実践2

森で狩りを続けること約1時間。

それなりに沢山の魔獣を狩ることができた。


「魔法も大体問題ないな」


改良後の魔法もしっかりと起動した。消費した魔力もかなり少ない。全体的に見れば、上出来と言ってもいい結果だ。が、ディエルは満足をしていない顔をしていた。


「そんなに強い敵は出てこなかったな」


そう。ディエルの望んだような、強力な敵は出てこなかった。ここまで倒したのはそこまで強くない雑魚ばかり。ディエルは殆ど一撃で倒しているのだ。


「魔力を使わないのは当たり前だ……」


そんな現実になるのも当然である。なにせ、ディエルの魔法式改良によって10分の1の消費量になっている。さらに、ほぼ一撃で倒しているため、少ない魔力量。その上自然回復もあるのだ。

ディエルの魔力残量はほぼ満タン。まだまだ物足りない感じなのだ。


「後少し登って……何匹か狩ったら帰るか……次は多少魔力消費が多い魔法でも使ってみるかな」


今は山の中腹。山頂までとはいかなくとも、7分目くらいまでは行こうと思っている。山の山頂付近には強い魔獣がいるかもしれないと思ったのだ。


身体強化ブースト


強化魔法をかけ、ディエルは山の上部に向かって足を進めた。





「……ブラックウルフか」


少し登ったところで、茂みの中から少し狼が出てきた。

ブラックウルフは黒い体毛に覆われ魔獣。凶暴な性格を持ち、それなりに強い魔獣だ。噛む力は非常に強く、獲物の骨まで粉砕する程の強さを持っている。


「グルルルル」

「完全に戦闘体制に入ってるな」


ブラックウルフはこちらを襲う準備ができているようだ。白い牙を煌めかせ、光源ライトの灯に照らされ、その双眸が怪しく光っている。


「そうだな……あれで行くか」


ディエルは素早く頭を回転させ、使用する魔法を決める。

と同時に、ブラックウルフが、鋭い牙と鉤爪をぎらつかせ、ディエル目掛けて跳躍。腕を振り下ろしてきた。


が、ディエルは落ち着き払った顔でそれを躱し、バックステップで距離をとる。そして ──


冷凍フローズン


魔法陣を展開した途端、ブラックウルフは一瞬で動かなくなった。

正確には、動けなくなったのだ。冷凍フローズンは対象を凍りつかせる魔法。魔法士の技量によって、凍らせて身動きが取れなくすることもできる。

一般的には出回っていない、完全なオリジナル魔法だ。


「お、使いやすいな」


その扱いの良さに、ディエルは感嘆の声を漏らしていた。

今まであまり氷系統の魔法を使ってこなかったディエルだったが、これを気に氷魔法の使用頻度を高めようと思った。


「動かなくても相手を無力化できるってことか」


この氷魔法の最大のメリット。それは、不意打ちに適しているのである。

魔法陣を展開する際に音も発生しなければ、効果も一瞬で発動される。一方的に倒すことが可能なわけだ。


「欠点は……これも耐性のある相手には効かないな」


ディエルの魔法……魔獣に使用するような魔法は、護符などの魔法耐性道具、無効化魔法などに弱いのだ。

魔法無効化を無効化する魔法も使えるのだが、式を構築するのにかなり時間がかかるので、実用的ではないのだ。


こうしている間に、ブラックウルフは氷で地面に繋ぎとめられていく。

少しだけ魔法のコントロールを失敗したのか、ブラックウルフを起点として周囲も凍りついていた。


「魔力消費も抑えられてる。効果もすごい。ただ、範囲と威力の制御が必要だな」


新しい魔法の最終的な評価。

使い勝手はいいが、まだまだ練習する必要がある。

ディエルは冷凍保存されたブラックウルフを亜空間収納にしまおうと魔法陣を展開。

次の瞬間には、ブラックウルフは魔法陣の中に収納される ── はずだった。


「は?」


突如、ブラックウルフの姿消えた。

地面とともに、、、、、、


「な、なにが起こった……」


消失。完全に消えてしまったブラックウルフ。

彼が繋ぎとめられていた地面は、円状に消えてなくなっていた。一体なにが起こったのか。ディエルは唖然とした表情でその場に立ち尽くす。


「消えた……のか?」


確かに先ほどまでそこにいたのだ。それが一瞬。一体どうして消えたのか。そもそも地面諸共消えることなんてあるのだろうか。いや、自分の知らない現象なのかもしれない。だが……。


頭が混乱し始めたその時だった。


「………ッ」


身震い。全身の肌に鳥肌が立つ。ゾワっとした感覚が背筋を襲った。

── なにかいる。

それだけはわかるのだが、視界には映ることがない。光源ライトで辺りを照らしているにも関わらず、一向に発見できないのだ。


「スゥ……」


深呼吸をし、意識を集中させる。ディエルは思考を回転させ、新たな魔法陣を構築した。


周囲索敵スコープ


周囲を把握する索敵魔法。魔法式は混乱した状態では構築することが非常に困難。この状況で落ち着きを取り戻すことができたのはさすがといったところだろう。

そして、そのを認識したところで、ディエルは驚愕した。


「ワーム……か……?」


索敵で確認したことでようやく見つけた。強力な魔獣、ワームが接近していたのだ。


「でも……これは……」


見つけることができなかったのは、頭上、、にいたため。索敵でしか確認していないが、それは通常のワームの大きさを遥かに凌駕しているのだ。

そして、光源ライトでその姿を照らした時 ── 。


「なッ……!」


ワームの口から、大きな毒の塊が、ディエルに向かって射出されたのだった。





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