説教
── 人は必ず叱られるもの
通常、叱られるものは反省の念を抱き、叱るものは相応の理由があるため叱るものだ。
「………」
「いや……本当にごめんなさい」
ディエルは眼前の女神に謝罪を繰り返していた。女神は表情を変えることなく笑顔で固定。そこから放たれるとてつもない威圧感が、ディエルに襲いかかっている。
「おにーちゃん。どーしたの?」
「ごめんねニーナちゃん。おにーちゃんは、ちょっと反省してるから、静かにね?」
「はーい!」
天使がディエルの前から姿を消した。ニーナはトタトタとリビングへと戻って行った。
「れ、レアさん?もう……よろしいでしょうか?」
「ダメです」
笑顔が一瞬で消えた。真顔で却下の命を出され、ディエルは肩を落とす。
なぜこんな状況になっているかというと、先ほど帰宅した時のことだ。
ディエルはボロボロになった服のまま、孤児院へと帰宅。レアがその惨状を見て驚き、あらかたの事情を説明。
1人で勝手に危険な行動をしたことに、レアはご立腹。そして今に至る。
玄関先で正座をし、レアを見上げる形になっているのだ。彼女は腕を組み、笑顔を張り付かせて無言の圧力を放っていたが、遂に口を開きお説教が始まった。
「まず、なんで1人で危ないことをしたんですか?」
「その……俺の魔法起動確認のためだったから……」
「危険な魔獣がいることがわかっていたのですか?」
「……はい」
俺の返答にレアはため息を吐き、額に細い指を当て、首を横にふった。
「いいですかディエルさん。万が一のことを考えてから行動するようにしてください。山の山頂には縄張り争いを勝ち抜いた猛者がいるんです。そんな危険な場所に1人で向かわれるなんて……命を捨ててると行っても遜色ないです!」
「す、すまん……」
本気で怒っているようで、時折声を大きくしながらディエルに説教をするレア。ディエルは申し訳なさそうに謝罪を繰り返す。
「もうディエルさんの命は1人だけのものじゃないんです。あなたが死んだら悲しむ人、困る人がいることを忘れないでください。ここは魔界で、人間界とは違うんです」
「……ッ、わかった……。肝に命じておくよ」
ディエルはハッとし、自らの軽率な行動を改めて反省した。
今回も、ディエルは人間界にいた時の癖で行動していたのだ。自分がいなくなっても誰も困らない。誰も悲しまない。そんな考えを持っていたからこそ、危険な魔獣にも果敢に立ち向かって行けたのだ。
だが、今はもう違うのだ。ディエルが死ねば悲しむ人がおり、危険な目に合えば心配してくれる人がいるのだ。
「わかればいいです。……それで?ワームのお肉は手に入ったんですよね?」
「え?あ、あぁ。亜空間収納に入ってるよ」
「了解です。では、ワームをとっても美味しく調理してくれたら、今回の件は不問とします。いいですか?」
「お、おう!」
そんな提案を出され、ディエルは内心やる気が入った。元より美味しく調理するつもりだったのだが、益々失敗できなくなったのだ。やる気も気合も十分に入るというものである。
「とりあえず、お昼にしましょうか」
「あ、もうそんな時間か。すぐに準備するよ」
ディエルはすぐに立ち上がり、キッチンに向かおうとする。が、すぐに転倒してしまった。
「いっつ……」
「どうしたんで……あ、もしかして足が痺れました?」
「恥ずかしながら……」
先ほどの正座により、ディエルは足がかなり敏感になるほど痺れてしまったのだ。少しでも動かすと、足の力が抜けてしまう。と ── 。
「えい」
「ぬおッ!」
レアがディエルの痺れた足をツンと突いてきた。ディエルの足にはなんともいえない感覚が通り抜けた。
「な、なにを……」
「ん?ああ。ちょっとしたいたず……お仕置きです」
「今イタズラって言おうとしてなかった?」
「気のせいです……よッ」
「〜〜〜〜」
再び足を集中攻撃され、悶絶するディエル。結局レアのいたずらから解放されたのは5分ほど後になったのだった……。
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