後編⑤
「しかし魔法使いさん。貴方は背負い込みすぎです。もう少し、私達に頼ろうとは思わなかったのてすか?」
「そうだぜ。あたしらが入り込んだら厄介かもしれないけど、一緒に考えるくらいはできるだろ?」
年長者として、しっかりものとして二人は優しく声をかける。しかし魔法使いは首を振る。
「でも、そうちゃんとせんちゃんがゆうくんをひどく言うなんてわたしには耐えられない……」
「言いませんよ。どんなに変わったとしても勇者さんです」
「二人はいつも駄目な異性にきついのに……?」
思い当たる事がすぐ見つかった大人二人は、そっと魔法使いから視線をそらした。
確かに勇者探し定例会では話題が尽きると仕事先で出会う男性の愚痴ばかり言っていた気がする。美容院で女性美容師を指名しひたすらセクハラ発言をする客とか、普通に看護しただけで自分に気があると思い込みストーカー行為をする患者だとか。そういった異性の愚痴を聞かされ続けた魔法使いだからこそ、勇者が二人に同じように語られるのは我慢できず隠していたのだろう。
「い、異性に辛辣なのは前世で勇者さんを見てきたからです。あんなに思慮深く素敵な男性、他にいません」
「そ、そうそう。考えてみりゃ勇者はゲスくなったけど、人として超えちゃいけない一線は超えてないんだし、そんなシンラツには言わないって!」
じっとりした疑いの目で二人を見る魔法使い。前世で歪んだのは勇者も魔法使いも同じだ。なので魔法使い個人としても、二人には否定されたくはなかった。勇者への否定は自分への否定に繋がってしまう。
「ただ、彼の精神状態は気になります。今はゲスいだけかもしれませんが、いつか取り返しのつかないことになるかもしれません」
「だな。カウンセリングとか受けさせりゃいいのか?」
「前世の記憶ですからねぇ……いっそ転生させた女神にどうにかしてもらった方が早そうで確実です」
彼の精神的な状態だけはなんとかしなくてはいけない。それまでは恋愛どころではない。三人はなによりも勇者の誠実さに惹かれたのだから。
頼れる年長者二人は具体的な勇者回復プランを考える。それはただそばにいるだけだった魔法使いにはできなかった事だ。
この三人でなら、元の優しい勇者に戻ってくれるかもしれない。この三人で、やっと見つけ出した勇者を元の誠実な人間にする。それが新たな目的だ。
魔法使いは前向きになった。しかしそれは彼女の携帯にメッセージが来るまでの事だ。
『戦士と僧侶引き止めといて。来週二人に付き合ってもらいたい依頼があるんだ』
そのメッセージを見て、魔法使いは冷静に考え、はっきりと提案する。
「とりあえず、そうちゃんはしばらく急患で、せんちゃんは急客で忙しいって事にして。ゆうくんから頼られても甘やかしちゃだめだよ」
急患はともかく急客ってなんだ、と二人は思う。今の勇者に有能スキルを持つ二人を頼らせてはいけない。ゲス的にも、恋路的にも。
そんな女三人の企みなどつゆほど知らず、今日も勇者は他人の不幸を求めてラブホテル街にいるのだった。
END
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