戦士のターン⑥
「……そうだな。俺、忘れてたよ。戦士もだけど、俺には認めてくれる人がいるんだ」
「それって、僧侶や魔法使い?」
「ううん、あ、いや、その二人もだけど。俺の両親も、俺の事を認めてくれてた。いじめられっ子に恨まれた俺を褒めて、遠くの学校に行くことを許してくれて、探偵になるっていう夢も応援してくれたんだ」
戦士が聞けずにいたいろんな謎が判明した。勇者の両親は良識ある人らしい。いじめっ子を救って地元で居心地悪くしている勇者に別の選択を与えたし、彼の正義を考えて探偵という職を応援してくれている。正義と言えば警察だが、警察をすすめなかったのは勇者の性格を考えての事だろう。警察だって組織だ。勇者には我慢できそうにない事が山ほどある。
「ありがとう、戦士。俺はこんな大事な事を忘れていたみたいだ。認めてくれる人はきっといる。知らない人の正義を見なくていいくらいに」
「勇者……」
自分の言葉は確実に勇者に届いたのだと戦士は実感した。鏡越しに見る彼は、前世のように穏やかに微笑んでいた。ゲスさが消えた。そう思い、戦士は再びハサミを握る。
「じゃあカットを再開しようぜ。勇者をとびきりのイケメンにしてやるからな」
「あ、待って。新情報来た」
携帯電話が軽快な音を立てるまた通知があったらしく、勇者はそれを見た。もう炎上なんて見る必要がないほどに彼は周りの人の応援に気づいたのではなかったのか。
「さっきのいじめ動画、学校側は関係ないって声明出したってさ。いじめっ子もいじめられっ子も制服着て映ってるのに、よくそんな責任逃れな発言できるなー」
「ゆ、勇者……?」
「これはまたいじめっ子炎上から学校に燃え移るな。同じ学校の子かわいそうに。受験で嫌なイメージつくだろうな」
勇者は炎上を見るのをやめたのではなかったのか。しかし今の彼は楽しそうにまた画面の文字を追っている。炎上を見ていいと言ったのは戦士だ。だからもう止められない。肯定すればいいという考えは甘かった。
結論、周囲のありがたみに気づいたとしてもそう簡単に人は変わらない。
戦士は諦めて、炎上に夢中な彼の髪をイケメンに仕立てるため短く切ってやる事にした。
END
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