第4章 邂逅。そして脱出 「突然の出会い。これは永遠の友情になるわ」 3

 ジヨウとクロー、レイファがアゲハの外までソウヤを迎えにきていた。

「ビンシー6のチェーンソーブレードが通用しないとはな」

 ジヨウはソウヤに気を遣い、負けたのをチェーンソーブレードの所為にした。

 その気づいが解っているから、ソウヤも軽い調子で返す。

「まいったぜ」

「びっくりだよね~。切断されちゃったねぇ~」

「ふむ、まさか・・・貴様のビンシー6のチェーンソーブレードが、飾りであったとはな」

「んな訳あるか。それにしても、腕をアッサリと斬り落とされっとはな・・・」

 ハルナ機に斬り落とされたビンシー6の腕へと、ソウヤは顔を向けた。装甲の切り口に視線をゆっくりと這わせた途端に、背筋が凍りつく。切断面が滑らかで、反射光が眼に入ったからだ。

 武器だけでなく、機体にも圧倒的な性能差があるのをイヤでも理解させられた。

 あの切断面は、刹那の間にビンシー6の腕を黒刀が駆け抜けたからこそ可能となる。それに人型兵器が達人の如き、動作をしなければ不可能である。

「でもね。ビンシー6が最大加速で飛び込んだ時は、期待感あったよ~。ウチ、ソウヤが勝てるかも~って思ったもの」

「ふむ、あの戦法は良かったぞ。結局、貴様は負けたが・・・」

「ああ、ソウヤはビンシー6の性能を限界まで引き出していたな。敗北してしまったが・・・」

「ちょっとの差だったと思うよ・・・ウチ的には。でも、勝てなかったけどね~」

「駆け引きは、オレの方が上だったんだぜ」

「そうだな、わざと議論をヒートアップさせて、実際に人型兵器を使った対決に持って行ったからな。遥菜さんの分かり難い説明からでも、武器性能は差がありすぎて勝てないとは理解できていた。総合勝負に持って行ったのは流石だ、ソウヤ。まあ、敗北してしまったが・・・」

「うむ、それは認めようぞ。貴様の直感が、勝負になるところまで持っていったのだ。だが武器性能だけでなく、機体性能も向こうが上であったのだ。それらを総合して評価すると・・・。貴様は敵戦力を見誤り、良いところなく無残にも敗れ去ったということだぞ」

「でもね、玄人受けする立ち合いだったと思うよ~。そう、一瞬も気を抜けない勝負だったよ。勝負は一瞬で決まっちゃったけどね~」

「テメーらぁあぁああーー」

 握り締めた拳が怒りで震える。だが、怒りのぶつけどころがなかった。

 3人ともソウヤの作戦も、駆け引きも、すべて理解した上で、傷口を拡張して、満遍なく塩を塗りたくってくる。

 ジヨウが恵梨佳から貸りた掌サイズの平面型のコネクトに、呼び出し案内が届いた。

「琢磨さんが全員を呼んでる。アゲハのコンバットオペレーションルームに行こう」

 ジヨウはコネクトのナビに従って、ソウヤたちをコンバットオペレーションルームまで導いた。

 こういうリーダーシップ・・・それが雑務に近ければ近いほど・・・はジヨウが適任だぜ。

 ジヨウを信頼している割には、失礼過ぎることをソウヤは考えていた。

 さっきの立合いの再シミュレーションは、コンバットオペレーションルームに着いてからすればいい。間違いなく遥菜と言い争いになるだろうから、精神的な余裕を確保しておこうと他のことを考えていたのだ。

 部屋に入ると琢磨と遥菜がいなかった。

 肩透かしを食らわされ、ソウヤは遥菜のことを恵梨佳に尋ねる。

「自分の部屋にいますよ。もしかしたら、来ないかもしれないですね。話し合いなら、お父さまと私がいれば済みますから」

 それじゃあ、パイロットとしての遥菜の技量が分からねぇ。

 情報収集はジヨウの得意分野だから任せるとしても、立合った相手がいなければ、入手できない情報もあるんだ。

 負けを認めるざるを得ない。今は・・・。

 だが、2度は負けない。

「ジヨウ、それ借りるぜ。それと、会議始めんのは、ちょっと待っててくれ」

 ソウヤはジヨウからコネクトを奪い取り、コンバットオペレーションルームを飛び出す。

 コネクトの指示通りソウヤは遥菜の部屋へと駆ける。3分とかからずコンバットオペレーションルームから遥菜の部屋の前に到着した。

 遥菜の部屋はここで間違いないな。

、ソウヤは確信していた。

 理由は単純で、ドア一面に様々な花が描かれ、視線の高さにオセロット王国語で”はるな”と書かれていたからだ。

 ドアの前で一瞬躊躇する。たが、アゲハに乗る全員が生き残る為に、これは必要なことだ・・・。

 ソウヤがドアへと一歩踏み出すと、扉が自動で左右に開いた。靴脱ぎ場があって、部屋用サンダルが1つ用意されている。

 これは、オレが来ることを推察してたのか?

 遥菜もオレとの対決・・・いや、会話を望んでいるのだと、直感で理解する。

 それならば、遠慮することはねぇーな。

 サンダルへと履き替え、奥のドアへと歩を進める。

 廊下のドアと同じように両開き扉が左右に開くと、広い部屋の中央に遥菜が立っていた。

 遥菜は頭にタオルを巻き、体には淡い緑色の可愛いレースをあしらった揃いのブラとショーツのみ。その姿で左手を腰にあて、右手で瓶に入ったコーヒー牛乳を呷っていたのだった。

 女子的には、2重の意味で恥ずかしい姿を晒していた。

 しかも、会ったばかりの男子に・・・・。

「きゃあぁ、出ていけ、バカァー。何、考えているのよ。死にたいわけ?」

「死にたくねーから、来たんだ!!」

 オセロット王国に辿り着くために、全体の戦闘力は、高ければ高いほどイイに決まってる。

 だから、オレは強くなる。

 それには原因分析と対策が絶対に必要なんだ。

「なんで、まだいるわけ!? 早く出ていけぇー」

 決意に燃えているソウヤは、叫ぶようにして声をだす。

「話を聞け!」

 しかし視線は、遥菜の瑞々しくキメ細やかな肌に吸いつき離れない。

「後にすればいいでしょ!」

 それは・・・そうだな。

 頭が少し冷えたソウヤは、思考を巡らせる。しかし視線は、遥菜の下着姿から外せないでいた。落ち着いてきたからこそ、彼女のスタイルの良さがわかる。

「アナタ自殺志願者な訳?」

 透明感のある心地よい声に、剣呑な雰囲気が宿り危険な香りを漂わせていた。

「おっ、おう。コンバットオペレーションルームで待ってんぜ」

「いいから出ていけー」

 遥菜は言葉と共に、コーヒー牛乳が入っている強化クリスタル製のボトルを投げた。

 反射的に、ソウヤはボトルを弾き飛ばし、大和流古式空手の構えをとる。

 構えが彼を真剣な表情にし、遥菜の眼と全身に視線を定め、いつでも立合い可能となった。

 ただ、遥菜の立場からすると、それは全身に視線を這わされているようなものだろう。

 遥菜の眼が妖しく光り、姿が陽炎のように揺らいでいる。

 自分の直感を信じ、ソウヤは脚に全力を注ぎ、部屋の外へと無事に飛び出す。

 部屋用サンダルの時は、直感が外れた。

 しかし、今度の直感は当たったようだった。


 ソウヤが遥菜の部屋を電撃訪問してから約10分後、アゲハのコンバットオペレーションルームに全員が集まっていた。

「出会ってから4時間と少々・・・。仲良くなるのが早すぎるかな。父親としては、もう少し相手の中身を見てからにして欲しいな、遥菜」

 琢磨の口調に怒りの成分が感じられなかった。

 ソウヤにとっては、それが怖いような、有り難いような、複雑な気分に陥る。

 未だに遥菜の下着姿が瞼の裏に焼きついている。父親からだったら2、3発殴られても、収支的にはプラスとなる気がするし、覚悟もしていた。

「ソウヤは口先だけじゃないんだから~」

 小声で反論するレイファを、全員が丁重に無視して会話を続ける。

「アイツを宇宙に放り出してやりたいわ。いや、出すわ」

「遥菜。なぜドアが開いたのかな?」

 琢磨の台詞の意図が掴めなかったようで、遥菜は意味が分からないとの表情をみせる。

「・・・・? あっ」

 遥菜が斜め下を向いた。その視線は定まっていない。何かに気付いたらしい。

 それに追い打ちをかけるように琢磨が言う。

「ルーラーリングの説明もせず、アゲハ内での制限設定もせず渡してしまった。人型兵器同士の立合いでは、薄氷を踏むかのような勝利を飾った。それが嬉しかったのかな? それとも疲れたのかな? どっちかは判らないけどさ。部屋に戻って汗を流したかったから、それを優先した。2回はあったチャンスを見逃したんだよね?」

 ハッキリわかった。怒りの成分が無いのは、娘の浅はかな行動に呆れていたからだ。

 遥菜は先ほどまでとは別人のように、身を縮めて、か細い声で返事をする。

「は、い・・・」

「ジヨウ君たちに話しておくけど・・・。遥菜は頭が良く、非常に良くできた娘なんだけど、少々頑固で、活発すぎるんだよね。まだ15歳だから経験不足による暴走は仕方ないのさ。とはいえ・・・」

「15歳!?」

 ジヨウが驚愕の声を上げた。

「ジヨウ君、どうかしたのかな?」

 ジヨウ、ソウヤ、レイファ、クローが次々と本気で否定の言葉を投げかけた。

 それが余程不本意だったようで、遥菜は口を尖らせながら意味のない反論をする。

「どういう意味よ? アタシが15歳だと何かいけない訳?」

「年上じゃなく・・・。同い年かよ」

「あなた15歳なの?」

「ソウヤとクロー、それにレイファは15歳で、俺は17歳だ」

 ジヨウが歳を紹介すると、琢磨が軽い感じで恵梨佳の歳をばらす。

「因みに恵梨佳は18歳なんだよね」

「ウ、ソ・・・。ウチ・・・てっきり20歳以上かな~って・・・・・」

 ソウヤとクローは絶句し、ジヨウがボソリと呟く。

「俺は、22歳ぐらいだと思ってた・・・」

 ジヨウとレイファ兄妹の台詞に、恵梨佳の表情が険しくなっていく。

 恵梨佳が口を開く前に、琢磨が提案する。

「丁度良い機会だから、君達に船のこと。敵のこと。武器のこと・・・。いろいろ説明しておこうかな。どうも、娘たちに任せると、年が近い所為か君たちと反発してしまうようだからね。ここは僕の出番・・・。よし、説明しようか。うん、説明しようか。さあ、ここからは一言たりとも聞き逃してはいけないからね。僕の貴重な時間を割くのだからさ」

「それは俺たちにとっては願ってもないこと。お願いしてもイイですか?」

 ジヨウは真摯な声で依頼した。唯一、この集団を纏められる人物に丸投げできるのだから。

「お父さま、時間は大丈夫ですか?」

「後、2時間ぐらいの余裕はあるさ」

 情報は多ければ多いほどイイんだぜ。琢磨・・・色々と疑わしいが、時間がないのことはホントらしい。

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