前編②
戦士と僧侶は、魔法使いの年齢と勇者の良識に救われた。魔法使いが大人だったら、勇者が流されたりしたら終わりだ。
「できていないにしろ、こんなの許せないな。次の定例会で魔法使いをシメるか?」
「やめておきましょう。あの子はふわふわととぼけるに決まっています。それに勇者さんとどんな関係かは知りませんが、告げ口されても困ります」
「それもそうだな。ああ、くそっ、でも怒りがおさまらねぇ!」
戦士は怒りをおさめるためにも冷たいカフェラテを飲み干した。魔法使いからは裏切られていたし、勇者が見つかったのに近付けない。とくに二人は魔法使いを敵視していた。彼女達は二十五歳。そして魔法使いは十六歳。単純に若さが憎いし、頼りなさげなのに要領のいいところもあって侮れない。
「だいたいさー、なんで魔法使いだけ若いんだよ。肌とかぴちぴちさせやがって」
「若いのは、おそらく前世での私達の死因が原因ではないでしょうか」
「しいん?」
音も立てずにコーヒーを飲む僧侶に戦士は聞き返した。彼女達は魔王を倒した後、皆悲惨な死を迎えた。だからこそ魔王退治するよう指示した女神も責任感から転生させたのだ。
「たしか、勇者は故郷の村に帰ってから毒殺されたんだっけ?」
「ええ、魔王を倒したお祝いの席での事です。ご馳走の中に毒を盛られ、勇者さんは死んでしまいました。私がいたら助けられたのに、その時の私達は一時故郷に帰っていましたから」
めったに感情を顕にしない僧侶が、瞳を潤ませた。魔王を倒した凱旋後、パーティが解散してからの勇者の毒殺。それは国ぐるみの計画的なものだった。
解毒のできる僧侶がいれば助けられただろう。しかし彼女は出身である教会に報告していたためいなかった。
「勇者さんは魔王を倒したことにより国から恐れられたのです。こんな強い人間が反乱を起こしたら、なんて王は不安に思い、消しておきたかったのでしょう」
「腐ってやがるな。魔王退治に盛り立てて利用するだけ利用して、いらなくなったら怖いからって始末するのか」
「勇者さんの故郷の人間は脅されたそうです。勇者さんの食事に毒を盛らないと重税を課す、と。結局口封じのために村はその後焼かれましたが」
「ひでぇ話だ。でも、おかげであたしは次に進めた。村人の生き残りからその知らせを聞いてよその国に逃げたんだ。あたし達だって殺されかねないし外の国なら勇者暗殺の事を正しく罰してくれるって信じてたからな」
戦士も故郷に帰っていたが、彼女は毒殺されなかった。しかしそれも時間の問題であるし、勇者暗殺を知り許せなかったので、助けを求め国を脱出することにした。しかしそれはうまく行かなかった。
「あの時にあたしが毒キノコを食わなきゃ隣国にたどり着けたってのに……!」
「ばかですか」
勇者の死因から一転、急に間抜けな死因となった。しかしそれも理由はある。急いで国を出た戦士だが、そのためろくな備えがなかったのだ。手持ちの食料では足りず、自給自足で食料を探す。そして食べ慣れたキノコを見つけたが、植物とは生える場所により特性が変わるものだ。毒キノコにあたり彼女は死んだ。
「……まぁ、ある意味では戦士さんの死は良かったとも思えます。例え隣国に逃げ切れたとしても戦争が起きますから」
「戦争?なんでだよ。魔王を倒した勇者が殺されたってのに、なんで戦争なんかするんだ?」
「魔王という強大な敵がいなくなって、隣国は攻めいる理由を求めていたからです。そんな中勇者暗殺した国をとっちめると大義名分ができてしまいます。勇者は英雄ですから、そんな人が殺されたのなら色んな人が怒って協力してくれます」
魔王という強大な敵に対抗するため、ほとんどの国は協力していた。実際魔王がいる間は人間同士で戦争はできなかった。疲労した戦争後に魔王軍から攻撃をされては耐えられないからだ。しかし魔王がいなくなればその心配はない。戦争ができるようになってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます