探偵のターン②


 「陽介君は現在中学二年生なんだけど、最近金遣いが荒くなったらしくてな。だから放課後どう過ごしているかを調べてほしい、って陽介母から依頼を請け負った」

 「金遣いが荒いって、どういうふうに?」

 「陽介君はお小遣いが定額で、それ以上に必要な時にはお手伝いをしてお駄賃を少額だけど稼ぐらしいんだ。ただ、最近はお手伝いの頻度が増えてるらしい」

 「働いてもらえるのなら平和だ」

 「そう、平和だけどな。それだけ金がいるって事は親としちゃ心配だ。もしかしたらいじめられて金をまきあげられてるかもしれない」

 

 手伝いの代わりに少額のお駄賃を要求されるとしても、それだけの金銭を必要としているというのは親としては不安な事だ。

 もしかしたら誰かに恐喝されているのかもしれない。そう考えて、陽介母は親戚である勇者に依頼したのだろう。

 

 「まぁ、せいぜいなにかほしいものがあってお金をためているだけとは思うんだけどな。俺からなにか簡単な依頼はないかと営業して、用意してくれたような依頼だし」

 「私の、ため?」

 「ああ。だから失敗してもいい。誰も怒らないし、失敗したら俺がこのトーク力で陽介君から聞き出すだけだ」

 

 失敗していいとなるとエミリの心は楽になった。そもそもこの話を持ってきたのは勇者だ。安全面からエミリに探偵テクニックを身に着けさせたいだけで、厳しくするつもりはない。

 その根回しにエミリはやる気となった。勇者はまず初心者向けのコツを伝えた。

 

 「服装はおしゃれすぎずダサすぎず、目立たないようにな。この前もらった僧侶のお古でいいと思う。上着や帽子を脱いだり着たりできる格好がいいぞ。靴はスニーカーがいいな。歩けて足音しないのがベストだ」

 

 服と聞いてエミリは苦い思い出が蘇った。こっちに来てすぐ、とても上品な女性、僧侶により手持ちの服すべてを捨てられたのだ。とはいえ、エミリの手持ちは一枚高くて980円。それもなんでそんな服選んだという色形で毛玉だらけの服だ。僧侶の美意識では捨てたくもなるような服だった。

 代わりに僧侶は自分のお古をエミリに持ってきた。お古と言っても一度袖を通しただけの有名ブランドのものだ。金額的には得をしたのかもしれない。しかしサイズがきつい。

 とにかくそんな元僧侶の服をエミリが選べばほどよくおしゃれでださく見えて、尾行向きの格好となるだろう。

 

 「髪は女性調査員だとウイッグ使う場合が多いんだけど、エミリは簡単にまとめたりおろしたりしてればいいと思う。化粧は控えめにな」

 

 髪と化粧と聞いてまたもエミリは苦い思い出が蘇った。こっちに来てすぐ、

とてもかっこいい女性、戦士により髪を切られたのだ。長く重い前髪は眉で切られた。おかげですぐ人と目があって仕方ない。

 さらには基礎化粧品をおしつけられた。色を乗せるようなものはないが、日々の手入れが大事だと説教されたのだった。

 

 「あと、持ち物は携帯とか交通系ICカードとか鏡とか、前にマホから聞いたろ。それでいいから」

 

 持ち物と聞いてエミリはさらに苦い思い出が蘇った。こっちに来てすぐ、可愛い女子高生から探偵助手のレクチャーを受けた。

 彼女はふわふわしている雰囲気だが、探偵助手業を教えるとなるととたんに厳しい。一つうかつな言動をすればぴしゃりと指導の言葉が返ってくるのだった。

 

 そんなわけで、勇者の三人の仲間はなにかとエミリの世話を焼いた。本当は兄にアプローチしたいだろうに、今はエミリを優先してくれている。

 

 「皆、私を世話してくれる。……別にいいのに」

 「あいつら、面倒見がいいんだよ。俺も困っているときには助けてもらったから」

 「兄さんが?」

 

 器用に何でもこなすこの兄が三人の女子に頼ったことがあるなど、エミリには信じられない。しかし勇者はその事について答えることなく微笑んで、エミリの頭を撫でた。

 

 「とにかく、助けられたらそれに感謝して、皆が困っていたらいつか助けてやればいいって事だよ」

 

 心地よい妹扱いに、エミリはすべてを感謝した。今のエミリは前よりずっといい暮らしになっている。安心だってできるようになった。助けてくれたのは兄とその仲間たちだ。

 

 彼らの役立つ人間になるのは今は無理かもしれない。しかし足を引っ張らない人間になろうと、エミリは思う。

 

 

 

 


 

 

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