魔法使いのターン⑤
「でも前世で私を拾って育ててくれた魔女のおばあちゃんは、こっちじゃいないんだよね」
「魔女のおばあちゃん、か……なつかしいな」
「ゆうくんも慣れない一人旅で怪我して倒れていたところをおばあちゃんに拾われたんだよね」
「あのひとはよく人間を拾うんだな」
「えへへ。そういうおばあちゃんだったから」
魔法使いは力の抜けた笑みを見せる。前世で彼女を育てた『おばあちゃん』とは良い魔女だった。その並外れた力から公には迫害されてはいたが、困っている人を助けたりして密かに慕われていたという。もちろん魔法使いも勇者もその魔女を慕っている。
「それでゆうくんの怪我が治りかけてた時に、おばあちゃん病気で死んじゃってね。……わたし、ゆうくんがいて本当に良かったとおもったの」
「そうだったな……」
魔女の死は老衰だったのだろう。育ての親の死を若い魔法使いが一人で耐えられるはずがない。拾われ傷が癒えた勇者は葬儀や埋葬などの手伝いをした。魔女が今まで助けた人たちに声をかけ、皆で魔女を弔った。その手順や行動力や精神に魔法使いは救われた。
そして次に考えられるのは魔法使いのこれからだ。当時の彼女は魔女ほどのスキルはない。魔女の仕事を引き継げないし、女一人で生きていくのは難しい。そこに名案を出したのは勇者だった。
「ゆうくん、あの時一緒に行こうっていってくれたよね」
「ああ……マホが見習いでもやっていけるくらいの街まで一緒に行こうって意味だったんだけどな」
二人の間ではその言葉の受け取り方は違った。
勇者は一人旅に限界を感じていて仲間がほしかった。ただし育ての親を亡くしたばかりの少女に魔王討伐させるつもりはなく、彼女が安心して暮らせるような街まで『一緒に行こう』と言っただけだ。
しかし魔法使いは魔王討伐まで『一緒に行こう』という意味に受け取った。
結果魔法使いは魔法スキルをぐんぐんと上げて、パーティーの戦力となり魔王討伐の旅に最後までついて行ったのだった。
「えっと。前世の話してたんだよね。なんか楽しくて脱線しちゃったけど」
「ああ。家族が前世とも同じ率を知りたかっただけなんだ」
「同じ率……よくわかんないけど、あんまりないことなんじゃないかな。せんちゃんは前世も現世も同じらしいけど。それはどっちもすごく幸せな家庭だからだとおもう」
確かに一理ある。彼らは現世では幸せな家庭で育つ事が約束されている。戦士にとっては前世での家族が幸せだったから現世も同じだった。逆に魔法使いは捨てられた過去を持つため現世では違う人が親となった。
「そういえばそうちゃんの今のご両親はどんな人だっけ?」
「前世とは違うはずだ。僧侶は前世で貴族の血を引いてたけど愛人の子供で、本妻が嫉妬深くて仕方なく教会に預けられたとからしいから」
「そうちゃん、前から高貴なところがあったけど今も高貴なお嬢様だよね……前世が不運でも高貴だったから現世はより高貴になったのかな……」
そういう魔法使いも結構ないい家に生まれたのだが、それよりも遥かに僧侶の家はいい家だった。そして勇者の家もいい家。しかし親は前世では何の関係もない人だ。
「そういえば、ゆうくんの前世のお父さんとお母さんは?」
「普通にいい家族だったよ。母さんは俺を産んですぐ亡くなったけど、父さんは再婚した。でもちゃんと継母に面倒見てもらえたし。血の繋がらない妹もいたけど……まあ、仲は悪くはなかったかな」
「なかよし、とは言えないの?」
「妹は全然話してくれなかったんだ。思春期に年の近い男が兄貴面して一緒に住むのは嫌だろうなと思うし、喧嘩まではした事がなかったけど。そんな家庭だったから、わりと魔王討伐の旅に出るのは抵抗なかったな」
年は近いが血の繋がりのない兄妹。勇者は誰とでもうまくやるタイプだが、妹は人見知りをするタイプなのかもしれない。だから不仲というほどではないが会話を諦めていた。
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