二回戦

 

 翌日、アベルの前に現れた対戦相手は、真っ白な鎧に身を包み、槍に斧を付けた武器、ハルバートを持つ女騎士だった。


「お、女の人?!」


「どうした少年。女の騎士より、その年でこの場にいる君の方がよほど珍しいと思うぞ?」

 と笑みをみせる女騎士。


「初戦は見せて貰ったからな。油断はしない」

 そう言うと左脚を前にした半身の体制で、穂先を下げ気味に構える。


 対してアベルは、剣を正眼に構える。


(昨日、リリィの話を聞いたからか、相手が女の人だからか、なんだか……)


 アベルは、張りつめていたものが自分の中から無くなり、気が抜けそうになるのを感じていた。


 ゴゥン

 試合開始の銅鑼が響き渡る。


「さきほどは油断しないと言ったが……買い被りだったか、なっ!」


 ハルバートが動いたと思った次の瞬間には、左からの薙ぎ払いが迫っていた。


 アベルが剣で受け止めようとした瞬間……ゾクッと悪寒が走る。

 慌てて後ろに飛び退いた所を、赤い閃光の軌跡を残してハルバートが通り過ぎる。


「少しは良くなりましたな。これならどうだ?!」


 右に抜けた筈のハルバートが返すように右下からアベルの腰を狙って跳ね上がってくる。


(近づかないと……)


 目に映るハルバートが通る軌跡のギリギリでかわせる様に半歩後ろに下がり、かわしたと思ったアベルの目に入ったのは、途中……丁度、アベルの正面で途切れる軌跡の線であった。


(まさか!)


 切り上げの途中でハルバートの動きが突きに切り替わる。

 咄嗟に身体を拗じるが反応が少し遅れた。


「ぐっ!」


 左肩に突き刺さるハルバートの柄を剣で打ち払い無理矢理引き離す。

 その反動で軽く刺さった穂先がアベルの左肩をえぐっていく。


「いい反応だ」


 次々と振るわれるハルバートと、それを剣で受けずにかわして避けるアベル。

 飛び散るアベルの血で女騎士の鎧がまだらに赤くなっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「まだ続けるか?」


(もう良いかな? 戦う理由も無くなったし……)


 そう思うと身体は重く感じ、さっきまでただ熱かった左肩の傷が痛み出した。

 アベルの気持ちを反映する様にゆっくりと剣先が下がっていく。


「その年でこれだけやれれば充分。さっきからお前の女も心配そうに見てるしな」


 女騎士の視線が一瞬アベルの後方に行く。


 釣られる様にアベルがそちらに目を向けると、心配そうに今にも泣きそうな顔で見守るリリィの姿があった。


「真剣のやり取りで、余所見するのは感心しないぞ」


「そうですね……でも、心配かけただけじゃ終われません!」


 そう言うやいなや、アベルは女騎士に向かって踏み込んだ。

 それに反応して突きが放たれる。


 左にズレてギリギリで交わしながら更に1歩踏み込むアベル。


「むぅ!」

 女騎士の表情が変わると同時にハルバートが回され斧部がアベルが踏み込んだ左側に現れる。

 咄嗟に斧と自分の身体の間に剣を挟むアベル。


 次の瞬間、斧部を受け止めた剣は真っ二つに折れ、アベルの右腕が切り飛ばされた。


「グゥ……」


 地面に転がされたアベルは、その勢いのまま中腰の姿勢で立ち上がる。

 素早く腰の後ろに付けていた狩りの時に解体で使っていたナイフを左手に構えた。


「ま、まだやる気か……」

 女騎士が驚愕の表情をみせる。


 年端も行かない子供が右腕を切り飛ばされてなお立ち向かってくる。

 普通では無かった。


 アベルは身体の中から湧き出す衝動に駆られていた。


 ゴゥンゴゥン

 その時、試合終了の銅鑼が鳴り響く。


 その音に一瞬気を緩めた時、女騎士の全身に寒気が走った。

 アベルの身体を沈めたかに見えた刹那、女騎士の足元まで踏み込んでいたアベルに足を払われる。


「ダメーー!!」

 闘技場に響くリリィの声。


 ふと見ると、ナイフが女騎士の首筋で止まっていた。


「リリィ……」

 そう呟くとアベルは意識を失った。

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