眷属3
──いるはずのない5体の眷属。
その姿は、先ほど遜色ないほどに同じで、放つ魔力も全く同質のものだった。
「い、一体なにが……」
頭が整理できていない。死んだものは蘇らないのが、この世の理。目の前のそれは、その常識をはるかに逸脱していたのだ。
蘇生など、ありえない。ディエルは自分の手で殺したのを確認しているからだ。
「る、ルシフェルは……」
後方で輝く、ルシフェルの本体を見やる。すると、先ほどよりも多少魔力が回復したよう見受けられた。だが、一つの疑問が浮かぶ。
(時間がかかりすぎじゃないか?)
そう。あまりにも時間がかかりすぎているのだ。魔法士達を殲滅したあの魔法を放った後、ディエルはすぐに現場に着いたのだ。そして、そのすぐあとに二発目の攻撃が来た。その時は、眷属達を相手にしていたような時間はかかっていない。
「毎回チャージの時間が変わるのか?いや、だとしてもかかりす」
── 気がついた。ディエルは気がついてしまった。心を完全にへし折り、戦う意味すら感じなくなるような事実に。
眷属達の背中部分から、かなりうっすらと光の筋ができているのだ。その筋は真っ直ぐにルシフェルの元に向かっており、本体とつながっているのだ。
このことから言えること。それは──
「こいつらは眷属なんかじゃない。ルシフェルの魔力から生み出された分身だ」
そう。眷属ではなく分身体。そして、分身体とわかってしまった以上、この5体を相手にするのは無意味だときがついたのだ。
「どれだけ倒しても、その間にあいつが回復する魔力で分身体を作り続けられるわけだ」
無限ループということである。どれだけ倒しても、すぐに分身体を作り続けられるだけ。こちらが魔力の底をつく頃に、相手は分身体で殺しにくる。
倒すなら、ルシフェルの魔力回復が追いつかないほど素早く倒し、尚且つこちらの魔力が尽きないようにしなければならない。
「──ッ」
考えにふけっていると、眷属 ── 分身体が攻撃を仕掛けて来た。5体同時に、光線を放ってくる。先ほどとは比べるまでもないくらいに、濃密な魔力光線。
「くっ……ぁが!」
迫り来る光線を回避し避けるが、全て避けきることはできずに、一発だけ右腕に食らってしまった。
「ぅ…ぐ、
このままでは命の危険が危ないと感じ、残りは全ての魔力を使い、空間魔法を発動。腕の怪我は後回しだ。
『ァァァァァァァァァァッ!!』
断末魔を上げ、消えていく分身体。丁度一箇所に固まっていたため、一撃で屠ることができた。
「はぁ……はぁ……ぐっ!」
右腕を抑え、呻く。ズキズキとした鋭い痛みが脳を揺さぶる。動かすことはできない。完全に潰されてしまったようだ。
「い、今のうちに、移動……しないと」
分身体達は消した。だが、すぐにルシフェルが新たな分身体をつくるだろう。その僅かな時間だけが頼りだった。早く身を隠さなければ、死んでしまうだろう。
だが、そんなディエルをあざ笑うかのように、残酷な光景が目に入って来た。
「……はは」
乾いた笑いが溢れる。
目の前には、5体のルシフェル。先ほどよりも圧倒的に速い速度で、分身体を作り上げて来たのだ。しかも、1度目、2度目よりも濃密な魔力を纏って。
「逃げる暇も与えないってか」
絶体絶命。それ以外に表現のしようがない状況に、ディエルは力なくその場にへたり込んだ。
すでに、先ほどの一撃で魔力はそこを尽きた。さらに、負傷した右腕から血がとめどなく溢れてくる。
「……ここまでか」
ディエルは心の中で、静かに自らの終わりを悟った。
だが、その時 ── 。
「ディエルさん!!しっかりしてください!!」
「レ……ア………?」
レアの声が聞こえた。ディエルは声が聞こえた方向へと顔を向ける。少し離れたところにレアが
「すぐに助けます!!だから ── 」
レアの叫びは、より大きな叫びによって遮られた。
『アァァァァァァァァァァッ!!!』
5体の甲高い叫び声。そのまま5体はディエルの前から離れ、レアとニーナのいる方向に飛んで行った。
「ニーナッ……」
奴らの目的は間違いなくニーナだ。彼女の魔力を、本体のルシフェルの元へと届けるつもりだろう。もし捕まれば、ニーナは死ぬ。そして、ニーナを守ろうとしていたレアも殺される。(ついでに少女も)
「ああ……あああああああああッ!!」
ディエルは悔やんだ。彼女たちを危険な目に合わせてしまったことを。自分にもっと力があれば、こんな危険な目に合わせることはなかったのではないかと。
そして、ディエルは望んだ。力のない今の自分にはできない、この状況を一変させるほどの力を。
このままでは、レアがいなくなる。ニーナがいなくなる。昨日まであった、当たり前の日常がなくなってしまう。2人の無垢な笑顔が見れなくなってしまう。
まだ、恩を返しきれていないのに。まだ、
血を流し続ける右腕に、力を込める。そして、よろめきながら立ち上がる。だが、すぐに崩れ落ちてしまう。血を流し過ぎてしまったのだろう。意識が朦朧とする。だが、行かなければならない。何も失わないために ── 。
霞む視界の中、レアとニーナの目の前には分身体が降り立つのを見た。
(なんでもいいッ!!この状況を打開できる力が欲しいッ!!あいつらを……救うことのできる力がッ!!)
そして、分身体の白金に輝く腕が2人にのばされる。
「あ、ああ……やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
絶叫した ── その時。
ディエルは、何かが自分の中で弾けたのを感じた。途端に、意識が遠くなる。
ディエルが最後に感じたもの。
それは、自らに眠る ──
◇
とある神殿。そこで、2人の男女が丸い水晶を前にし、腰掛けていた。
赤い髪をした中年の男。いや、中年^というよりも、青年といったほうがいい容姿なのかもしれない。
もう1人は、水色の長い髪をした少女。
「目覚めたぞ」
男は水晶に映し出されている映像を凝視しながら呟いた。その言葉に、少女は不思議そうな顔をし、男に尋ねた。
「何がっすか?」
その単純な質問に男は肩を竦め、水晶に視線を戻す。
「世界の王だ」
2人の視線の先 ── 丸い水晶には、異様な魔力を放出させる1人の少年の姿。
「王?」
「ああ、王だ。世界を統べる力を持った王」
口元をニヤつかせ、男は水晶を撫でる。
「跪け生物よ。これより、全ては王の供物だ」
そう、宣言のように呟いた。
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