説明

「一体なにが起こっているんですか!」


転移した直後、レアから説明を求められる。今は転移した魔王城の転移陣付近。ディエル達は転移した後、魔王の書斎へと向かっていた。

しかし、レアはもう待てないとばかりにディエルに怒鳴った。頭が混乱し、冷静でいられなくなったのだろう。


「簡単に言うぞ。ルシフェルが出現した」

「なッ……ルシフェル……ですか?」

「ああ」


唖然としたように、ルシフェルの名前を復唱する。伝説の存在と言われた怪物が出現したのだ。驚くのも無理はない。


「あの……銀の王子のですか?」

「そうだ。伝説の化け物。世界を壊した5体の怪物の1体。魔王と話し合った結果、同一のものだという結論になった」


レアはまだ信じられないという顔でディエルの顔を見つめている。ディエルは真剣な顔で、説明を続ける。


「光源の主ルシフェルは、光を操る怪物と書かれていたな?そして、彼奴は体を白金に発光させている。特徴も酷似しているだろ?もう事実として認めるしかないんだ……っとここだ」


話しているうちに魔王の書斎へと着いた。今度はノックなどせずに入室し、レアとニーナを連れて来たことを告げる。


「2人とも無事です」

「よかった。これでまずは一安心だ」


魔王は安堵の息を吐く。娘をそれほどまでに心配していたようだ。だが、当の娘はそんな父親の姿を見て、声を荒げた。


「なにが一安心ですか!!伝説の怪物が出たんですよ!?なにも安心できないじゃないですか!!」

「れ、レア……」


とてつもない喧騒で魔王に向かって声を怒鳴り散らす。相当頭も混乱しているようだ。


「大体、どうして突然現れたんですか?対策はとったんですか?魔界が滅んでしまうかもしれな ──」

「レアッ!!」

「……ッ」


魔王はレアの言葉を遮り、その蒼の双眸を見つめる。そして、レアに近づき、その頭にゲンコツを落とした。


「あぅ」

「落ち着きなさい。混乱しているのはお前だけじゃないんだ。状況を見て判断しろ」

「す、すいません……」


ゲンコツが効いたのか、レアは頭をさすりながら魔王に謝罪の言葉を述べた。魔王は今、1人の父親としてレアを叱りつけたのだ。

いくら王女といえど、父親には敵わないものだ。


「ディエル。俺は今から魔法士達の指揮をとって来る。レアへの対応は任せたぞ」

「了解です」

「……頼んだ」


魔王はそれだけ告げると、扉を開け魔法士達の揃っているであろう広場へと去っていった。恐らく、ディエルがレア達を迎えに行っている間に集めていたのだろう。


「さて、なにから聞きたい?」


ディエルはソファーに座り直し、外を警戒しながら、、、、、、、、レアに質問を促す。聞きたいことは山ほどあるはずだ。


「まずは……ルシフェルが来たのはいつですか?」

「正確にはわからないい。だけど、俺はニーナの目に異常が出始めた時と同じくらいだと考えてる」

「ニーナちゃんの目と?」


レアは困惑したように俺へ説明を求めて来る。いきなり言われても、頭は混乱するだけなので、ディエルは順を追って説明する。


「まず、ニーナの目が淡く光っていることはわかるな?」

「は、はい」

「実は、ニーナの目に宿っている魔力と、さっき見たルシフェルの光の魔力。同じだったんだ」


それは、先ほどのルシフェルを見たから確信できた仮説。証明しろと言われれば、立証はできない。だが、ルシフェルの行動、共通の魔力。それを元に考えると、この考えに繋がるのだ。


「俺の仮説だが、ルシフェルは何らかの理由でニーナを狙っている。というか、ほぼ確定か」

「なにが……ですか?」


レアは震える唇を動かし、言葉を紡ぎ質問をして来た。聞きたくない自分と、聞かなければならない自分がいるようだ。が、ディエルは後者を優先して話を進める。


「俺の解析眼アナライズアイで見たんだが、ニーナの持ってる魔力は凄く綺麗なんだ」

「き……れい?」

「簡単にいうと、どんな魔力とも融合できる、、、、、、、、、、、、、無色の魔力だ」


魔力というものは、成長するにつれて持ち主固有の魔力へと変化する。だが、まだ幼いニーナは固有の魔力というよりも、普遍の魔力に近いのだ。


固有の魔獣しか食べられない木ノ実ではなく、あらゆる種が食べることができる果実。そして、さらなる要因がもう一つ。


「ニーナは、持ってる魔力が多いんだよ」

「魔力量が……ですか?」

「ああ。俺も人より多いが、俺の10倍はあるかな」

「じゅ、10倍!?」


驚愕の事実に声を裏返して叫ぶレア。

取り込みやすい魔力の質、膨大な魔力量。これらを狙い、ルシフェルは自らの力を高める為か、はたまた単なる食事のつもりか……。詳しくはわからないが、ニーナを狙っていることに間違いはないと思う。光の魔法を使い、ニーナをマークしたのだろう。


「…………ない」

「へ?」


かなり小さな声で呟いたので、ディエルはレアの言葉を聞き取ることができずに聞き返す。

するとレアはこちらへ勢いよく振り向くと、自らの決意を示した。


「絶対、ニーナちゃんは渡しません!!」

「……ああ。そうだな。絶対、渡さない」


泣き疲れて眠ってしまったニーナの頭を撫でながら、ディエルは頷き返す。こんなに可愛い天使を、怪物なんかに渡すわけにはいかない。

ニーナが腕の中で身じろぎをする。その姿を、笑みを浮かべながら見ていたディエル。

だが、次の瞬間にはその笑みが消えた。


「誰か来たぞ」


展開していた索敵魔法に複数人の人影が接近しているのを確認。数はまだ完全に把握できているわけではないが、5人以上いるのは確かだ。


「衛兵ではないんですか?」

「ああ。明らかに違う」


まだ距離が離れているが、確実にこちらにへ向かって来ている。目的は何なのか。いや、こんなタイミングで来る敵襲なら目標はわかりやすい。


(ニーナを狙いに来たってことは、俺の予想大体あってるってことだな)


予想の的中とともに、もう一つわかったこと。

それは、ルシフェルを召喚した者がいるということだ。そもそも、自然にルシフェルが出現したのなら、ルシフェルだけでここまで来るはずだ。だが、何故か刺客が送り込まれている。


つまり、ルシフェルにニーナを差し出すように任務を受けた者がいるということ。

ディエルは密かに口角を釣り上げ、レアへと指示を出す。


「レア。ここに侵入不可の結界を張ってくれ」

「わかりました。ディエルさんはどうされるんですか?」

「ちょっと行って来る。もしかしたら刺客じゃないかもしれないから、確認も兼ねて」

「刺客?刺客が来ているんですか?」

「その可能性があるってだけだ」


理由を説明している暇はない。すでに城の近くの森に来ているのだ。これ以上は城に近づけさせるわけにはいかない。


「じゃ、待っててくれ」

「はい。お気をつけて」


レアに笑みを返し、ディエルは窓へと足をかける。


「大丈夫だ。殺せるから」


そう言い残し、ディエルは窓を蹴り、星々の煌めく空へ飛び去った。


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