対抗

魔王城周辺の広場。

ここで魔王の指揮の元、上空に現れたルシフェルに対しての対抗策が行われていた。

多くの魔法士が、命を懸けて戦いに身を投じている。全て、魔界の平和のために。


「魔法士たちよ!集中力を切らすんじゃねーぞ!」


魔王の覇気のある声が、魔法士たちの指揮を高めている。1人でも集中をきらせば、それで全てが終わってしまおうような状態にあるのだ。


「陛下。戦況はいかがなもので」

「はは。順調といっていいだろうな」


魔王は嬉々とした声で答える。その姿はまさしく戦の将軍そのものだ。片手に大剣を持ち、それを地面に突き立てている姿には、自然と敬服してしまうような貫禄が出ていた。


「一体あれは……」

「驚いたか?俺が考えた対ルシフェル魔法だ」


魔王は自慢げに重臣に語る。今、魔王の指揮のもと、魔法士たちが展開している魔法がある。それは、おそらく誰も使ったことがないであろう大魔法。空中に、たくさんの魔法陣が展開されたおり、幾度も明滅を繰り返している。


「あ、あれはどういった魔法なのですか?」


その異様な光景に、これが現実の光景なのかと疑っているといった感じで、質問を繰り返す。魔法に対し、いくら無知だとしても、この空を埋め尽くすほどの大量の魔法陣を見れば腰を抜かすことだろう。


「あれは、ルシフェルの能力を封じる魔法だ」


簡潔に、それでいて最もわかりやすい言葉。あれがルシフェルの力を封じる魔法となれば、かなり戦況は変わってくる。


「大臣も読んだことがあるだろうが、銀の王子に出てくるルシフェルの力はわかるな?」

「ルシフェルは光源の主とも呼ばれる光の王です。その力は、あらゆる暗闇を照らし、闇を滅する永劫の光源。つまり、光を操る力です」

「その通り」


大臣の説明に満足気に頷く魔王。大方の能力はあっている。

絵本のルシフェルは、その白金の体から黄金の光を放ち続ける光源。ルシフェルのいる場所には、夜が訪れなかったとある。無限の光。尽きることのない永劫の輝き。そう書かれている。


「だが大臣。どうして光のルシフェルがここまで強いかはわかるか?」

「強さの源……ですか?」

「そうだ。一見すると、ただ光を放ち続ける巨大な竜。それが、世界から畏怖される存在になった理由だ」


そう。ルシフェルの力の秘密は光が全てではない。光とも関係がある、対の力があるのだ。光とともに発生する、ある現象。

それは ──


「光だ」

「光……でございますか?」


ルシフェルの力で、もっとも危険なのは光とともに生まれる熱である。

陽の光を思い浮かべるとわかりやすいだろう。太陽は何色もの色の光を放ち続けている。その色をいくつか組み合わせることによって熱を作り出すことができるのだ。


「つまり、陛下はルシフェルを……」

「ああ、俺はあいつをこう例えている」


熱を作り出す光源の竜。そんなもの、何かに例えるのだとしたら、適切なものは1つしかない。


「あいつは、陽を具現化した存在だ」


圧倒的な力。崇高する宗教が存在する程の影響力を持った、空に浮かぶ火球。その神々しさを、あの竜は持っているのだと。


「つまりは、そう。俺たちは神に挑むのさ」


果てしない存在。絶対的な力を持つ強者に挑むのだ。今、空に展開されている無数の魔法陣だけで勝てるとは到底思っていない。


「奴はまだ来ていないからな。今が最大のチャンスで、最後のチャンスな訳だ」


口角を釣り上げながら、どこか楽しそうに呟く魔王。それを見て、重臣がため息をつきながらジト目を送る。


「陛下は昔から、争いごとがお好きですな」

「ん?なぁに、そうでもないさ。今は、伝説に挑む興奮が気持ちを高ぶらせているんだ」

「どっちにしろ、好戦的だと言いたいんですよ」


呆れた重臣の言葉には耳を貸さず、ただ一心にルシフェルを待っている。この昂ぶる気持ちを、どうにかして沈めたいのだ。


そして、数分後 ── 。


「陛下に進言いたします!西方より、黄金の光を確認!目標だと思われます!」

「来たか!」


衛兵からの伝達を受け、腰掛けていた椅子から思わず立ち上がる。湧き上がる闘争心を抑えられそうになかったのだ。


「わかった。すぐに向かう」

「はっ!失礼いたしました!」


伝達の衛兵が素早く持ち場に戻るのを確認し、魔王は机上の水差しに手を伸ばし、中身を一気に飲み干す。そして、少しばかり気持ちを落ち着かせ、自らも戦場へと赴くため、足を動かす。


「遂に、決戦の時だな」


歩きながら、そんなことを呟く。額から汗が滲みでるのを感じ、思わず腕の裾で拭う。


「いかんな。気持ちを落ち着かせねば……」


高まる自らの気持ちを落ち着かせながら、魔王は魔法士たちの指揮を高めるべく、再び壇上へと上がった。


魔法士たちはいつでもいけるといったように、魔法陣を上空に展開し続けている。その集中力、闘争心、そして愛国心に、魔王は素直に感動した。


(こいつらが、俺の部下でよかった……)


心の中で思うが、口に出すわけにはいかない。そんな縁起でもないことを戦いの前に言うべきではないだろう。

壇上から意識を集中させている魔法士たちを見下ろし、その姿にエールを送る。


「全員、覚悟を決めろ!!敵が姿をあらわした!」


魔法士たちは何も言わないが、ほぼ全ての魔法士たちが、その身体を一瞬強張らせた。


「怖がることはない!!お前たちは、魔界のあらゆるところから集められた、精鋭中の精鋭!魔界の頂点に立つ魔法士たちだ!!」


やはり、魔王の発言は偉大なものだった。一瞬前まで、少しのばかりの恐怖で強張っていた身体が、今の言葉で武者震いに変化した。


「戦士たちよ!!自分を信じろ!この場でもっとも信じることができるのは俺の言葉ではない!!己の実力のみだ!!自らの力を最大限に使い、魔界を救ってくれ!!」

『オオォォォォォォォォ!!』


この演説により、魔法士たちには完全に火がついた。やる気に満ち溢れ、伝説がなんだという声が至る所から聞こえてくる。


そして、指揮が高まり、彼らの気持ちも最高潮に達した時、怪物が姿を現わす。


『ゴアァァァァァァァ』


低く振動する音が、大気を震わせる。これが、奴の雄叫びなのだろう。だが、この振動を伴う雄叫びを聞いて尚、魔法士たちはひるまなかった。


「全員!集中しろ!……くるぞ!」


突如、ルシフェルがその大きな顎門を開き、そこから光の塊が放出された。


光の奔流が真っ直ぐに伸びていき、上空に展開されている無数の魔法陣の1つに当たった。


あれだけ濃密な魔力のレーザー光線。通常なら、魔法陣を破壊されて終わり。だが、この時、この魔法陣は違った。

魔王が考案した対ルシフェル用作戦であり、魔界最高峰の魔法士たちの作った魔法陣。それは、ルシフェルの一撃を耐えるほどのものだったのだ。




魔法陣に当たった瞬間、光は方向を変え、さらに別の魔法陣にぶち当たる。

それをなんども繰り返し、とうとうあさっての方向へと飛んでいってしまった。


「成功したか……」


魔王は安堵の声を漏らし、その場に膝をついた。とてつもない緊張感から解放された感覚が、魔王自身に降りかかる。だが、まだ一発しのいだだけ。気を抜くことはできない。


『オアアアアアアアァァァ』


続く第2撃。再び光の奔流を放ってきた。が、先程と同じように魔法陣によって反射を繰り返し、見当違いな方向へと飛んでいった。

さらに何度かそんなことを繰り返していくうちに、魔法士たちから歓声が上がり始めていた。


「い、いけるぞ!」「俺たちは伝説に勝つんだ!!」「絶対倒す!!」


気持ちが高ぶり、やる気も泉のように湧き出てくる。魔王自身、この作戦は成功したと思った。── その時だった。



『ウウゥゥゥ………』


突然、先ほどまでとは違う唸り声を上げ始めた。これは諦めの境地かと、魔法士たちは思った。が、魔王だけは違った。今までの行動や唸り声、そして伝説上の力を思い出し、すぐさま命令を叫んだ。


「全員!!魔法陣を解除しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


叫ぶ。だが、遅い。圧倒的にルシフェルが攻撃をする方が早かったのだ。


ルシフェルが顎門を開き、光が放出された瞬間。



魔法陣が搔き消え、広場には倒れ伏した魔法士たちが残った。






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