対策
昼食後。
ディエルとレアは孤児院の外に赴き、目の前にある山を見据えていた。先ほどディエルがワームを討伐した山である。
「なにをするんだ?」
ディエルはレアについてきたのだが、何をするのかわからないでいた。昼食後、ニーナが絵本を読み始めたのでディエルも書斎に戻ろうとしたのだが、レアに呼び止められ、外に連れ出されたのである。
「あの山にはワームがいましたね?しかも、普通の種よりも強力な亜種が」
「あ、あぁ。確かにそれを相手にしたが……」
亜種は一般的なものよりも強い。それはわかるのだが、それを確認するためだけに呼び出したのだろうか?と、ディエルは益々混乱した思考をなんとか正しながら、レアの話を聞く。
「あくまで私の推測ですけど、他にも強い魔獣が潜んでいると思うんです」
「え?」
レアからの突然の発言に、一瞬驚くが、すぐに内容を整理する。他の強力な魔獣の存在。それはディエルも懸念していたことだ。
「特に……何年も放置され続けた魔獣などが」
「何年も……ってことは、それだけ成長もしてるわけだよな」
当然のことだが、魔獣は成長するほど強さを増していく。成長する過程で、特殊な力を身につけるのだ。毒、剛腕、罠、集団攻撃……etc。
体もより頑強なものに進化をし、それこそワームのような鋼鉄の鎧を纏うものもいるのだ。
「そうです。そして、ここは山だけではなく海もありますから」
「海の魔獣か……」
実は海の生物は山よりも危険なのだ。多くの人々は、陸地に住んでいるから安心だ。と思ってしまうのだが大きな間違いだ。寧ろ、その油断が身を滅ぼすことになる。
海の生物といっても、別に海の中でしか生きて行けないものだけではない。陸地に上がることができる種も当然いるのだ。
「俺が知ってるは、デスシャークとか、それこそないと思うが、リヴァイアサンとかか」
「リヴァイアサンは近くにいるかわかりませんが、デスシャークは比較的いますよ。それから、私が1番警戒しているのはトリートーンです」
トリートーン。海の貴公子とまで呼ばれるこの怪物は、魚の尻尾を持ち、東部は双頭の竜。大きな鉤爪のついた腕を持つ魔獣だ。
「トリートーンは無差別に街を壊す習性があります。ここには孤児院しかありませんが、現れた際にここが壊されないとも言えないのです」
「確かに……」
レアの考えは最もな考えだ。黙ってやられるわけにはいかない。時既に遅しということがあってはならないのだ。
「でも、どうするんだ?今からなにか対策を立てるとか?俺が常時広範囲に索敵魔法を展開しておくことも1つの手だと思うのだけど……」
「いえ、それではディエルさんが常に魔力を消費してしまうことになりますから」
無論、そのこともわかっているのだ。ディエルは常人からは信じられないような魔力を持っているため、常に索敵魔法を展開していても大して苦にはならない。だが、レアはそれでもディエルの身と魔力を案じ、却下したのである。
無論、ディエルがそこまでのことを考えるはずもないのだが。
「じゃ、なにを?」
「私が設置型の結界を作ります。消費する魔力は大気中から自動的に補填するようにしますから」
「え?」
ディエルはレアの発言が信じられず、思わずもう一度聞き直してしまった。それほどまでに、重要なことをレアはサラッと口にしたのである。
「どうかしました?」
「れ、レア……今、結界を作るって……」
「はい。結界魔法を使いますが」
ディエルは自分が今しがた耳にしたことが聞き間違いではないことを確認し、驚きの声をあげた。
「いやいやいや!結界魔法って!!しかも半永久的な効果発動型ってことだろ!?」
「でぃ、ディエルさん……近いです」
「あ……す、すまん」
ディエルは驚きのあまり、レアに詰め寄り過ぎてしまっていた。慌てて距離を取り、再び彼女に尋ねた。
「で、できるのか?」
「私を誰だと思ってるんですか?一応ですけど、魔王の娘ですよ?」
「そ、そうだな……」
魔王の娘というだけで結界魔法なんて、殆ど使うことができないような
魔法を使えるものだろうか。ディエルはそんな話は聞いたことがないと思った。
「だって……結界魔法だぞ?失われた古代魔法じゃないか……」
「大げさですね。私は昔から使えるんですから。というか、逆に結界魔法しか使えませんからね」
「それは……」
その言葉が少し引っかかった。レアは通常の魔法が使えず、結界魔法のみを使うことができるということだ。
それは ── 才能の偏り。
幅広く器用にこなす者もいれば、ある一点に限っては、常人を遥かに凌駕する才能を見せる者もいる。レアは完全に後者のタイプのようだ。
「あれ?じゃあ、初めて俺を直した時の魔法は?」
「あれは瞬間的に回復する結界を展開して、その中にディエルさんを呼んだんです」
「す、すごい魔法だな……」
「?似たような効果を持った魔法、ディエルさんも持ってるじゃないですか」
レア本人はしれっとしているが、結界魔法は応用がかなり聞く魔法なのだ。そのため、通常の魔法ができなくとも同等、もしくはそれ以上の魔法を発動することも可能なのだ。
例えばある場所に火を点けねばならない試験があったとする。多彩に魔法が使える魔法士ならば、発火魔法で火をつけるだけ。
そして、魔法の才能がないものは、火を点けることができない。これが差になるのだ。
だが、結界魔法士は違う。通常の魔法がどれだけ使えなくても、乗り越えられる力を持っている。
先ほどの火をつける試験。
通常の魔法が使えない結界魔法士は、少々複雑な魔法を使うことになる。
魔法陣を展開し、
「かなりレアってすごい魔法士なのか?」
「結界魔法を使えることは誰にも言ってませんよ?」
「へ?そうなのか?」
ディエルはてっきり誰もが知っている情報なのだと勘違いをしていた。
結界魔法は失われた古代魔法の1つ。言い広めては、魔法学者たちの実験体にされかねないのだ。
「ディエルさんなら信用できるので教えたんですよ?」
「そう言われる少し照れるな。だけど、頼りにしてるよ」
「ふふ。お任せください♪」
上機嫌な声音でディエルに向かって返事を返し、魔法発動の準備を始める。
レアの足元を起点に、とてつもなく巨大な魔法陣が周囲に展開されていく。
「守護の結界よ 我を庇護し 災いを退ける盾となれ」
魔法陣は孤児院の周囲30メートを覆う広さにまでなり、淡い緑色の結界がうっすらと確認できた。
そして ── 。
「
レアによる、最強の防御結界が完成した。これで余程のことがない限り、孤児院がなにか被害に遭うことはなくなっただろう。
「私、すごいでしょ?」
「ああ。びっくりした。見直したぞレア」
「えへへ♡」
すっかり機嫌のよくなったレアが近づいてきたので、ディエルは彼女が満足するまで頭を撫で続けるのであった。
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