図書館
魔王城にある図書室。
ディエルは昼過ぎからここに訪れ、一冊の本を探していた。
「……どこにあるんだよ」
溜息をつきながら、自らの背丈より高い本棚の前で項垂れる。
探しているのは『銀の王子』。
レアからかなり省略された話は聞かされていたのだが、中身を詳しく読んで見たいと思ったのだ。
が、かれこれ1時間は探しているのだが見つからない。
「どこにあるのか……」
ここに来る前、念のためレアに場所を聞いたのだが、「随分前に読んだので、場所を憶えてないんですよ」と言われてしまった。
ということで、手探りで
「時間はあるけど……探すのが怠い」
膨大な数の本。その中から1冊だけを探すのがどれだけ大変なことか。
「レアたちは……孤児院において来たしな……」
魔王城に訪問したのはディエル1人。レアは特に用がないと言って、ニーナとお留守番だ。
「あ、なんだこれ?」
別の本棚に移動し、1冊の本を手に取る。そこには珍妙なタイトルが書かれた本が置いてあった。
「ええっと?『溺れる肉欲。色欲の罪』?なんの本だ?」
本来、ディエルくらいの歳の男子なら、ここで意味を理解して中をみるか、赤面して本棚に戻すかの2択である。
が、ディエルはその辺りの知識に乏しい。そのため、タイトルから中身の内容を想像することができなかった。
「………え?……ッ!!」
”バンッ!”
勢いよく本を閉じる。顔を真っ赤にし、手がプルプル震えている。
彼にとって予想外の内容に、大ダメージを受けたようだ。
「……なるほど。レアはここでそういう知識を……」
レアが知識豊富な理由がわかった気がした。この図書館は謂わば、知識の宝箱だ。ありとあらゆる知識の詰まったここを幼い頃から利用していれば、蓄えられる知識も膨大なものになるだろう。
「ここは違うな。絵本がこの本棚にあるわけない」
情操教育的に不適切な本が並べられているため、誰もが知っているような絵本がある可能性はないだろう。
ディエルはそっと本を戻し、別の棚へと移動した……。
◇
「あ、あった……」
数時間後。ようやく目的の絵本を見つけることができた。周囲には大量の本が山積みにされている。
一々戻すのがめんどくさくなったため、後で一気に戻すことにしたのだ。
「ようやく読めるな」
目の前に積まれている本の山々を見ると憂鬱な気分になるが、仕方ない。見つからないよりは長時間かけて片付ける方がマシだ。そう思い直し、ディエルは絵本を開き、物語を読んでいった。
◇
「すぅ……」
「また眠っちゃったのかな?」
孤児院のリビング。ソファーで眠ってしまったニーナを、レアが発見したところ。
まだ幼いニーナは寝ていることが多い。子供は食べる、寝る、遊ぶ、この3つが仕事のようなものだ。
「ふふ」
レアは微笑し、ニーナの頭を撫でる。ニーナは少し身じろぎし、寝返りをうってしまった。
「子供が1人しかいないと、やっぱり退屈なのかしら」
孤児院には子供がニーナ1人しかいない。同じ年代の子供と遊ぶことも大事なことだ。レア自身、同年代と遊んだことはほとんどない。だが、ニーナにはその経験を積んでもらいたいとは思っているのだ。
「1人にしないから、待っててね」
ニーナを優しげな目で見ながら、レアは囁く。
「
◇
結果的に言って、レアから教えてもらった内容と遜色なかった。それがもう少し詳しくなっていたくらい。
「まぁ、面白いといえば面白いか」
物語の内容はやはり面白いと思う。売れる作品になったのも納得だ。現実味のないフィクションだからこその面白さというものが、この作品にはあると思ったのだ。
「この物語のキーワードは、5体の怪物、1つの王国、そして……5つの宝玉」
この絵本を読んで知ったこと。銀の王子は5体の怪物を5つの宝玉を使って倒した。赤、緑、紫、金、黒。
1つ1つに込められた力を駆使し、怪物たちを倒したとされている。
「銀の王子も貧しかったとか……それはどうでもいいことか」
王子が貧しかったとか、お姫様は誰もが振り返るほど美しかったとか、そのようなことが記載されている。確かに、人々が憧れるのはわかる気がした。
貧しかった王子がお姫様を助け幸せになっていく物語。子供が好みそうな話だ。
「そうだ。ニーナにも読ませてあげるか」
魔界では誰もが知っている物語とはいえ、孤児であったニーナは読んだことがないかもしれない。
ディエルはそう思い、亜空間収納に本を収納した。
魔王の方から貸し出しの許可は得ているので、そのまま持ち帰ることに。
「さ、やるか……」
そしてディエルは目をそらし続けていた本の山に目を向け、片付けを開始した。
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