僧侶のターン②
「エンカウント低下のスキルをどうしても覚えたいんだ。どうしたら覚えられると思う?」
僧侶は、勇者の考えていることが手に取るようにわかった。看護師で日々忙しく働く僧侶の手を借りる事はできない。なので自力でスキルを覚えようと言うのだろう。一応は自力でやってみようという所には好感が持てる気がするゲスさだ。
「ええと、そもそもの話ですが、私達のスキルは大きく三種類にわかれているそうなんです。私が使う人体に干渉するもの、魔法使いさんの使う自然に干渉するもの、勇者さんや戦士さんの使う戦闘技術のもの」
「うん。俺は戦闘や盾特化していたけど、どのタイプの素質もあったらしいんだ。使わなかったから成長しなかったけど」
「そうですね。素質はあると思います。その中で人体に干渉するスキルは神の力とされ、宗教関係者が得意としています。あれは祈りの力から成長するものなので」
「つまり、祈れば俺もスキル使えるってこと?」
「ええと……ようはどれだけ祈ったか、神のためにどれだけの修行をしたか、簡単に言ってしまえば自信や誇りなんです。例えば滝行や断食は効果が高いです。それだけ辛いことをしたという実感があるので。それをこの世界のシステムにかみ合わせます」
「噛み合わせる?」
勇者が改めて考えてみると、前世のスキルを現世で使えるというのはかなり不思議な事に思えてきた。
戦闘スキルは経験の記憶だ。こっち育ちの人間だって練習次第でできてしまうだろう。しかし魔法使いや僧侶のスキルはいろんな法則を無視していてこの世界で使えるのは違和感がある。
「神秘的でもなんでもないのですが、女神は複数の世界を管理しているんです。それでシステムが同じなので、やり方さえわかると世界を移動しようができてしまう。ただこの世界ではやり方が知らない人が多いだけです」
「つまり同じ機種の携帯でも持ち主によって使う機能は違うみたいなもんなのか、女神の世界は」
「そんなところです。だから私や魔法使いさんもこの世界でなら魔法じみたスキルが使えるんです。勿論、勇者さんもこちらの世界の人も、努力と才能があって、システムを知れば使えます」
「使っていいものなのか?」
「前世記憶ありの私達が使う分には大丈夫かと。無差別に私がこちらの人に教えては女神もいい顔をしないでしょうが」
彼らの前世での世界は『魔法のようなシステムに気付いた世界』であり、今いるこの世界は『魔法のようなシステムに気づけなかった世界』だ。
だから前世の記憶を持つ者なら難なくスキルが使える。この世界の記憶しかない人間も理解すれば使えるが、それが広まれば世界は大きく変わってしまい女神の世界の管理に悪影響があるかもしれない。
「その、努力と才能ってのは?とりあえず努力ならなんとかなると思うんだけど」
「極端な例を出すと、私が努力で魔法使いさんが才能です。信仰などの努力は大変ですけど誰にでもできることです。それは人体干渉のスキルに繋がります。しかし自然に干渉する力は才能によるものなので、私はまったく使えません。魔法使いさんは才能の中でも抜き出ているし、勇者さんも使えるはずですよ」
「はあ、僧侶も魔法使いも本当にすごいんだな。前から思ってたけど」
素直に褒める勇者こそすごいと僧侶は思う。こういうところは前世のままだ。前世であっても僧侶と魔法使いはあの世界では上位の腕前だ。逆に勇者は何かに突出しているわけではないが、どの素質もある。前世では盾役となりつつあったが、本来極められずともなんだってなれただろう。
「ひとまず修行って何がいい?僧侶は何してる?」
「……早寝早起きだとか食事などの節制だとかでしょうか。さっきもいいましたが、過酷さよりは自分に自信がもてるかどうかが大事だと思います。自信が持てない人間に癒やしのスキルは説得力がありませんから」
「そんな簡単でいいんだ?」
「まずは簡単なことからです。頑張った事を知っているのは自分だけですから」
それを聞いて、勇者は視線を落とした。僧侶はそこまで難しい事を言ったつもりはないのだが、と顔を覗き込む。
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