治療方法

 

 倒れるアベルの元にリリィが駆け寄る。


「ハァハァ。息は……うん、まだ間に合う」

 アベルの胸に耳を当てながら鼓動と呼吸を確認するリリィ。


「な、何を……」

「腕は……後回しね。まずは血を止めないと」

 女騎士が声をかけるが、それには答えず両手をアベルに翳すと光がアベルの身体を包む。


「あ、あれは治癒魔法なのか?」

 会場がざわめき始める。


「血は止まってるけど、このままじゃ治療が進められない……アベルの腕を持って来て!」

 呆然とする女騎士にリリィが叫ぶ。


「あ、あぁ……だが、欠損部位は、魔法では……」

 女騎士が腕を拾いリリィに渡しながら言う。


 そこに治療の為に待機していた魔導師達が駆け寄る。

「急いで治療を始めるぞ」


「待ってください! 今のままだと腕が繋がりません!」

 治療をしようとする魔導師達をリリィが止める。


「な、何を言ってるんだ!魔法は無理だ、腕は諦めろ」


 腕や足などを失った状態で通常の治癒魔法を使うと傷口が塞がるだけで、繋がったりはしないのであった。


 治癒魔法の原理は自然治癒力を活性化させて治す為である。


 魔導師達を一瞥すると、アベルに目を戻し呟く。


「大丈夫です……私が治しますから」


 女騎士から受け取った腕をあるべき場所に添えると、目をつぶりイメージを作り出す。


(出血は水魔法で止めている…土魔法で縫合糸を生成……糸を動かして……骨、健、神経、血管を縫合……)


 腕を覆う光が強くなったと思ったら、キラキラと輝く多数の糸が現れ、アベルの腕の傷口に集まっていく。


「よし! 出来た!」

 目を開くと引き合うように腕が引っ付く。


「血流の再開に……細胞活性化……」

 リリィの呟きに合わせて煌めきが様子を変える。


「なんだ……こんな魔法……見たことも聞いたこともない……」

 目の前の光景に息を呑む魔導師達。


 だが、リリィが使っているのは初級の魔法であった。

 但し、治療が発生するギリギリの薄さで全身を覆い傷の特定と確認、血管単位での血流操作、縫合単位箇所のそれぞれを個別に治癒、と言う数十の魔法を同時に発生させていたのである。


「皮膚の縫合……完了。治癒……完了。縫合糸の生成解除……ふぅ」

 治療を終えて一息つくと、微弱な電気を流しアベルの覚醒を促す。


「んん……リリィ?」


「身体はどう? 右手は動く?」

 目を覚ますと傍らに座るリリィが優しく語りかけてくる。


「うん。動くよ……」

 支えられながら起き上がると、右手を確認して答える。


「あ、あの……」

 傍らに立ち尽くす魔導師達が声を掛ける。


「どこか休めるところありますか? 体力は魔法では戻せないので」

「は、はい。それでは救護室に」


 リリィの肩を借りて立ち上がるアベル。

 その足元はふらついていた。


「少年! 何かあれば力になろう。訪ねて来い」

 声を掛ける女騎士に会釈を返すと、二人は魔導師達と共に去っていった。

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