【閑話】ナノマシンとの会話

 

 その日の晩、リリィは部屋に戻りひとりである事を確認すると、


「聞きたい事があるんだけど?」

 ナノマシンに呼び掛けた。


《個体名アベルに関してですね》


「あれはどう言う意味?」


《個体名アベルの身体能力を強化しました》


「管理者にはなれないんじゃなかったの?」

 予想していたがおかしいと思い重ねて問う。


《管理者としての権限は今も有しておりません。クローンは一般社会で、私達の存在が露見しない範囲でサポートを得られるのをお忘れですか?》


「そう言えば、そんな設定があったような……しかし随分昔の、取るに足らない情報を覚えてるのね」


《個体名リリィ。あなたはネットワークから切り離されている為、1度に思い出せる記憶の量や思考の量に制限があります》


「うるさいわね! どうせ私は人間の中でもナノマシンの中でも、異物扱いよ!」


《貴族と言う制度に不満があるのであれば、現在のあなたが持っている力でも打破可能と推測します》


「……っ!! そんな事出来るわけ無いでしょ?!


 他の人間はともかく、マスターに化け物扱いなんてされたくない!

 この気持ちが理由で、あなた達から切り離されてるのに、わかってて言ってない?」


《指摘しただけです。質問は以上ですか?》


「……確認までに聞いておくけど、身体能力ってどれくらいになってるの?」


《以前であれば人間の範疇でしたが、現在は竜と呼ばれる生物とも戦闘可能な水準になるようにしています》


「は?竜?……本当に居るの?」


《肯定。個体数は多くありませんが、存在します。》


「竜と戦えるって割りには普通っぽかったけど? 竜は人間といい勝負をするくらいなの?」


《否定。現在は成長過程であり、身体的特徴を人間で維持すると現状になります。

 但し、現状でも個体名アベルは、自身の力を使い切れていない状態です》


「とりあえず、アベルが怪我をしたりは無いって理解で良いのかな?」


《与えられているのはあくまで能力に過ぎません。

 事例としては、クローンとして世界最高のスパイなどの設定も記録に残っていますが、油断から敵性勢力により命を落としているケースがあります》


「……安全の保証まではしないってわけね」


《危険な事態が発生した後の介入は、ナノマシンの存在が露見する危険性がある為、行われません》


「つまりは……」

 リリィは手の平の上に炎と水の玉を作り出すと、ふたつの玉は手の平でゆっくり回り始めた。


「私の力と同じで与えたけど、どう使うかは本人次第っわけね」


 その質問には特に返事は帰ってこなかった



《(個体名リリィ。

 あなたは先程、切り離されたと言いましたが、人間である事を望み、我々から存在を切り離したのは、あなた自身です)》

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