第31話 じいちゃん神王になる

 黒船から、ボートが降ろされました。

 ゆっくり海岸に近づいて来ます。


 1853と呟いた声が、ワトさんには聞こえたようです。

「カメさん、何?」

「イ、ヤ、ゴ、くろう、サン、ペリー君」私の世界での黒船来襲の年号!

 昔覚えた事は、条件反射的に出てくる!


 呑気に話している内に、アイン皇帝一行が到着しました。


 ルナが皇帝目掛けて、走り寄ります。

「ルナ姫、元気そうで何より!安心した!」

「皇帝陛下、全ては此方のツルタ侯爵の、お陰です!」

「ご覧の通り、全員無事で御座います」


 アイン皇帝は、相当な覚悟で挑んだ事が、和やかな同族に迎えられ複雑な心境ながら、にこやかに話し掛けます。


 但し、少しの意地を込めてなのでしょう、魔人語でした。

「私はツベル帝国、皇帝アイン!」

「私の婚約者、並びに他の者も世話に成った、礼を言う!」


「ご丁寧な挨拶、痛み入る!」

「私はツルタ侯爵、此方は婚約者、ワト」


「流暢な魔人語の挨拶、侯爵殿は只者では、御座らんな!それにワト?婚約者?ワト神様と同じ名とは・・・この国は変わっておるな!ツベル帝国では、その名は不敬!」


「アハハッ!ゼンナでも、私以外名乗る者は居ないよ!」


「皇帝陛下、ワトさんは、女神様ですので、1億年はワトを名乗って居ますよ」


「ホホオッ!侯爵殿に取っては、女神様であるか?誠に仲良き事で、良い夫婦になるで在ろうな!」


 ルナが小声で⦅皇帝陛下不敬です!ワト様は真実神!⦆


 アイン皇帝はルナの小声が、不敬しか聞き取れず、このワトと言う者は、王族か余程の実力者なのだろうと、解釈し丁寧に接する方が得策と考え、言葉を改めるのでした。


「ルナ、話したい事は山程あろうが、後程ゆっくり出来る!皇帝陛下は、まずはゼンナ王に会って貰う!ご一行も宜しいか?」


「ルナは、皆を連れて侯爵領に帰って居てくれ!後程、陛下をお連れする!」


「ミメ男爵は、悪いが私と同行してくれ!」



 ゼンナ王から、あまり嬉しく無い権限を貰い、直ぐにミメ、ホミ、ゴン、ララア、ケイト、タツノ、コポに男爵を、キサ、エルナ、ルヒト、ルドフ、レリハに准男爵を、エシム達5人の従者には騎士爵を与えて置きました。


 爵位を与えられ、大喜びしたのは従者達だけでした。


 爵位を与えたのは、人間の詰まらない貴族が王に謁見が出来るのに、私の領内の町長が、控えの間止まりはあり得ない!との思いからです。

 ミメは私の第一秘書!何処にでも同行出来るようにしました。


 あえて、魔人語で指示したので、ミメ男爵と聞き、皇帝が驚いていました。



 王宮に到着、門番は私達を見て慌ててひれ伏し「カメ魔神様!ワト女神様!お通り下さい!!」


 門番が、何を言っているか分からずとも、尋常で無い態度にツルタ殿は余程の権力者なのだろうと思う皇帝でした。


 王の謁見の間まで、勝手知ったる、フリーパスで通ります。



 謁見の間、玉座の国王は、私とワトさんを見て、転げ落ちるように降りて来て

「カメ魔神様!ワト女神様!」と、ひれ伏します。


「王様、其では話が出来ません!立って下さい。ツベル帝国、アイン皇帝をお連れしました」


「カメ魔神様!私は王位を退任します!」

「いや!待って!ゼンナ王」

「人の世は人が統治すべき!私は口出ししません!どうか立って下さい!」



 何が起こり、どうなって居るか、さっぱり理解出来ない皇帝ですが、国王が平伏して話をする、ツルタと言う老人は、いったい何者なのか?

 自分はどう対応するべきか、迷った末多少人語が理解出来る、通訳として同行させた者を思いだし、小声で呼び、どうなって居るのか聞くのでした。



「カメ魔神様!では、こうします!私ゼンナ王は、このまま在位しますが、私の上に全権王として、魔神様は侯爵で無く神王を名乗り、我ら全てを家臣として下さい!」


「私は、恥ずかしながら魔人語を解しません。講和がどんな結果に成っても、家臣である我らは何も、不服は申しません!」


「どうか、神王様全権を託します!魔人との講和の件、何とぞ宜しくお願い致します!」



「ワトさん、どうしよう?」

「カメさん、引き受けて!私の思い通りよ!」


「ああっ?ワトさんの爆弾発言で、すっかり忘れてた!王が逃げて、私が全て執り行う、でしたっけ?」


「神王を名乗って、美味しい所取りしたら?普通の雑事は、ゼンナ王にさせて、うふっ!」


「其に、カメさん、この国ではもう、普通の暮らし出来ないよ!カメ魔神様だもんね!早く講和とか、終わらせて、ツベル大陸に一緒に行きましょ!!」



 一方小声で話す、通訳と皇帝は、通訳が拙いため、「何か仕切りに神の話をしているようです」と、告げられたアイン皇帝は「ゼンナ王国は宗教国であったか?」

 勝手な解釈で、納得するのでした。

 ツルタ殿は国王より、権威を持つ神官なのであろう!

 そう見れば、服装も見た事が無い変わった物だ!


 待てよ?同じ服を獸人が着ていたような?



 アイン皇帝を案内し、会議室に向かいます。

 ゼンナ王と重鎮が恐る恐る付いて来ます。



 互いの不可侵条約を結び、一応ですが講和は無事終結しました。


 交易等は次回、情勢が落ち着いてからと決まりました。

 今の状態で交易を決めると、一方的にツベルの商船が訪れて、一方的な不平等貿易に成る事が、目に見えて居ます。


 ゼンナの希望は大陸間を、無補給で進める蒸気船の輸入。

 其に、大陸横断鉄道を開通させる技術協力。


 2件の代貨は、ミスリルインゴット50K、アルミニュウムインゴット20Kでの支払いで良いそうです。


 ずいぶん安価な見積りのようですが、ドワーフのレリハ達が造り上げた、ジュラルミンとは全く違う性質の新合金!

 アルミニュウムに銅で無く、少量のミスリル、マンガン、マグネシュウムで出来た合金を彼女達は、オリハルコンと名付けました。


 このオリハルコンの剣、折れず曲がらず良く斬れる!

 魔力も良く透る!


 ルドフが金銀で装飾を施した、オリハルコン製の剣を皇帝に贈った事に寄ります!


 皇帝はツベルに少量しか産出しないミスリル、アルミニュウムに至っては見た事も聞いた事も無く、その合金オリハルコンに非常な興味を持ったようです。


 アルミニュウムとミスリルで、かなり有利な貿易になりそうです!




 黒船艦隊の対応も、押し付けられ、ツルタ侯爵領改め、神王国ツルタ市西港に停泊して貰う事になりました。



 歓迎の宴では、タツノ以外私の指示悪戯で、代表者の殆どが人化を溶いて居て

 そんな異形な亜人が、流暢な魔人語で挨拶して来るのに、驚きを隠せない皇帝が笑えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る