後編
後編①
魔法使いは駅のトイレで学校の制服から大人っぽい私服に着替える。そして慣れない化粧をして、携帯電話片手にそのまま駅で待機した。
連絡を待つのは勇者だ。戦士や僧侶に抜け駆けするようなかたちで、魔法使いは勇者と偶然再会した。
弁解したいが、本当に偶然だ。そしてすぐさま戦士と僧侶にも伝えるつもりだった。しかしそうはいかない事情がある。勇者は彼女達のよく知る勇者ではなくなったのだ。
魔法使いは人の視線を浴びている気がして、己の格好を改めて見た。
丸い瞳に赤く塗った唇はまだまだ幼い。タイトなニットにミニスカートで体のラインを出しても戦士には敵わない。いくら化粧をしても繊細な美貌を持つ僧侶には敵わない。慣れないヒールはすでに足が痛かった。
大人っぽくしたつもりだが、まだ子供に見えてしまうのかもしれない。この前なんて制服姿で勇者に会って、注意をされてしまった。『今度は大人っぽい格好で来てくれ』と。当然だ。この世界では大人が子供と交際してはいけない。
もしも勇者がセーラー服姿の自分一緒に歩いて、警察などに見つかり犯罪者扱いされてはいけない。だから魔法使いは精一杯大人の振りをしてここに立っている。
勇者からの連絡はまだない。それまでここで待機する。ここからは彼の都合優先だ。
「ゆうくんは、私がなんとかしなきゃ……」
例え利用されているとしても、魔法使いは勇者が好きだし尽くしたい。しかし本当に今の彼に尽くすのは正しいことなのかと悩むこともある。だから魔法使いは戦士や僧侶にもこの状況を教えられなかった。
その勇者からマークのついた地図が送られてきた。ここに来いとの事だ。地図を確認して、魔法使いはいかがわしい街へと進んだ。
■■■
魔法使いが大人モードで待っている少し前のこと。
魔法使いの通う高校は有名私立女子校である。戦士と僧侶はその高校が授業を終えた頃に待ち伏せし、魔法使いを尾行した。
黒のセーラー服に大荷物。セミロングの髪は下ろしたまま。その表情はどこか切羽つまったような雰囲気がある。そして魔法使いは今日も一人である。というか、彼女が同年代の友達と一緒にいるところなど戦士は見たことがない。
「当たりですね。魔法使いさんは今日、勇者さんと会うはずです」
「わかるのか?」
「大荷物ですから。学校の荷物の他に、私服を持ってきた。そして駅のトイレかどこかで着替えるつもりでしょう」
「なんで私服に?あいつの制服姿めちゃくちゃかわいいじゃん。あたしが男なら痛恨の一撃くらってるわ」
「彼女は一度制服で勇者さんに会ってます。それでも勇者さんに会心の一撃を与えられなかったし、制服姿で一緒にいたら勇者さんが社会的な痛恨の一撃くらってしまいます」
魔物の弱点を見破ってきた僧侶はその鋭い洞察力で言い当てる。
多分勇者は女子高生の制服姿に即死するようなタイプではない。僧侶が前に尾行したときだって二人はホテル街にいながらもどこにも入らず別々に帰ってしまった。
二人のどちらかが怖気づいたのか、そもそも二人はただの知り合いとしてただホテル街に迷い込んだだけなのか。まだわからないが絶望的な状況ではない。
二人は魔法使いに距離を詰める。かなり近くになるが、エンカウント低下スキルのおかげで魔法使いには気付く気配はない。
そして駅に着き、自宅とは別方向の電車に乗る彼女を見て確信した。やはり勇者と会うつもりだ。
「あの写真撮ったのと同じ街に行こうとしてんのか?」
「いえ、違うようです。ただ、彼女がこれから行こうとする所もホテルの多い所ですが」
少なくとも高校生が一人で行くところではない。そしてその駅のトイレで魔法使いは着替えて出てきた。この流れも僧侶の予想した通りだ。
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