前編④


 転生する際に彼女達は前世の記憶とスキルを持っていた。この人生が少しでも満喫できるように、という女神の配慮だろう。

 しかし戦士のスキルは物理攻撃のものが多い。それは相手の命を奪うものなので、あまり使いみちがなかった。かなり加減をしなければ人間相手だと殺してしまう。

 一方僧侶は戦闘補助のスキルが多い。ステータスアップならこの世界でもバレなく使えるが、重傷を回復するまでのことをしては流石に怪しまれる。

 

 「そういえば、私は五歳の時腕を骨折しましたけど、あまりの痛さに治癒スキル使っちゃいましたね。それもレントゲン撮ったあとに」

 「うわ、それは親も医者も驚いただろ?」

 「それはもう。なんとか回復が早いということでごまかしはしましたが」

 「でもやっぱ羨ましーよ。この時代じゃなによりステータスアップが効くんだもんな」

 「前世で頑張ったおかげてしょうね。戦士さんはもちろん魔法使いさんも勇者さんも補助スキルは使えなかったのですから」

 

 僧侶は戦闘力皆無だが、その分補助スキルに優れている。それもパーティメンバーが補助を不得意だったためだ。彼らの基本の戦法は勇者が切り込み隙を作り、戦士が大ダメージを与え時間を稼いで、その間に魔法使いが長い詠唱の魔法を使うというもの。そこに僧侶が補助して様々な敵に効果的な攻撃になるようにする。補助を誰も出来なかったからできるようになっただけだと僧侶は思う。

 

 「魔法使いさんも補助ができるはずなのですが、性格的に向いていないのでしょうね。攻撃魔法は強いのですがそれしか使えません」

 「確か、火とか水とかを操れるんだっけ。あいつもこの世界じゃ役に立てないスキルだな」

 「一方勇者さんも補助はできるのですが、彼は勇者だからか男性だからか一番危険な役目を引き受けてくれてました。だから盾役が主で、後衛になることがなく、使い慣れてはいない様子でした」

 「ほんっと、勇者っていい男だよな……」

 

 うっとりと戦士は戦いの記憶を思い出す。戦士だって女とはいえ戦う事を生業に選んだ覚悟はあった。それでも勇者は彼女達が無意味に傷つく事を許さない。一番危険な役目はいつだって彼が引き受けてくれたのだ。そのため彼は彼に備わっていた補助スキルを使わず防御や攻撃スキルばかりを使った。

 

 「と、日時確定しました。三日後です。平日ですので午後からの尾行になりますね」

 

 スマホ操作していた僧侶がそう告げる。三日後。その日に魔法使いを尾行すれば勇者が現れるかもしれない可能性がある。

 

 「すごいな、どうやって特定したんだ?」

 「まず私から魔法使いさんに遊びに行こうという話を持ちかけるんです。それでいつがいいかを聞いて、不自然に駄目な日を探るんです」

 「いや、駄目な日ってそんなんいっぱいあるだろ」

 「魔法使いさんは友達がいませんからほぼ暇です。そんな彼女に用事があるとすれば勇者さんです」

 

 戦士はなんだか悲しくなった。しかし今現在ここにいる女性二人も魔法使いと仲良しとは言い難い。おそらく魔法使いには同性を警戒させる程の魅力の持ち主であるため同性に嫌われやすいのだろう。

 だから魔法使いは基本暇で、彼女に用事がある日が一番あやしい。

 

 「わかった、あたしはその日月曜で定休日だから行けるな。僧侶は平気?」

 「ええ、夜勤がありますが大丈夫です」

 

 戦士は美容師、僧侶は看護師。幸いにも二人の仕事は平日午後でも尾行しやすい職業だった。

 そういえば、と僧侶は勇者の職業を思い出す。尾行していた時に見た彼は私服だった。スーツではなかった。

 彼は一体何の仕事をしているのだろうと僧侶は考える。しかしすぐやめた。もしも彼が無職だとしても養ってやればいいし気にしない。それだけの稼ぎが僧侶にはあったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る