公都での再会
初戦の後、アベルは控え室に戻っていた。
「ここで待ってたら、執事さんが来て宿屋に連れてってくれるんだっけ」
大人に剣で勝っても、いまだ8歳。
片道2日かかる町は遠い地であり、一人で宿の手配もままならないのであった。
控え室の扉が開く。
「アベルー!」
入ってきたのはエヴルー子爵家の執事では無く、リリィであった。
そのままアベルに飛びつくリリィ。
「うわっ!」
ガタン……勢いよく飛びつかれた弾みで、椅子から転げ落ちる二人。
そのままアベルを下敷きに抱きついたたさまま、リリィは泣きじゃくっていた。
「アベル!アベル!心配したんだから!なんて危ない事ばっかりするのよ!」
「い、いや、これは……」
予想外の展開に戸惑うアベル。
そこに一緒に付いてきたアルバートが声を掛ける。
「気持ちわかってやれ……平民の身で貴族ばかりの学校に通いながら、泣き言1つ漏らさないそいつが、お前の心配をして泣いているんだ。それと……」
言いにくそうにアルバートが言葉を続ける。
「リリィ……下着が見えてるぞ」
その言葉に我に返ったリリィは、めくれ上がったスカートを急いで直す。
「……アルバート様。見ました?」
「い、いや、すぐに横を向いたから大丈夫だ」
顔を赤らめてアルバートが言う。
「何色でした?」
「……白」
「み、見てるじゃないですか! アルバート様のバカー!」
涙目で顔を真っ赤にしてリリィが怒鳴る。
「そ、そなたが悪いんだ! いきなり男を押し倒すなんて誰が予想出来る!」
「お、押し倒してなんていません! い、勢いです!」
「……はは……あははは」
アベルが笑い声を上げる。
「な、何よ」
「いや、悪い。リリィがリリィのままで良かったと思って」
「何よそれ……」
アベルが何を言ってるのかわからず、キョトンとする。
「それで、なんでアベルが大会に出てるの?」
椅子を直し、座りながらリリィが答える。
「あぁ、エヴルー子爵に呼ばれて……なんて言うか、リリィを取り返そう……と?」
アルバートに空いている椅子を手で勧めて、自分も座りながら言った。
「と?ってなに、っと?って。なんで疑問形なの?」
「いや、なんだろ? 流れでいつの間にかなってたから……でも、今のままだと、リリィは、ずっと家に帰ってこれないだろ?」
「……出場したら帰れるの?」
アベルの説明に首を傾げるリリィ。
「優勝したら返してくれるって約束になってる」
「返すって……アベル、あのね」
リリィが姿勢を直してアベルに語りかける。
「う、うん」
「エヴルー子爵とどう言う話をしたのかわからないけど……あの日の話聞いてたでしょ?私はあの家には戻れないよ?」
「……」
アベルは言葉を失う。
「でも……私の為にしてくれたのね。ありがとう」
微笑むリリィ。
「ただね。それなら尚更、戦うのは辞めるべきよ?私はアベルが怪我したりする方が辛いんだから」
「……今更、出るの辞めれないと……思う」
納得出来ないような表情をしながらアベルが言う。
リリィがアルバートを見るが、アルバートは首を横に振る。
「公爵様にもう一度お願いしてみるのは……」
「二人とも明日の対戦相手を調べてないみたいだな…心配する割に変なところで抜けている」
呆れた顔でアルバートが続ける。
「明日の対戦相手は、恐らく公爵家のお抱えの白銀騎士団副団長……前回の優勝者だ。
今、出場を辞めれば公爵が裏で手を回したと言う噂が立ちかねないから、棄権は無理だ。
せめて、今日が辛勝だったなら、子供相手にという話もあっただろうが、力を見せた今となっては……」
戦う理由が無くなったにも関わらず、戦うしか無い状況に暫し3人は無言になってしまった。
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