後編②


 「ぐっ……可愛いじゃねぇか」

 「ええ、大人びた風を装いながらもどこか垢抜けない所が可愛い」

 

 二人は強敵と出会ったかのように着替え終えた魔法使いを観察した。魔法使いは前世から頼りなく、現世では年下なのでより頼りなく見える。抜け駆けした魔法使いではあるが、二人はなんだかんだ言いながらも彼女を妹のように思っているところがあるのだ。

 

 その魔法使いは携帯電話を見て、そして進んだ。てっきり駅で勇者と待ち合わせするのかと思ったが、そうではないらしい。魔法使いは携帯電話への連絡を待っていたようだった。

 

 「待ち合わせ場所の変更か?」

 「わかりませんが、とにかくついていきましょう」

 

 さらに尾行。そして魔法使いが一人いかがわしい町並みに向かうのを見て二人は恐れる。まさか今度こそ二人でホテルに入るというのか。

 しかしその恐れは現実にはならず、魔法使いはこじんまりとしたカフェの付近で携帯を眺めた。

 

 「カフェで待合せ?」

 「いえ、彼女の視線や指先をよく見てください。ほぼ動いていません。あれは携帯を見ている振りです。本命はカフェの入り口でしょう」

 

 たしかに魔法使いの指はまともに動いていない。視線も携帯越しにカフェを見ている。怪しまれないように。

 しかしこっそりカフェの入り口なんて見て何をしようというのか。

 まさかここに勇者がやってくるというのか。しかしカフェからあるカップルが現れた所で魔法使いの瞳は見開いた。

 

 カフェから出てきたのはどこにでもいるような男女だ。どちらも三十代かそれ以下だろう。手をつないだりはしていないが、どこか距離が近い二人なのでカップルなのかもしれない。それを見て魔法使いはカバンに携帯を収め、そのカップルの後ろをついて歩く。

 カップルを魔法使いが尾行して、魔法使いを戦士僧侶が尾行する。変な集団の完成だ。

 そしてとあるホテルの中へカップルが入る。これから魔法使いがどうするのかと思えば、彼女はそこに居合わせた帽子をかぶった男と視線を合わせた。そしてハイタッチした。

 

 「???」

 

 戦士は疑問符を浮かべる。しかし帽子の男が爽やかに帽子を取るのをみて、裏返った声を上げた。爽やかで端正な顔立ちが夕日の下に現れる。

 

 「なななっ、なんで勇者が!?」

 

 エンカウント低下スキルではカバーできないほどの大声。それに魔法使いも勇者も振り返った。僧侶も呆れるが、これで大体の事情は掴めた。もう隠れる必要はない。

 

 「お久しぶりです、勇者さん。僧侶です。そして尾行してごめんなさい、魔法使いさん」

 

 僧侶は二人の前に姿を見せて、改めて挨拶をした。勇者も前世の仲間との再会に驚いてから好意的な反応する。

 

 「そ、僧侶?僧侶なのか?ああ、この世界でも会えるなんて」

 「あ、あたしは戦士!戦士だよ!勇者、わかるっ?」

 

 戦士も忘れられてはいけないと姿を見せる。前世と現世の容姿は微妙に違う。しかしその辺りは前世の記憶を持つものとして、魂でわかるものだ。

 

 「戦士、そうだ戦士だ。ああ、これで前世の仲間が揃うなんて」

 

 勇者は変わらなかった。二人の手をとって、仲間との再会を素直に喜んでくれている。心配していたのだろう。自分の亡き後、彼女達も命を狙われた。勇者は彼女達を守れなかった事を気に病んでいるのだろう。そしてこの世界でも彼女たちが幸せである事を望んだ。

 こうして会えて元気そうな姿を見れた事は嬉しかったはずだ。

 

 「ずっと君たちを探していたんだ。本当は会わないでおくつもりだったけど、つい最近にマホ……魔法使いに会って。僧侶たちにも会いたいなって思ったところなんだ」

 

 戦士と僧侶が魔法使いに視線を送れば、魔法使いはばつが悪そうに顔を背けた。

 どうやら魔法使いの抜け駆けは最近の事らしい。しかしそれでも勇者には『戦士や僧侶なんて知らない会ったことない』と言っていたようなので十分すぎる抜け駆けだ。

 再会を喜ぶ勇者に免じて、今ここで追求するつもりはないが。

 

 「それで勇者さん、どうして魔法使いさんとこんな所にいたのですか?」

 

 僧侶は笑顔のまま、しかし声にはわずかにトゲを含ませて尋ねる。何があったかを察してはいるが、未成年をいかがわしい街で連れ回すなど、あまり褒められるようなことではない。

 

 しかし罪悪感も感じさせず、勇者は答えた。

 

 「ああ、俺、探偵やっててさ。今日も不倫証拠を押さえに来たんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る