村娘のターン②


 「男なんて女の顔しか見てない。なのに気に入った女が彼氏持ちだったりしたら手のひら返して炎上させる。そしてもう忘れればいいのにいつまでも粘着して、関係ない人まで危害を加えて、ただ暴れたいだけ!」

 「……」

 「そういう男が私は嫌いなの!だから男なんて男同士でやおいして修羅場迎えた果てにひっついて、そして仲良く死ねば良い!」

 

 つまり男嫌いをこじらせてからのボーイズラブ趣味。人類のほぼ半分は男なのだから、エミリはそうでも考えなければ耐えられなかったのかもしれない。


 しかし勇者には身に覚えがある事だった。彼は炎上をよく好んでいた。確かに炎上は粘着質な気持ちから来る事が多いという。『悪いやつには何をしてもいい』という考え方からエスカレートするものだ。一応勇者は『正しい事を望む人が見たい』という気持ちから炎上を見るだけだが、エミリからしてみれば同じだろう。彼の耳には痛い話だった。

 アイドルの彼氏発覚といったような炎上は勇者も望まない。しかしそのタイプの炎上をエミリは経験した。それは男嫌いになっても無理はないことだと勇者は思う。

 

 「俺がもっと早くに気付いてたら、こんなことにはならなかったのか?」

 「違う、私の考えが甘かっただけ。兄さんが同じ世界同じ国同じ時代に生まれているとも限らない。そもそもライトノベルなんて読むのは少数派なのに、そのなかで兄さんが読んでくれると思うのが間違ってる」

 

 そこは冷静にエミリは語る。どれだけライトノベルが流行っていたとしても、世界には読まない人間の方が遥かに多い。勇者がそちらに属していてもおかしくはない。

 しかし当時のエミリにはそんな事がわからなかった。ただ兄に会いたくて、少しでもある可能性にかけた。

 

 「どうしてそこまでして俺に会おうとしたんだ?」

 「それは……」

 「もう時間が経っていて今更遅いのはわかってる。けど俺はそこまでして俺を探そうとした理由が知りたいんだ」

 

 あにゆうを書いた理由となると、エミリは顔をそむけた。そして黙り込む。少し前までの人見知りモードだ。

 なので勇者は考えてみる。ただ会いたいだけで勇者のための小説なんて書くはずがない。 

 

 「きっとエミリは苦労したんだろう。それで俺に助けて欲しくて呼んだんだろう。でも、ごめん。俺は間に合わなかった。今になってようやく気づいたんだ」

 

 とても申し訳なさそうに勇者は頭を下げ謝罪した。エミリは現世で何か困ったことがあって勇者を呼んだ。それに間に合わず、炎上からの不利益を被ったのならエミリは災難しかない。

 

 「俺は最低な兄貴だ。妹が困ってたのに、助けを求めていたのに、なにもできなかった……」

 「兄さんは最低なんかじゃない!」

 

 反射的に叫んだのはエミリだった。

 

 「兄さんは立派な兄さんだ!それで立派な勇者だ!血の繋がらない私をほんとの妹みたいに扱って、魔王を倒して!皆にも褒められるはずだったのに!」

 

 そして涙をこぼし、エミリは目元を強く握る。そして低く唸るようにつぶやいた。

 

 「なのに、私が殺した……っ」

 

 エミリの長く重い前髪は汗と涙で額にはりつく。メガネはもうとってある。丸くて可愛い作りの顔は自己嫌悪からくしゃくしゃになっている。

 勇者を暗殺したのは自分だと、エミリは言った。

 

 「……あにゆうを書いたのは、謝りたかったんだ。私が兄さんを殺してしまったから。謝って済むことじゃない。けど、あんなに優しかった兄さんにほんとの事を黙って転生して、幸せに暮らすなんてできない」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺を殺したって、どういうことなんだ?」

 

 謝りたいというのがエミリの兄を探した理由。しかし勇者がそれ以上に気になるのはエミリーが勇者を殺したという事実だ。

 

 「兄さんが魔王を倒して帰って来たとき、ごちそうを作ったんだ。それに毒を入れたのは、私だ……!」

 「え……」

 「知らなかったんだ!国の人がうちに魔王倒したっていう報告にしに来て、これを使ってと置いていった食材に毒が入っていただなんて!」

 

 

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