戦いの後
「お館様……アベルのご両親への面会の仲介を求めて、リュジニャン騎士爵家、モンフォール男爵家からの使者が参っております」
アベルの女騎士との戦いの後のエヴルー子爵の元にはアベルを婿に迎えたいと言う申し入れの為、多数の使者訪れていた。
「他の申し入れと同じ様に、先方には相手が平民で貴族の応対が出来ないから後日、私から連絡すると伝えておけ」
初戦敗退と思っていたアベルが、まさかの活躍をしてしまい混乱していたところ、跡継ぎが居ない家から縁談が来てしまい、エヴルー子爵はアベルの扱いを決めかねていた。
「ガランに戻ったら話をせねばならないな……場合によっては、養子とする事も必要か」
この国では結婚は家と家の結びつきの意味が強く、家格が釣り合わない申し入れがあった場合まで考えて頭を悩ませる子爵であった。
◆
一方、その頃、闘技場で試合を観戦していたローデリック子爵と共に一人の男が来ていた。
「それで、子爵殿は聖女殿をどうされるおつもりですかな?」
男の名は、ウベルト=ポゾン枢機卿……正教会に身を置く重鎮であった。
「聖女というのは、リリィの事でしょうか?」
「えぇ、先日の光景を目にした者達がそう読んでおるそうですな。
傷付いた愛する者を光の力で、たちどころにに癒した……まさに聖女の姿も思えるような光景でしたので、民衆の気持ちはわかります」
「しかし、確か聖女と言う称号は……」
ローデリックは苦笑いを浮かべる。
「えぇ、本来は聖者、聖女と言うのは祭壇で神の声を聴く力を持つ者の事です。ただ、リリィ殿は洗礼すら受けておられない」
正教会は国の国教でもあった為、貴族家に産まれた者はほとんどが幼児時期に洗礼を受けるが、平民では成人時に半数くらいが受ける程度であった。
「もちろん、洗礼を受けていないのを咎めてはおりませんよ。
ただ、洗礼を受けていない者が聖女と呼ばれるのは、些か問題になるやもしれません。
聡明な子爵殿は適切な対応をして頂けると期待しておりますよ」
そう言い残すと、ポゾン枢機卿は去っていった。
(成人前に洗礼を受けるには親の同行が必要ですね……いやはや、貴族と平民の違いは色々とありますね。どうしたものでしょうか)
◆
場所は変わり闘技場の控え室。
女騎士、ケイティは、前評判通り順当に勝ち上がっていた。
「入るぞ」
ひとりの男がドアから顔をみせる。
「だ、団長!」
嬉しそうな顔で椅子から立ち上がるケイティ。
「順調そうだな、ケイティ」
部屋に入る団長に続いて、もう一人の男が入ってくる。
「こ、これは公爵様」
慌てて片膝を着け臣下の礼を取るケイティ。
「よい、面を上げよ」
「このような場所に足を運んで頂けるとは、如何様なご要件でしょうか」
「うむ……先日の少年を覚えておるか?」
「はい、もちろん」
「そなたから見てどうであった?」
少し考えてから、
「あの年であれ程の力を持つものは珍しく、年齢からしてまだまだ伸びるかと……。
許されるのであれば、自ら鍛えてみたいと思える程でございます」
「ふむ。確か、そなたは爵位を持っておったな」
「非才の身に過ぎた事ですが、名誉騎士爵を賜っております」
「女の身では一代限りの名誉爵位であるか……あの者を婿に取り子に爵位を継がせてみるのはどうだ?」
「お、お戯れを……流石に年が違いすぎます」
年齢的にありえないとケイティは返す。
「ははは、冗談だ。だが、あの者を鍛え上げる役目……もしかすると、頼むことになるかもしれぬぞ」
「はっ!その時は新たな剣として、かの者を鍛え上げてみせます!」
◆
周囲が自分達の将来を決めようとしている事など全く知らない二人はというと、
「アベルくん、ここ見てみよ」
「あ、あぁ……」
公都観光をしていたのだが
「むぅ……っていうか、なんでカーテローゼ様とアルバート様が付いてきてるんですか!」
その少し後ろにカーテローゼとアルバートが居た。
それぞれの家の執事から護衛を引き連れていたので、バレずに付いていく事など出来るわけもなく、当然リリィはすぐに気付く。
「あら、たまたまですわ。お気になさらず」
「良いですよ、もう……ほらアベル、入ろ」
2人が店に入るとカーテローゼがアルバートに呟く。
「しかし、あのふたりは……どういう関係なのかしら?」
「さぁ。平民の事はよく分からないが、許嫁じゃないのか?」
「私にも許嫁はおりますが、お会いした事はありまさんわよ?」
「私も似たようなものだな。許嫁など、家の都合でいつ変わるかも知れないからな」
自分達の周りには無い関係を持つ2人を、物珍しそうに見物するカーテローゼとアルバートのふたりであった。
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