聖女のあるべき生活(リリィ)
着替えて案内された部屋に行くとローデリック子爵と20名ほどの教会関係者が座っていた。
リリィの姿を確認すると、全員が椅子から立ち上がり、片膝を付いた礼を示す。
(う、うわぁぁ……)
「あ、あの……顔を上げてください。と言うより、椅子に座ってください。」
「いえ、そうはいきません」
ポゾン枢機卿が下を向いたまま答える。
「命令です。お願いですから、普通に椅子に座ってください」
全員がキョロキョロと、周りの人がどうするのか確認するような素振りをする。
「女神様の仰せとあれば……」
(おい! 聖女から女神にランクアップしちゃってるよ?)
このままでは不味いとリリィは焦る。
全員が座ったのを確認すると、奥の上座にリリィが座る。
後ろには、もう一人の聖女となのる女性が立っていた。
「あ、あの、あなたも座ってください」
「いえ、私は女神様にお仕えするのが使命ですから」
言っても無理そうな空気を感じたリリィは、正面を向き直す。
「それで……私は何かしないといけないのでしょうか?」
肝心の質問を問い質す。
「聖女としてお告げを聞くために、教会に通うのでしょうか?」
奉られるだけで、肝心の何を自分に求められているのかわかっていなかったのである。
「出来れば、王都に居ていただき我らが教皇……必要があれば、女神様の代わりに国を納めている国王にそのお言葉をお伝え頂ければと考えております」
「お、王都! (アベルの家から片道どれだけかかると思っているのよ!) そ、それは出来ません」
リリィの都合を知っているローデリック子爵が苦笑するのが見える。
「な、何故ですか! 理由をお聞かせください」
(アベルと離れたくないから……なんて言えないし……)
「こ、この地に産まれたことに意味がある筈です。私にも何があるのかわかりませんが、今はこの地を離れる訳にはいかないのです!」
「ま、まさか東の地に、何か災いが起きるというのですか?!」
笑いを必死に堪えるように俯くローデリック子爵の姿が見える。
(た、助けてよォ)
「今はまだ神より理由のお告げはありません。
ですが、神はまだこの地に残れと仰せです。それから、私は一人の普通の人、リリィとして民の中で過ごせとも仰せです」
もう全てをナノマシンのせいにして、事態の収集を測るリリィ。
「ふ、普通の人としてなど……お立場にあった生活をなさって下さい。この国は初代国王が神より統治を託された国でございます。」
(え?何?この国って神託が起源なの? あ、国教が正教会だから、その方が統治しやすいのか)
「この地を離れられないのであれば、せめてこの東教区教会で、お立場に見合った生活をして頂きたく」
(い、いやいやいや、こんな傅かれてたら息が詰まりそう)
「な、なりません。今まで通りが神のご意思です…ローデリック子爵様、お願い出来ますか?」
「は!女神様の仰せとあれば」
ローデリック子爵が頭を垂れる。
(絶対にあれは下を向いて笑ってるよね)
「ほ、他の皆様も今まで通りでお願いします」
「それでは、私が同行致します」
「えぇ? ど、同行って?」
「何かのお告げがあった際に、それを聞くものが必要かと」
先程からこの女性からは、どう言ってもダメな強い意識を感じるリリィであった。
「い、いや、今まで通り……」
「生活には口を挟みません。宜しいでしょうか、ローデリック子爵」
苦笑しながら頷く子爵。
反論出来ない流れであった。
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