物語
── ドクン
鼓動。大気を振動させるほどの大きな鼓動が木霊する。
木々は揺れ、水面には大きな波紋。
とある森林の湖。
その水面に、大きな魔法陣が展開されている。辺りは薄暗く、不気味な
雰囲気を醸し出しているにもかかわらず、湖だけは淡い金色に輝いていた。
魔法陣から漏れ出す光が、水面を照らしているのだ。
そして ── 徐々に魔法陣の頭上に形成されていく物体。その光景を、傍で不敵な笑みを見せながら眺める人物が一人。
物体は徐々に巨大になっていき、やがて1体の巨大な生物の形を作り出した。── と同時に、物体の周囲に複数の魔法陣が再展開される。
──ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ ──
再び木々が
「目覚めたか………」
傍の男が冷静な声音で呟く。
その瞬間にも、鼓動の音は大きくなっている。
白金の身体を持った怪物。
瞼をゆっくりと開き、その金色の
伝説が ── 再臨した。
◇
落ち着いた空間というのは人を安らかにさせるものだ。
ディエルはそんな言葉を心中で呟きながら、目の前に出された紅茶をゆっくりと口に運ぶ。そしてゆっくりとその味を堪能し、喉へと通す。
「美味い……」
「お口に合う物で良かったです」
「ああ、 いい感じの甘さと香りだな」
ディエルたちは現在喫茶店に来ていた。粗方の食材は買うことができたので、ここで少し休憩をしようということだ。まぁ、相変わらず視線を感じるのだが、ディエルは気にしなくなっていた。
「すぅ……」
歩き疲れたのか、ニーナは夢の中へと旅立ってしまっていた。ディエルは彼女の頭を撫でた後、もう一度レアに向き直った。
「それで……一応説明してくれるんだったよな?」
この視線の原因を説明してもらう。ここならゆっくり話せるだろうし、店内もそれなりに声がある。話すならここしかないだろう。
「はい。それと、話は少し長いだけで、魔界の人なら誰でも知っているような内容です」
「え?それが俺と関係あるのか?」
「ええ。ちなみに、私も姫である理由以外にも、これから話すことに関連して注目を集めています」
ディエルとレアは、視線を集めてしまう理由が一緒ということらしい。ディエルは混乱する思考を抑え、レアの話に集中するようにする。
「ディエルさんは、『銀の王子』という物語を知っていますか?」
「銀の王子?いや、聞いたことがないが………」
聞き覚えのない言葉に首を横に振る。
「銀の王子というのは、魔界では知らない人がいないくらい有名な絵本です」
「絵本?絵本がなんで俺たちに関係してるんだ?」
「そうですね……銀の王子の内容を少し説明してもいいですか?」
「え?……ああ、いいけど」
銀の王子という物語が、ディエルたちに関係してくるというのなら、聞いておいて損はない。
「では、話しますね。ええっと ─── 」
レアによる読み聞かせが始まった。
◇
1000年前。
世界は1つの大きな国でした。
魔族も人間族も、みんなが仲良く平和に暮らしていました。
国には美しいお姫様が住んでおり、みんなから愛されていました。
ある日、突然世界に5体の怪物が現れました。5体の怪物は、世界を壊し、沢山の人々を悲しませました。
怪物は世界を壊し続け、とうとうお姫様の住むお城までやってきました。
怪物はお城を壊し、お姫様を見つけました。お姫様が怪物に食べられそうになった時、王子様がやってきました。
王子様は5つの宝玉を使い、怪物を倒しました。そしてお姫様を救った後、壊れた世界を修復しました。
王子様とお姫様は結婚し、2人は幸せに暮らしました。
◇
「と、こんな感じです」
「中々壮大なるストーリだったな」
大雑把な話の内容を聞き、ディエルは物語の感想を告げる。中々興味深い内容だ。空想の物語としても中々面白い。
「でも、なんでそれが俺たちに関係あるんだ?」
「物語を簡単に説明しただけなので言わなかったですが、その王子とお姫様の容姿は私たちと同じなんです。銀の髪と蒼の瞳」
「……なるほど。そういうことか」
つまりはそういうことだ。魔界の殆どの人が知っている物語のヒーローとヒロインのような容姿を持っているため、視線を集めているわけだ。
「私も初めてディエルさんを見た時驚きましたよ。本当に絵本の王子様かと思いましたから」
「それを言ったら俺もレアを初めて見た時びっくりしたぞ」
「そうだったんですか?確かにびっくりした顔をしてましたけど……」
ディエルはあの時の事を思い出し、若干気恥ずかしくなった。レアの見惚れていた後すぐに気を失ってしまったのだ。
「あの時は……まぁ、レアに見惚れてたのは白状しよう。だけど、その後に気絶したからな」
「私もディエルさんをすぐに運んだので、あんまりジックリは見ていな……あ、ごめんなさい。見てました」
「……前に抱きかかえて運んだって言ってたけどさ。具体的にどんな感じで?」
「お姫様抱っこで」
「おひッ!」
ディエルは驚き、危うく手にしていたティーカップを手から滑らせてしまうところだった。
「お、お姫様抱っこ……」
「大丈夫ですよ。私しか見ていなかったですから」
「だ、だとしても……」
「ちなみにすぐにうなされ初めて、私の胸に顔を埋めていましたが」
「嘘だろ……」
知らない間にやらかしていた失態に、顔が赤くなるのと同時に何やっているんだという自己嫌悪の念がやってきた。
「ふふ。大丈夫ですよ。私しか知りませんから」
「それでも恥ずかしさはあるんだ……」
「あれだけ疲れていたんですから仕方ないと思いますよ」
「面目無い……」
すでに甘える歳を過ぎた男子が超絶美少女に甘えるなど、一歩間違えれば拷問部屋行きである。ディエルはシュンっとした感じを醸し出しながら残りの紅茶を啜った。
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