第二十三話『試合』


「つまらん。退屈だ」

「…………、はぁ……」


 わかっていたことだ。コイツがこう言うのはわかっていたことだ。

 俺は後ろでブツブツと小言が増え始めたアリスを他所に、思いを馳せる。

 

 杏に任された【魔女】の相方調査は難航を極めた。

 そもそもの話、手がかりゼロに等しい人間を校内から探し出すなんて、土台無理な話だ。

 日曜日。休日の校内と言えど、部活動に勤しむ生徒や委員会に参加する生徒、図書館塔自習室を使用しての自主的勉学に励む生徒。その他用務員教職員などなど、平日の比ではないとは言え、現在校内に存在する人の数はかなりの人数にのぼる。

 その上我が校のグラウンド、体育館は他校と比較してもそれなりの広さがある。ゆえに夏休みを翌々日に控え、各種スポーツの地区予選が行われている本日のような日には、もっぱら格部活の試合会場として用いられることが多い。

 そのため休日には本校生徒のみならず、他校生など外部の人間の出入りも多くなる。

 結果として、人間の出入りが複雑となる今日のような日に何の手がかりもない人間一人を見つけることなど、砂漠の中から石ころを見つけるよりも難しい。というか無理だ。不可能だ。


 とまぁそんなわけで、俺たちが今やっていることといえば、校内の巡回。パトロールが関の山で、魔女の契約者を見つけて大捕物、なんて派手なことは出来はしない。

 当然と言えば当然の流れで、仕方のないことだ。情報において後手に回っている以上、いくら言っても仕方がない。

 

 だがしかし、それを面白く思わない者がいる。

 もちろん俺もその一人ではあるが、ここに座す天下無敵のお嬢さまはそれ以上なのだろう。


「おい、暇だぞ人間」


 俺は二度目のため息をを堪える。

 杏に手がかりがないといわれてから、こうなることは予想していた。

 退屈と倦怠を嫌い、不思議と未知をこよなく愛する金髪碧眼のお嬢さま・アリスが、平穏こそを確かめるこういった作業を好まないのもわかっていた。


 だが俺にも策はある。

 そうでなければ、こんな面倒事を二つも背負い込むことはしない。

 それにこれならば、俺が抱えるもう一つの議案も解消される。


「ああ、わかってる。だから黙ってついてこい」


 俺がそう言うと、アリスは頬を膨らませ、露骨に怒りを露わにする。


「先刻もそう言っていたが、一体いつになったらわたしの退屈は晴れるのだ」

「子供みたいなことを言わないでくれ。ほら、アメあるぞ?」

「いらん! そんなものでわたしの機嫌がとれると思うな!」

「でも食べるのな……」


 アリスはさっき買っておいてペロペロキャンディ(見栄え重視の毒々しいカラー)を乱暴に受け取ると、しかめっ面のまま舐め始める。


「まったく……。お前がわたしを退屈させぬというから契約を結んだというに、こうも暇だと向こうに帰ってしまうぞ」


 アメを舐めながら愚痴をこぼす英国少女という、なんとも奇妙な絵面に苦笑をしつつも、俺は徐々に聞こえてくる喧噪に目的地への近さを確認する。


「わかってるって。それにほら、言ってる間についたぞ」


 開け放たれた寮扉をくぐると、そこはなかなかの広さを持った茶色の空間。ウレタン塗装の床を擦るシューズの音に、反響するボールの反発音。響くかけ声。周囲から聞こえる黄色い声援。うちの学園の第一体育館だ。

 それを見たアリスの口からは、簡単の響きが漏れる。


「おお……! なんだここは。随分と人がいるのだな。祭りか何かか?」

「ああ。間違ってはいないかな。うちの学園では、スポーツの試合も祭りみたいなもんだしな」


 アリスは目に見えて顔を輝かす。

 こういう時ばかりはうちの校風に感謝したい。

 先も述べた通り、うちの学校は休日でも多くの人間が利用する。その最たるものが試合の観戦だ。

 ただ、先の出店でも説明したように、うちの学校では一団体につき一つ出店を出すことを許可されている。その出店が出張と称して、こうして売り子を派遣してくるのだ。そしてそれは普段出店を出していない部活も例外ではなく、試合の盛り上がりに常時、臨時資金にと何かしらの物品を販売しにくる部活も多い。

 結果として、校内で行われている試合など全てのイベントは、学校側暗黙の興業として成立しているというわけだ。


「祭り……、祭りか。これが日本の祭りなのだな!」

「あ、いや、これは日本の祭りとは少し違うんだが――」

「おお! あれはなんだ?!」

「聞いちゃいない……」


 俺の説明を聞こうともせず、アリスは周りで販売しているものに目を奪われる。


「追い人間、あれはなんだ!」

「ん? ああ、あれはフランクフルト。ソーセージだな」

「ソーセージ! 姉様方が一度話されていたぞ。じゃああれは」

「あれはわたあめだな」

「アメ?! あれでアメなのか? 固形ではないぞ。どころか雲だぞあれは。何をどうやって雲を……」


 などと、アリスは初めて縁日に来た子供のようにはしゃぎ立てている。

 いや、あるいはそうなのかもしれない。

 【妖精】に過去があるのかはわからない。物語が繰り返される、終わりのない世界。アリスは【妖精の園】を指してそう言った。だと言うのなら、アリスの言う記憶は過去ではなく、そういった『設定』なのではないか。ならば【妖精】は――。


「ん? どうした、人間?」


 そんなことを考えながらアリスを見つめていると、不思議そうな顔でアリスが覗き込んでくる。


「ああ、いや。なんでもない」

「? そうか?」


 アリスは怪訝に眉を捻るが、すぐ顔をパッと明るく返る。


「それよりも、あれだあれ。あれが欲しいぞ人間」

「おいおい。あんまり高いのはよしてくれよ」

「ケチ臭いことを言うな。祭りなのだぞ」


 それは一理あるが、一学生の財布を甘く見ないでほしい。アルバイトだってあまりしてないんだから。


「まずはあれだ。かきごおりというやつだ。昔本で読んだ南極の氷山というものに似ている。おそらく、南極から持ってきたものに違いない」

「そいつは、また高そうなものだな」


 そんな風に、俺がアリスに引っ張られながら出店の方へ向かっていると、辺りの喧噪が徐々に止んでいく。


「む?」

「お」



 ピーーーーーーーーッ!



 俺とアリスが周囲の変化に振り返ると、館内の中心からホイッスルの音が鳴り響く。

 試合開始の合図だ。


「おお。何か始まったぞ、人間」

「ああ。バレーの試合だよ」

「バレー? この国の球技か?」

「あー……、ま、そんなことろだ」


 説明が面倒になって、とりあえずテキトーに答えておく。


(お)


 そんな中、俺はある選手の姿を見つける。

 八重だ。

 八重はうちの学校のユニホームである紺色のウェアを着て、コート上に立っていた。

 ボールが長身の選手の頭上へと綺麗に上がり、それを選手がネット際へトスを上げる。鋭く上がったボールの先には敵も味方も、誰の姿もなく、素人の俺にはそれが単なるミスに見えた。

 だが違った。一秒に満たない一瞬先。ネットの端へと上がった高いボールは、次の瞬間には相手のコートへと叩き込まれていた。観客が気が付く頃には、ボールは空いてコート側の壁へとぶつかり、虚しく跳ねる。観客が息を呑む間もなく、一点先制のホイッスルが鳴り響く。


 歓声が上がる。目にも留まらぬ攻防とは、まさにこのことなのだろう。

 そして何より驚いたのは、それをやってのけたのがあの八重だということだ。


「おおっ……! 今のはなんだ今のは! ボールが上がったと思えば地面に叩きつけられたぞ」


 アリスも興奮した様子でそう漏らす。

 それもそうだ。ここにいる誰もが驚きに包まれている。

 かく言う俺も、その一人だ。

 八重の試合は何度か目にしたことがあったが、本校に上がってからはこれが初めてだ。

 だがその度に驚かされる。


 八重はチームメイトとハイタッチを交わすと、何事もなかったかのようにポジションへ戻る。

 八重の身長は一六〇センチを少し超える程度。同年代女子の平均からすれば低い方ではないが、ことバレーボール選手におていはそうもいかない。

 バレーボールは高さが鍵のスポーツだ。それは素人の俺でさえも知っている、ごくごく当たり前の知識。高いネットを挟んで相手と対峙する以上、背の高さは優劣を大きく左右する。実際、八重以外の選手は全員一七〇後半から一八〇センチを超える、学内でも有数の長身選手ばかりだ。そんな中で一六〇を少し超えた程度の八重の身長は、平均どころかむしろ小さくすら見える。


 だが八重は、そんな身長差をものともしない超速攻によって相手を圧倒する。

 常にそうだ。八重は常に、俺よりも先を行く。

 それを思うと少し胸が痛くなるが、今は関係ない。

 今はただ、目の前で頑張る幼なじみを応援しよう。


 ピッ――


 二度目の得点も、やはり八重が決める。


「おお……」


 いつの間にか、アリスも知らぬはずのバレーに夢中になり、食い入るように観戦している。

 俺はその姿になぜか満足感を覚え、静かに八重が宙を飛び交う姿を眺めることにした。



 ピッ、ピーーーーーーーー。


 一セット目の終了を告げるホイッスルが鳴り響く。

 試合は我が校優勢のまま進み、半刻も経たぬうちに一セット目を奪取する。

 セット間のタイムアウトに入ったことで、会場内も束の間の休憩時間へと変わる。


「どこへ行ったのかと探してみれば」


 不意に、背後から声がかかる。

 振り返るとそこにいたのは、文学少女を思わせる丸メガネに一房束ねた黒髪の美少女の姿。

 さきほど説教をもらったばかりの図書委員会会長、鬼瀬杏だ。


「あ、先輩」

「「あ、先輩」じゃないわよ、まったく……。さっきあれだけ言ったのに、まさかこんなところで油売ってるとは思わなかったわ」


 既に何度か聞いた呆れたため息を吐いて、杏は眉の間を押さえる。


「あー、その、これはですね……」


 今更言い訳もないような気がしたが、何も言わないよりはマシだろう。ということで、俺はとりあえず口を開く。


「おーサムライ女ではないか」


 だがそこで、出店を見てくると言って離れていったアリスが戻ってくる。


「ねぇアリス。アナタがあたしをどう呼ぼうと勝手だけど、そのサムライ女っていうのは流石にどうにかならないかしら」

「ん? 何か変か? 刀を使っているのだからサムライだろう」

「いえ、侍っていうのは厳密には――」

「ほれ。それよりもこれだこれ。かきごおりというものだ。南極の氷だぞ、南極の」

「な、南極って何を言って……、ん、んっ――!?」


 と、アリスはスプーンで掬ったかき氷を半ば無理矢理気味に杏の口へ放り込む。

 それを杏はもしゃもしゃと咀嚼する。


「どうだ? 美味いだろ?」

「……、まぁまぁね」


 そう感想を漏らす杏だが、心なしか唇が緩んでいる気がする。


「素直じゃないな」

「うっさいわね」


 意外にも仲良くなっている二人を見て、黒衣は少し心を和ませる。


「まったく。こんあことしてる場合じゃないっていうのに」

「何かわかったのか?」


 俺がそう聞くと、杏はバツがわるそうに顔をしかめる。


「いいえ。依然手がかりなしよ」


 フンッ、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 こういった態度は、ある意味素直な気がするんだが。


「ま、仕方ないか」


 そんな杏の態度に、俺は重い腰を上げる。


「む。もう行くのか?」


 ゆっくり伸びをして探索再開を告げる俺に対し、アリスは少し寂しそうに俺に尋ねてくる。


「ん。お前は残っとくか?」


 子供のように寂しげな表情をするアリスに、俺はそんな提案を持ちかける。

 【妖精】の相方である人間の探索。無論それには危険が付き物だおるが、必ずしもそうだとは限らない。確かに昨日は白昼堂々襲われたが、それを行った大男はもういない。それに、いくら相手が常識外の存在とはいえ、そうそう何度も昼間に襲いに来たりはしないだろう。


 だからこそ、俺はアリスにこのまま試合の見学を促す。俺もついていた方がいいだろうが、杏の頼みも蔑ろにするわけにはいかない。

 だがアリスは首を縦に振るわけでも横に振るわけでもなく、その豊満な胸を張り、ドンと力強く叩く。


「何を言うか。お前が行くと言うのなら、無論わたしも着いていく。仮にもお前と契約したパートナーなのだからな」


 姫というよりは勇者と言った方がいいような頼もしい返事をアリスは返す。


「無理しなくてもいいんだぞ?」

「くどい」

「さいか」


 力強くそう断言するアリスに、俺も二度目は言わず、出口へ向かう。

 だがアリスの視線はやはり、未だ回っていない出店の方へと泳いでいた。

 ……これが終わったらまた何か奢ってやろう。


「あ、黒衣くん。午後からはあたしも付き合うから」

「え、なんで!?」


 突然告げた杏に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「なんでって、またアナタたちがサボるかもしれないからよ」


 素知らぬ顔でそんなことを言う杏に、俺もアリスも顔を合わせて、落胆の色に包まれる。




   ******




 セットポイント獲得後の、コートチェンジを兼ねた休憩時間。

 私は受け取ったスポーツドリンクを喉に流し込む。

 失った水分を取り戻すかのように、だが決して飲み過ぎないよう注意しながら、一口一口を体に染み込ませていく。


 ここまでは上手くいった。三ヶ月取り組んだコンビネーションが上手くハマったのだ。

 先輩たちに混じって試合に出る緊張感もあったけど、それ以上に自分の実力を試したいというフラストレーションの方が勝ったのだろう。

 今は一年生唯一の先発という緊張よりも、自分のアタックが通じるという高揚感の方が圧倒的に上だ。


 私はそんな風に感じ、心の中で小さくガッツポーズを決める。

 所詮これは練習試合だ。来週から始まる地区予選のためとはいえ、これはまだ負けても許される練習試合。相手が本気かもわからない、ただのリハーサルに過ぎない。

 それでも、長年付き合いのあるライバル校を相手に、一年生である私のバレーが通用している。それが何より嬉しくて、たまらない。


 私のバレーは、まだ通用する……。


(あ)


 そんなことを考えていると、ふと見知った顔を見つけてしまう。

 見つけてしまう、などとは言うけれど、知らず知らずのうちに観客のほうへと視線を泳がせていたことを、内心では気付いている。

 そしてその見知った顔を見つけて、さらに喜んでしまっていることにも。

 彼は隣にいる誰かと話しているようで、私が見ていることには気付いていない。

 それでもやっぱり、私は嬉しかった。

 あの彼が私の活躍を見に来てくれた。

 あれから何にも興味を持てなかった彼が、少しでも何かに興味を向けてくれるのであれば、やっぱりそれは嬉しい。

 あわよくば、私にも――。


(え)


 そんなことに想いを馳せていると、彼が急に視線を動かす。

 最初は私に気付いてくれたのかと思ったけど、違った。

 新たに現れた人物に声をかけられただけだった。

 その人は、


(会、長……?)


 私が所属する図書委員会の長。一つ年上の鬼瀬会長だった。


(なんで……、会長が、クロと……)


 そういえばそんなことを昨日会ったとき話していた気もするが。

 だけどその親しげな雰囲気は、とても昨日今日出会ったばかりの感じには見えなくて。

 何を話しているのかはここからではわからないけど。それはまるで、旧知の間柄であるかのような。

 何か、二人だけの秘密を持つ男女のような。

 そんな雰囲気に、見えてしまう。


(あ)


 すると二人は、こちらに一瞥することもなく体育館を出て行こうと背を向ける。


(ま、待って)


 まだ、試合もこれからなのに。


(行かないで)


 まだ、見ていてほしいのに。


(クロを、連れていかないで)


 まだ、何も――、


(私を、もっと――)



 ピッーーーーーーーー!



 試合再開を告げるホイッスルが鳴る。

 先輩も後輩もにわかに動き出し、気合いを入れてコートへ向かう。

 わたしもつられ、コートへと向かう。


 でも、そこで見た観客席には、もう彼の姿はなかった。




   ******




「ふーー」


 俺はベッドに体を投げ放ち、今日の疲れを吐き出さんと息を漏らす。

 【妖精】騒ぎ以降二度目の夜を迎えることができた俺は、心底気の抜けた面持ちでいた。


 結果から言えば、何もなかった。


 あれから俺とアリス、そして杏先輩の三人は現実の世界、【逢魔時】の両方を捜索。何か異常はないか、再び怪奇的な現象は発生していないかをチェックしていた。あの大男はいなくなったとはいえ、背後に【魔女】の存在がいるとわかった以上、第二第三の大男が現れないとは限らない。他にもおかしな行動をしている生徒はいないか、考え得る限りの範囲を調査していった。


 だが結果として、何の進展も得ることがなかった。


 目的である魔女の契約者どころか、その手掛かりすらも掴めないまま、今日という一日は過ぎていった。

 杏曰く、魔女の目的に人間が必要な以上、休日である今日ではなく、生徒が最も集まる終業式の明日に何か仕掛けてくるかもしれない、とのこと。

 確かに、魔女の儀式とやらに人間を多数利用するというのなら、人が多い明日に事を起こすのが合理的だ。

 杏も俺もそう考え、人が暮れた頃には解散となった。

 そして今こうして自宅でゆっくり一休みしているというわけだ。


 ちなみに、アリスは今ここにはいない。【妖精】とはいえシャワーは必要らしく、のんびり風呂など満喫していらっしゃる。昨日同様共に入ることを誘われたのだが、さすがに理性を保てる保証がなかったので遠慮させてもらうことにした。曰く、風呂に共を連れていくことは至って普通のことなのだとか。英国文化おそるべし。


「…………」


 廊下を出れば楽しげにシャワーを浴びるアリスの鼻歌が聞こえてくる。

 心底、姉貴がいなくて助かったと思う。

 昨日は酒を飲んで早々に寝てしまったから何とかできたが、素面の状態の姉貴を誤魔化すのはさすがの俺では不可能だ。よくわからんが、姉貴は人の気配がわかるらしく、家に誰かいようものなら一発でバレてしまう。それが例え、姿が見えない【妖精】であっても例外ではないだろう。

 今日は他の先生方と呑みに行っているからいいが、明日以降はどうするものか。

 悩みの種はほとほと尽きてはくれないものだ。



 ポン――


「ん?」


 そうしていると、唐突にスマホに通知が入る。

 見てみると、それはチャットアプリからの通知。

 差出人は――、


「満月?」


 今朝のこともあり、明日以降の相談で先輩なのではないかと当たりをつけていたのだが、これは予想がハズレてしまった。もしかしても八重からだと思っていたのだが。


「そういえば、アイツも八重に誘われてたのに見かけなかったな」


 ただ単に俺が見つけられなかったのか、それとも普通にバックれたのか。

 まぁ大方後者だろう。

 そんなことを考えつつ、俺は通知の内容に目を通す。



『from.満月:園咲が学校で行方不明だ』



「…………は?」


 不意に止んだ虫たちの鳴き声など気にする余裕もなく、俺はそこに記されたたった一行の文章を理解するのに、ただ必死になっていた。


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