剣術大会
幼年学校では、年に1度、その年に学んだ事を確認する意味も含めて、剣術や弓、踊りや楽器などを競い合う行事があった。
そして、ガランの町の幼年学校で行われている剣術大会の決勝の場。
最年長である10歳にしては立派な身体付きをした男の子の向かいに、まだ幼児とも言える様な背丈のアベルが対峙していた。
普段であればただの学校の行事のひとつであったが、幼年学校に入ったばかりの子供が、歳上の子を破り決勝まで進んだ事が広まり、多数の見物人が来ていた。
「が、ガキの癖に生意気なんだよ!」
年上の男の子がアベルに言い放つ。
「いや、お前もガキだろ!」
「「あははは」」
見物人から飛ぶヤジに周囲から笑いが起きる。
「お、お静かにお願いします! ふ、ふた、二人とも、やり過ぎないように」
「おいおい、ヨハンのやつ、どもってるぞ」
「あははは」
教員とは言え、実際は只の平民にしか過ぎず、多少剣の腕が他の人より立つというだけだったヨハンは、慣れない場にしどろもどろになっている。
「アベルくん〜頑張って〜」
「そんなチビに優勝させるんじゃないぞー」
「アベル〜優勝しちゃえ〜」
双方の級友が、アベルに応援を飛ばす。
そんな中、アベルはゆっくりと木刀を構える。
それにつられて、年上の男の子も木刀を構えた。
「はじめ!!」
「うおおおおぉ!」
開始の掛け声と共に男の子が飛び出し、上段から木刀を振り下ろす。
アベルは、スっと右足を引いて半身を後ろにズラして振り下ろされた木刀を躱す。
そして、そのまま自分の木刀で相手の木刀と上から叩き落とした。
カララン……
乾いた音がして木刀が地面に転がる。
「そ、それまで!」
教員が終わりを告げると、
「「うわわあああ!!」」
「なんだ、なんだ、もう終わったのか!」
「あんなちびっ子にのに、凄いぞ!」
「やったぁ! アベルの優勝だ!」
周囲は、その結果に大騒ぎとなった。
「ありがとうございます」
アベルは、数歩下がるってから、今対峙したばかりの男の子に軽く頭を下げると、自分の級友達がいる方向に歩き出した。
「やったなぁ、すげぇじゃん、優勝だよ、優勝」
「かっこよかったよ! すごく!」
男の子の級友に肩を抱かれ、女の子の級友に手を掴まれ、もみくちゃにされながら、アベルは楽しそうに笑っていた。
◆
その数日後、公都に居るリリィは、教室で思い出し笑いをしながらニヤニヤしていた。
前の日の晩に届いたアベルからの手紙を思い出していたのだ。
「けんじゅつ で ゆうしょう した。
みんな ほめてくれて うれしかった。」
アベルからの手紙は、3回に1回くらいしか返ってこないし、返ってきても数行だった。
でも、必死に手紙を書くアベルを想像すると、幸せな気分になるリリィであった。
(優勝かぁ~嬉しかったんだろうなぁ。 お祝いしてあげたかったなぁ)
そんな事をリリィが思っていると、
「な、何をニヤニヤしてますの? 気持ち悪い」
カーテローゼである。
「あ、いえ……ガランに居る友達が、剣術大会で優勝したと聞いたので、嬉しくて」
「ふ〜ん。そんな野蛮な事が嬉しいのですね」
(う〜ん、なんて言えばいいんだろう)
いつもなら黙ってやり過ごすのだが、その時のリリィは自分の嬉しさをわかって欲しかった。
「家来の方が、剣術で優秀だと言われたとしたら、誇らしく思いませんか?」
普段は事なかれ主義で流すリリィだが、アベルの凄さをわかって欲しくなり、説明を始める。
「……それなら、少しわかる気もしますわ」
(良かった)
少しは通じたかなと、リリィが喜んだ矢先、
「いや、ガランの町の幼年学校は平民だけだろう。我々貴族の者達がでる剣術大会とは別物だ」
騎士の出であるアルバートが話に入ってくる。
「あら、そうですの? 農業の片手間でやってる平民の大会と、日々鍛えてる我々と一緒にしないで下さいませ」
一転して勝ち誇った顔をするカーテローゼ。
「リリィ……どれだけ腕が立っても平民では、そなたには釣り合わないぞ?」
何故かアルバートに、ダメ出しをされる。
「え? い、いや、私も平民……なのですが」
「いや、出自こそ平民とはいえ、子爵家で暮らし、普段我々と接するそなたは、ただの平民とは異なる。それを自覚すべきだ」
「そうですわね。少し認識を改めた方がよろしいですわよ」
貴族でも無いが、平民とも違うと言われて……公都についてから感じていた孤独感が、更に増した気分になるリリィであった。
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