街へ
─── いくつもの視線。
先程から向けられるそれは、まるであの時の矢のようにディエルの身体に突き刺さる。
「なぁ……」
「あまり気にしなくていいと思いますよ。私もずっと見られてますから。
「奇遇だな。俺も見られてる。
「?」
レアとディエルがお互いに感じていることを話し共感。ニーナはよくわかっていないように首を傾げている。
「気にするなっていうのは中々レベルの高い注文だぞ」
「私は慣れていますから。ディエルさんも慣れてください」
「レアが注目されるのはわかる。だが、俺が注目される理由がわからないぞ」
「自分の容姿を再確認してください」
「なんのはなししてるの〜?」
視線をなるべく気にしないようにしながら、街を歩いて行く。歩く旅に視線も一緒になって移動してくるため、逃れるのは不可能だと諦めを見せていた。
(まさかここまでとは)
嫌な汗を額に掻きながら、ディエルは先程レアから言われたことを頭の淵で思い返していた ── 。
◇
転移後、ディエルたちは街の転移門に来ていた。転移先に指定した『中枢都市アルプラギス』、ここは魔王城すぐ下にある城下町で、魔界で最も人口が多い都市だ。
「すごいな……こんなに沢山人がいる街は初めてだ」
「ふふ。一般的な街とは比べ物にならないですからね。沢山お店もありますよ?」
「それは楽しみだ。食材も結構期待できるな」
「お父様からお金はもらってますので、金銭面では心配しなくてもいですから」
レアはジャラっと沢山の金貨が入った袋を取り出す。入っている金貨の数は50枚。金貨10枚で庶民なら3年は暮らしていける金額だ。ディエルは王族の金銭感覚との差を実感しながら、レアへ忠告を促す。
「あんまり見せびらかすものではないぞ?しまっておけ」
「あ、それならディエルさんの魔法でしまっておいてください。落としたら大変ですし、これは孤児院のお金のなので」
「あぁ。別にいいが」
亜空間収納に金銭袋を収納し、さあどこから回ろうかと言おうとした時。今度はレアからディエルに対しての忠告が出された。
「ディエルさん。一つ言いますが、私たちは街ではかなり注目されると思います。居心地が悪いかもしれませんが、我慢して平然を装ってくださいね」
「まぁ、そら注目されるわな」
レアはその美貌を惜しむことなくさらけ出している。これで何も思わない方が無理な話だ。
「わかったよ。平然だな。平然」
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だって、別に俺が注目されるわけではないんだ。レアに同情はすれど、俺が緊張する必要はないだろ」
「……………ふっ」
その時、レアが不敵に笑ったのだが
、ディエルは気づかず街に入ろうとしていた。
「じゃ、行こうか」
「はやくいきたい〜!」
「わかりました。行きましょう」
そして街に入り、先程の場面に戻る。
◇
「俺まで注目されるなんて聞いてないぞ」
「理由は後で教えてあげます。人間界から来たディエルさんは知らないはずですから」
「?どういうことだ?」
「あ・と・で!ゆっくり話した方がいいですからね」
「お、おう……」
気迫に押され、押し黙る。この件に関しては後ほど詳しく聞かせてもらうことにしよう。
「おにーちゃん!あれほしい!」
ディエルとレアの状況はつゆ知らず、ニーナは元気いっぱいにディエルの裾をグイグイ引っ張る。子供の無邪気さがとても羨ましく感じる。
「これか?いいぞ。あ、レアは?」
「じゃあ私も1つ」
「了解。すいませんこれ3つ」
屋台に出ていたフルーツジュースを3つ頼む。ディエルは店員に注文すると、店員は顔を赤くしながらジュースを作り始める。
「か、かしこまりました……」
「………」
後ろから突き刺さる視線。先ほどまで感じていたものとは比べ物にならないほど強烈なものだ。
「レア。後で理由を教えてくれるんだよな?」
「はい。ですから何も怒っていませんよ?」
「俺が尋ねようとしたことを先に答えないでくれ」
視線はディエルの顔面に固定されたまま瞬きもしない。ディエルは謎の恐怖心に支配され、無言でその視線から逃れようと目を逸らす。片手はニーナの頭を撫で、気を紛らわせるようにジュースが出来るのを待つ。
「お、お待たせしました!」
「ほ、ほらニーナできたぞ」
「ありがとーー!!」
喜びながらストローをくちもとまで持って行き、ジュースをゆっくりと口内に運んでいく。
「レア」
「ありがとうございます」
残りの2つのうち、1つをレアへ手渡してから、代金を支払い屋台を後にした。
「お、うまいなこれ」
「おいしー」
ジュースは中々の味だった。果物のいい香りと、本来の甘さが絶妙な美味しさを醸し出している。こんな飲み物は初めて口にした。といっても、人間界にいた時は水以外口にした飲み物はないのだが。
「これは1000年以上前から飲まれているジュースです。魔界の名物的に飲み物ですよ」
「そんなに昔からあったのか」
レアからそんな
「レアは飲んだことがあったんだな」
「以前一度だけ。結構美味しかったので覚えていたんです」
懐かしそうにしながらジュースを啜る。その姿も、また絵になる程に魅力的だった。
「へぇー。お姫様でもこういうものを飲む機会があったのか」
「まぁ、そうですね。あの時は……時間もありましたし」
「普段はそんな時間もないんだな……お察しします」
「今は孤児院の職員なので、そういう仕事から解放されてますけどね」
当時は相当忙しかったのだろう。孤児院を作った理由は、そういう事情もあったのかもしれない。
「次はどうしますか?なにか買うものは?」
「そうだな……とりあえず適当に食材を買いに行くかな。なにか食べたいものはあるか?」
「おにくたべたい!!」
「私はおまかせで。ディエルさんの料理はなんでも美味しいと思いますから」
「あんまり持ち上げないでくれ」
ディエルの料理の腕は確かなものだ。なにせ、生まれてからずっと1人で暮らしてきたため食事は全て自分で作ってきたのだ。
「じゃ、今日はニーナの希望通り肉にしようか」
「やったー♪」
上機嫌のニーナと手を繋ぎ、肉を買いに通りを歩く。
この時、ディエルは周りの視線を気にしなくなっていた。
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