戦士のターン④
勇者も暗くなった表情から明るく笑った。前世での仲間達との出会い。それならば勇者も大丈夫らしい。
「あたしは僧侶が加入する前にパーティー入りしたんだっけ。確か魔法使いは既にいたもんな」
「ああ、俺と魔法使いだけじゃ戦力が足りないから。だから戦士の一族のいる里に行って、誰か強い人を雇おうとしたんだ」
「そうそう。でも兄貴達はそれを断った。うちはその戦力で傭兵みたいな事やっててさ、魔物で困ってる人達に雇われる方を選んだんだ」
魔物による脅威から戦士の一族は各地の護衛で引っ張りだこだったという。そんな中、魔王を倒せるかどうかもわからない勇者と魔法使いに同行しろと言われても信用できないのだろう。商人に付きそう仕事を受けた方が稼ぎになるし多くの人に役立てる。だから当時の勇者と魔法使いは諦めようとした。
「だからあたしがついていく事にしたんだ。女だから兄貴達みたいな仕事は任せられなかったあたしが!」
ハサミをまるで剣のように持ってポーズを決める戦士。それを鏡で見て勇者は吹き出した。
戦士は前世、女だからという理由で護衛などの仕事を請ける事は許されなかった。彼女の一族の女は鍛えはするがそれは里を守るためでしかない。同じく留守番中の女達と協力し、里や子を守る。そのため戦力はあるが外には出れない掟があった。
「うん。ついてきたのが君で良かった。旅立ったばかりの俺達は弱かったからな。どれだけ助けられた事か」
「ふふん。まぁ、帰ってからはあたしも認められたよ。これからは掟を変えて女でも強いやつはがんがん外に出そうって事にもなったし……」
誇っていた戦士もそれきり黙ってしまった。掟が変わったとしても、その後一族の女が外で護衛仕事をすることはなかった。その後に一族は散り散りとなったためだ。
掟が変わったのは魔王を倒して世界が平和になった時。勇者が暗殺された頃だ。そして戦士はその危機から国を出て毒キノコで死んだ。その後に戦士の一族も国に狙われたらしい。国から不名誉な濡れ衣を着せられて牢獄に送られたり、魔王の残党狩りとしてこき使われたりしたという。
国は勇者以外にも戦力の高い戦士の一族を警戒していた。これからは武力の必要のない時代なのに、武力を持つ戦士の一族に逆らわれてはいけない。もう魔物退治の必要のない世界なので殺す、もしくは拘束や疲弊させておきたかったのだろう。それがすべてを見てきた僧侶から伝えられた真実だ。
戦士だって今でもたまに前世を思い出し暗くなる事もある。魔王を倒すという正しいことをして、どうしてこんな思いをしなくてはならないのか。勇者が歪むのも仕方のない話だ。
「あっ、携帯みていい?」
そんな戦士の気持ちを察してか、勇者の携帯が鳴って、彼はそれを指さした。明るいその声に。戦士の暗い気持ちは晴れる。
「うん、いいよ。誰かからの連絡?電話なら中断するけど?」
「いや、ニュースサイトの通知。うん、予想通り炎上したみたいだな」
「……炎上かよ」
勇者は人の不幸、というか悪人の不幸を望む。仕事がらよく見る浮気や借金の発覚など。僧侶が分析するに、勇者は正義の基準が高い。しかし世の中に正義はない。だから悪事を働いた人間が罰せられる事を望む。わかりやすくいうと炎上だ。
しかし姑息な事を嫌う戦士はあまり良い顔をしない。
「いじめっ子中学生が自らいじめてるクラスメイトの暴行動画をネットにアップしたんだ。それで炎上」
「自ら?バカなの?」
「自慢かなにかのつもりなんだろうな。制服で身元割れてるし」
「ふうん……まさか勇者が身元割ったりしてないよな?」
「してない。加害者なんかになりたくはないし」
そっけなく言う勇者に戦士は安心した。いじめで炎上といっても、炎上だっていじめの一種のように戦士は思う。勇者はそれを見るのが好きなだけで、直接投稿者を非難するわけではない。
しかし炎上の文字の羅列を見て勇者は嬉しそうだ。
「それ、そんなにおもしろい?」
「おもしろいというより安心する。皆、いじめは悪いことだとして炎上させてるから」
「……そうかな。おもしろがって騒いでるだけの奴もいるんじゃねーの?」
「いるだろうな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます