女神のターン
女神のターン①
待ち合わせは夕方の公園、ブランコ近く。桜の花は散り、鮮やかな葉が現れた頃だった。ブランコにはショートカットでカラフルな子供服に赤いランドセルを背負った小学生が座っている。
そこへ駄菓子の詰まった袋を持って現れたのは線の細い女性。看護師だという彼女は夜勤前故に時間がある。そして丁寧に小学生の少女に話しかけた。
「女神様。お待たせしましたか?」
「いや。友達と遊んどったからダイジョーブ。僧侶こそ今は看護師さんやねんから、そっちに合わせんとな」
女神と僧侶。仲間内では僧侶と呼ばれる女性はランドセルの小学生女児に向かって語りかけた。
女児は舌ったらずな関西弁で大人に対しても遠慮も緊張もなく返す。
「……いつ見ても聞いても驚かされますね。女神がランドセル背負って関西弁話すなんて」
「これはアバターみたいなもんやからな。神様が人間社会に溶け込むためのいれもんってゆーか」
「アバターが女児なのですか。関西弁は?」
「関西弁の雰囲気が神の言語に似てんねん。思考と発言がめっちゃなじむー」
「海外の人達が関西に自分の故郷に近い居心地の良さを感じるアレでしょうか」
僧侶と女神はすでに何度かやりとりしたような事を繰り返す。ただの人間に加護を与え勇者にした女神。そしてその後の事に責任を感じて転生させた女神。いまさらこの世界に関西弁JSで現れたって不思議ではない。ただ、なんでもできそうな彼女でもできないことは山ほどある。
それは世界に住む生物に直接干渉する事。そのため仮の姿としてこの姿となって、ずれた感覚で僧侶達と接する事しかできない。
「話はきいたで。勇者と会ったそうやんか?」
「ええ……」
「誰とくっついたん?子供何人くらいできそう?」
「女神思考がひどい」
僧侶は定期的に状況の報告していたのだが、女神は事の深刻さを理解していない。
女神の目的は管理している世界の繁栄だ。ただし神は世界に直接的な介入はできないため、気に入った人間に力を貸す。そうして勇者やその仲間ができた。
つまり勇者とは神お気に入りの人間。そしてそんなお気に入りには子孫繁栄して欲しい、というのが女神思考らしい。
しかし僧侶の知る勇者はそれどころではなかったのが、今日やって来た彼女の悩みだ。
「勇者さんは前世の記憶のせいで歪んでいました。死んだ目をして、人の不幸を喜んで。それで今回女神様になんとかしていただきたく、お願いに参りました。これ、お供えの駄菓子です」
「おおきにー」
「本当に高級なお菓子でなくてよかったのですか?」
「うちは今女子小学生やもん。駄菓子が身の丈にあっとる」
僧侶に渡された駄菓子から、女神はまずはスナック菓子を選びリスのように頬張る。女神にとって勇者や僧侶はお気に入りの人間。しかし個人的なお願いをするには対価がいる。それが駄菓子というのは安すぎるが、その辺りは女神思考のためだろう。
女神は人間世界に溶け込むための分不相応な振る舞いはしたくない。そして人間が女神に頼りすぎてもいけない。なので形だけでも対価は必要なようだ。
女神が頬張っている間、僧侶は改めて状況を説明する。
「勇者さんは人の不幸を喜ぶようになったんです。探偵をして、不倫カップルの証拠写真を嬉々として撮ったり、結婚前の身辺調査を依頼されて相手の男に借金があることが判明した途端にテンション上がったり」
急患が毎日のようにやってくるということで勇者と会わないようにしている僧侶だが、勇者の報告は魔法使いにさせている。
勇者は探偵業を毎日楽しそうにしているらしい。そして『僧侶や戦士が協力してくれないかなー』なんてわざとらしく言っているらしい。
「一応、犯罪行為には手を染めていないようです。なんといいますか、炎上するのを楽しげに見てはいても、加害するような行為には加担しないというか」
勇者の探偵としてのその仕事ぶりは悪いものではない。むしろ熱心すぎるほどだ。その熱心さが僧侶達にはどうかと思うわけだが、悪意ある人を探る事はそこまで悪いことではない。
彼は未成年の魔法使いを手伝わせているが、きちんとバイト代を払うしスキル手当まで出しているという。配偶者の浮気が証明された相手は清々しい気持ちで離婚できるし、婚約者の金銭トラブルに結婚する前に気付けた事はきっと幸いだ。
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