実践3
「……ッ、
降ってきた毒の塊を見た瞬間、ディエルは魔法を唱えていた。一瞬で掌に魔法陣を構築し、そこから水の竜巻を生み出す。
なんとか猛毒を頭からかぶるという最悪の事態は避けることができたようだ。
「キチチチチチチ……」
「気持ちの悪い鳴き声だな……」
不気味な鳴き声とともに、口をモゴモゴと動かしている。
ディエルは一旦後方に下がり、魔法陣を再び構築し始めた。
「まずはこの暗さを何とかさせてもらうぞ」
暗いままでは相手の有利は変わらない。周囲が暗いため忘れていたが、今は朝。しかも、時間は経っているので陽が世界を照らしている時だ。
「
刃の
「
「さすがにワームの鎧は切れなかったか。流石鋼鉄の体」
鋼の身体を持っているワームは
「こ、これは……」
光に照らされたため、ワームの全容が明らかになった。銀色に輝く体、円状に牙が生えた奇抜な口。大きさはディエルの20倍はあるであろう巨大さ。
「これは……美味そうだ」
ディエルは舌なめずりをし、ワームを見上げる。
当初、ディエルがワームを欲していた理由。それは強い魔獣であるとともに、その肉が非常に美味なのだ。
虫が美味いというのはなんとも意味が悪いかもしれないが、本当に美味しいのだから仕方がない。
「ギッ!」
ワームは珍妙な声をあげ、再び毒を口から射出。しかも、少量を複数に分けて放ってきた。
「
ディエルはその毒弾を冷静に氷の弾丸で迎撃。毒の弾丸は氷の弾丸に衝突した瞬間に凍っていく。そのまま霧散していくという現象を起こしていた。
精密な魔法制御。射出物の軌道上に正確に魔法を放つ。しかも、直径数センチという小さな氷をぶつけるなど、通常は考えられないことだ。
だが、ディエルはそれを可能にする。ディエル
「氷じゃ鋼を壊せないからな。山で使うべき魔法じゃないんだけど……っと!」
ワームの尻尾が横薙ぎに振るわれ、ディエルを吹き飛ばさんとする。それを跳躍して躱し、ディエルは木の上に着地する。
「すぐに消火するから、勘弁してくれよ」
── 魔法を紡ぐ。上級魔法の詠唱を。
「灼熱の業火よ 大地を灼き 実りを焦せ」
上空に魔法陣が展開。その中の魔法式を解読できるものはほとんどいないだろう。
ワームは魔法陣を確認すると、その身を縮こまらせ、襲い来る魔法に耐えようとする。
だが、無駄なこと。ディエルの放つ魔法は、ワームの特性を考慮し、必殺の一撃となるであろう魔法なのだから。
「
空が光る。天変地異が如き光の槍が、地上で
「害虫駆除だ。悪く思うなよ」
天の裁き。そう表現してもおかしくないような光景。
「ァァァァァァァァァァッ!」
短い断末魔を上げ、ワームは光の奔流に飲み込まれていった。
光は5秒ほどで止み、後には皮膚の融解したワームが残されていた。
「よし。皮膚だけ焼けたな」
ワームの特徴だが、鋼鉄の皮膚が失われると途端に弱くなるのだ。さらに、皮膚の内側が少しでも傷が付くとショック死する。内側は非常に脆い生物なのだ。
「
「しかし、こんな危険な奴がいるとは思わなかったな」
山の山頂付近とはいえ、ワームはかなり危険な生物。単独で挑む相手ではないし、更にいえばこのワームは通常よりも強い、謂わば亜種といったものだ。
これは孤児院に降りて来る可能性もあったのだ。ここで駆除しておいて正解だっただろう。
「はぁ。流石にキツかったな」
いくらオリジナル魔法で魔力消費を極限まで減らしているとはいえ、最後の
「5秒しか打ってないのに……6割は使ったか」
ディエルの魔力はかなり多い。一般人の10倍はあるであろう量なのだ。
そのディエルが6割の魔力を消費をするほどの魔法。一般人では発動することすら叶わないだろう。
「っと、もうこんな時間か」
空を見上げれば、既に陽は昇り切ろうとしていた。帰って昼食を作らなければならない。
ディエルは急いでワームを亜空間収納に取り込み、孤児院へと向かって走り出した。
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