲気が漂ってきた。

 なかなか、どうして、個性豊かで愉快な4人組だね。シラン帝国の少年少女は、みんな逞しいのかな? それとも彼等が特別なのか・・・。

「我は、キセンシを操縦するために・・・」

「俺は、ちょっと訊いてみただけで・・・」

 ああ、とりあえず普通の少年の一面はあるらしい。ならば、父親としての発言をしてみようかな。

「僕は、恵梨佳と遥菜の父親なんだけどね」

 ジヨウとクローは、2人揃って俊敏に頭を下げる。

「「すみませんでした!」」

 目上の人に礼儀正しく対処できるのは、大和流古式空手での修行の賜物だった。

 そうか・・・ある程度は良識を持っているのなら、大丈夫かな。それならダメ元で、全員参加でも構わないさ

「ちょうど4機あるから、4人仲良く遥菜の元で、心身共に特訓してもらおうかな」

「機体性能が同じなら負けないぜ」

 キセンシとエイシは、違う機体で性能も異なるのだが、ソウヤはそこまで知らなかった。

 ソウヤが遥菜を見ると、突き刺すような強い視線で彼女が睨んでくる。遥菜の佳麗な顔で睨まれると、表情に凄みがある。だが、そんな表情をしていても彼女は眩い美少女だった。

「心が折れるくらい徹底的に鍛えてあげるわ」

「芯の強さには自信があるぜ」

「なら、ひき潰すわ。ミンチにしても売れないだろうし、食べられないでしょうけどね」

 眼は笑っていないのに、遥菜は凄く良い笑顔をみせた。それは相手に、冷汗を強制的に流させる凄みのある笑みであった。

 ああ、ボクの娘ながらに怖ろしいことだ・・・。間違いなく母親の血を受け継いでいる。


 琢磨がソウヤ達に出会って、3日が経過した。

 現在アゲハは、準惑星の重力圏の影響範囲から離れ、境界突破航法装置“マーブル1”の近くに停止している。

「さてジヨウ君、手順通りに始めてくれないかな」

 ジヨウの顔が強張り、緊張に手に汗を握っている。

「はっ、はい。了解しました」

 ジヨウはこの3日間で、すっかり琢磨の助手と化していた。

 琢磨は、準惑星から脱出する為の準備をしながら、ジヨウに様々な情報を提供してみた。

 驚きだったな。彼は兵士とかリーダーというより、エンジンアとか研究者の資質が多いようだ。優秀さと技術に対する真摯な姿勢は、高評価といえる。だからマニュアルと共に、作業を徐々に任せていく。・・・というより、押し付けていった。

 オセロット王国と大シラン帝国は、言語体系が異なる。しかし電子機器や機械の仕様、コンピューター言語などの技術標準は、事実上オセロット王国製に準拠されている。これもジヨウに作業を手伝わせるのに功を奏した。

 天の川銀河系”ペルセウス腕”に位置する国の中で、オセロット王国が科学技術や研究分野で圧倒的に、かつ最先端を独走している。

 ちなみに天の川銀河系は、銀河中心から伸びた渦状腕が存在する棒渦巻銀河であり、ペルセウス腕は太陽系が存在するオリオン腕の隣である。六千光年以上離れているので、オリオン腕の科学技術交流がなく、どちらの技術水準が高いかは判らないのだが・・・。

 アゲハのコンバットオペレーションルームに宇宙船の全乗員7名が揃っていた。

「気軽に行こう、ジヨウ。設定した命令を実行するだけの簡単なお仕事なんだぜ」

 今からジヨウが実行しようとしているのは、準惑星にあるマーブル軍事先端研究所の研究施設と、最新武装に換装された防衛衛星を破壊する命令だった。

「ふむ・・・。いいや、ソウヤよ。あそこには軍事機密が満載なのだぞ。故に、確実に精確に撃滅せねばならん」

 研究施設や防衛衛星には、都合よく自爆装置など存在していない。何より、自爆装置がある施設や設備で働きたい者はいないだろう。

 ジヨウが実行する命令は、第一段階で無人防衛衛星が研究施設を攻撃し、破壊する。第二段階で、衛星の姿勢制御推進装置で移動し、他の無人防衛衛星を攻撃し、破壊する。最終段階で、残った無人防衛衛星自体を、準惑星に突入、衝突させ破壊する。

 これだけの施設を破壊すると聞いた時、ジヨウの表情は引き攣り、ソウヤは太々しい笑みを浮かべ「愉しみだぜ」と言い、クローは「どれほどのものか、確認してやろうぞ」と嘯いた。最後に、レイファは「ふ~ん、お風呂入ってくるね~」と言ったのだった。

 一番肝の据わっているのは、レイファちゃん・・・かな?

 単に興味がないだけかもしれないが・・・。それはそれで、興味深い人柄ではあるね。それとも自分に出来ることはないと達観しているのかな。

「さあ、ジヨウ君。君の手で、オセロット王国の最先端科学技術の塊であるマーブル先端軍事研究所を闇に葬るのだ。そう、中途半端は一番良くないことだね。だから夢と希望と今後の生活をかけて、この研究所に集まった研究者達の未練を断ち切るために、完全なる無へと帰せしめるのだ」

「琢磨さん。何か愉しそうに聞こえるんですけど、気の所為ですか?」

 ジヨウ君は、微妙に震える声で非難の言葉を発したが、ボクは全く気にならない。

「それは気の所為だね。僕はマーブル軍事先端研究所の所長なんだから、そんなことないさ。さあ、ジヨウ君。君の手で実行するんだ。さっさと済ませてしまおうか。今後はアゲハの管制コントロールにキセンシの装備の換装方法、何よりもボクの研究開発を手伝ってもらうんだからね。ボク達がここで、停滞している暇はないのさ」

 ジヨウは表情を引き締め、力強く返事をした後、コマンドを発する。

「CAIコール。実行命令、マーブル秘匿作戦」

 決意さえすれば、落ち着いて作業を遂行する能力がジヨウ君にはある。考えすぎるが故、周囲を説得しようとするが故、弱腰に見える時もあるが・・・。ボクの仕事を手伝わせるに値する人材だろう。

 しかし、それは琢磨の見立てが間違っている。ジヨウの近くに、行動力過多で直感力優先のソウヤと間違った方向に正しく振る舞うクローが、比較対象になっているからだ。

 メインディスプレイに、作戦実行を促す表示がされた。

 ジヨウが、ルーラーリングからコネクト経由で、アゲハのシステムに命令の実行を許可する。

 重要なコマンドは、声だけで実行するのは不可能になっているのだ。声は簡単に模倣できるが、ルーラーリングは生体情報のチェックをしていて、他人への成り済ましが不可能なためだ。

 ジヨウが作戦を実行した瞬間から、音のない世界で光の饗宴が3時間に及び繰り広げられた。

 ソウヤ、クロー、レイファ、そして遥菜は展望ルームに移動して、絢爛華麗で、様々な色の光の乱舞を存分に楽しんだ。

 その間、恵梨佳とジヨウはデータ収集チェックに追われていた。そして、恵梨佳とジヨウの実施している定型的作業以外は、琢磨がすべて担当していた。

 準惑星の周囲には帝国軍、幻影艦隊との戦闘の影響が色濃く残っていて、無数のデブリが浮遊している。そのデブリが防衛衛星の進路を妨害したり、情報収集通信衛星のデータ採取の邪魔をしたりしてイレギュラーがかなり発生していた。それらのイレギュラーに対して再計画と再計算に再調整、実行を琢磨が一人で実施していたのだった。

 光の饗宴が終了したあと、コンバットオペレーションルームにソウヤたちが戻り、コーヒーブレイクとなった。

「凄かったぜ。特に最後の準惑星への衛星落としが・・・」

 ホログラフィー表示用円卓を囲んでの会話は、自然とさっきまでの衛星破壊になっていた。

「まったくだ。我は公転している準惑星が軌道を変える瞬間を初めて見たぞ」

 男子の感想はひたすら破壊に関してで、女子の感想は光の光景についてある。

「すっごい光だったね~」

「光の色が素晴らしかったわ。複数の光線の交わりによって織りなす光の道が出来て、どこまでも歩いていけるみたいで・・・」

 そして琢磨達の会話は、感想ですらない。

「この船には、君の知識欲を刺激し満足させる情報があるね。それこそ人生を何度繰り返しても、目を通せないほどあるかな。しかも、研究開発の設備も併設してあるのさ。どうだい、僕の助手をすれば、この銀河の最新技術と最先端研究成果に触れられるようになるんだよね」

「いいんですか?」

「無論、構わないさ」

「やらせてください、お願いします」

 良し、言質は取った。

 存分に能力を振るわせてあげよう。それこそ限界ギリギリまで、頭脳を酷使してあげるさ

 琢磨は心の中で悪人の笑みを浮かべたが、もちろん表情には出していない。

「お父さま、ジヨウ君。そろそろ境界突破航法の予定時間です」

 琢磨とジヨウの会話に恵梨佳が割り込み、ソウヤが質問をする。

「他にも衛星が残ってんぜ。あれはいいのかよ」

「あれは旧型の情報収集通信衛星だから破壊するまでもないさ。重要なのは、この研究所の最新研究成果だからね。それではジヨウ君、予定通りにしてくれないかな」

「はい。境界突破の準備に入ります。琢磨さん、恵梨佳さん、遥菜さんは席に座ってください。レイファも適当な席に。クロー、ソウヤ・・・は、どうでもいい」

「意味が分からんぞ」

「なんだ、それ」

「お前らは、少しぐらいの揺れじゃ転ばないだろ。転んだとしても、俺は気にならないしな」

 続けて文句を口にする2人を無視して、ジヨウは準備を進める。

 さすが直感力に優れたソウヤ君だ。指摘された情報収集通信衛星は、旧型である。そう嘘はついていない。

 しかし、その情報通信衛星は索敵衛星であった。

 敵にとって有益な情報の塊で、研究所の所長でもあった琢磨が、その価値を知らない訳がない。そして、それを帝国軍が見逃すはずもない。

 索敵衛星には、ソウヤたちがアゲハに乗船してオセロット王国に向かうという情報が、映像などで残っている。琢磨は、彼らが大シラン帝国軍を裏切ったという情報をワザと残したのだ。

 これでソウヤたち4人には、大シラン帝国に戻るという選択肢が消滅した。

「CAIコール、実行命令、時空境界突破」

 ジヨウの命令で、アゲハは時空の境界を越えマーブル星系からオセロット王国へと旅立った。

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