後編③


 明るい勇者に反して、魔法使いはうつむいて暗くなる。

 探偵。それは物語のような殺人事件を解決するものではなく、不倫の証拠を得たり、人を調べたりするような職業だろう。そして今回は不倫だった。

 

 「マホにはそれを手伝ってもらってたんだ。ほら、ホテル街で男一人だと浮くし、尾行は二人一組の方が確実なんだ。尾行対象が飲食店に入ったら片方が店内で、もう片方が店外で待ち伏せるのが常識だし」

 

 戦士は魔法使いがカフェの前で携帯を見る振りをしていた事を思い出す。あれは店外の待ち伏せだったのだろう。そして僧侶達は知らなかったが、店内には勇者がいた。

 そして二方向からの尾行が成功。勇者は見事不倫カップルが同時にホテルに入るというベストショットを収め、共通の目的を達成した喜びから魔法使いとハイタッチをした。

 思えば前回僧侶単独での尾行時、腕を組んでいたのも恋人の振りをしていたのだろう。


 「今日はスムーズにいったけどさ、どうしても都合よく対象がホテルに入ることなくて。そういう時にはマホに雨降らしてもらってたんだ。マホは水を操るスキルの応用でゲリラ豪雨起こせるからさ。ゲリラ豪雨ならその気がなくてもホテルに入る可能性がぐんと増すだろ?」

 

 増すだろと聞かれても。とにかくそういう事情で勇者は魔法使いを仕事上のパートナーにしていたらしい。確かに魔法使いのスキルは使いどころが限られるが、雨を降らせる程度なら不倫カップルの証拠を掴むには有効だ。

 自分の事情を話した勇者は次に僧侶達の事情を尋ねる。

 

 「そういえば、二人はなんでここに?尾行したとか聞こえたけど」

 「魔法使いさんがいかがわしい街に向かうのを見て心配になって尾行したんです。前世でのエンカウント率低下のスキルを使って」

 「エンカウント率低下!?そういやそんなうらやましいスキルあったな!それ使えば証拠写真取り放題だな!」

 

 勇者は尾行を責める事なく、スキルの話題に瞳を輝かせて食らいついた。確かに探偵という職業において僧侶のスキルは非常に便利であるはずだ。それに今回だって簡単に魔法使いを尾行できた。

 勇者ってこんなんだっけ、と戦士は違和感を覚える。仕事熱心なのだろうか。それなら前世と変わらない。前世の彼もひたむきに魔王討伐に取り組んでいて、そんなところが好きだった。

 しかしその仕事が不倫証拠集めというのは違うと思う。なにより未成年の魔法使いを巻き込んでいる。こんな危なっかしい事なのに。

 

 「勇者は、なんでこの仕事、してるの?」

 「人の不幸を暴いて金がもらえるって最っ高じゃないか!」

 

 女神も虜にする笑顔と共にさらりと返したのはゲスい言葉。

 確かに人の不幸。不倫された方もした方も不幸なはずだ。不倫された依頼人は不倫証拠写真で配偶者に離婚を迫り慰謝料をたっぷりと貰う。慰謝料から勇者は写真の報酬を貰う。それは正当な対価で、一応は犯罪ではない。

 しかしゲスい。

 

 「世の中は不倫を罰する時代!探偵の需要はうなぎ上り!そしてSNSなど承認欲求やマウント渦巻く時代!リア充ぶった写真から情報掴みやすくて笑えてくる!」

 

 勇者はずいぶんとぶっちゃける。つまり不倫が悪とされる世の中だからこそ探偵の所へ依頼人は途切れない。そしてSNSなどのやんわりとした自慢により人間関係や不倫のデート先など、ちょっと探れば掴めてしまう。

 確かに探偵をやっていれば高笑いしたくなるような時流だ。しかし本当にゲスい。

 

 「あ、悪い。ここで集まるとまずいな。どっかで時間潰してて、そんで落ち着いたら話でもしよう。俺はあのカップルが出てくるとこの写真もできれば撮りたいからさ」

 

 不倫カップルがホテルに入った時の写真は撮れたが、できれば出てくる時の写真もほしいので勇者はこのまま滞在。今度は数はいらないため一人でいいと、女子を追い払うのだった。

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