弓の授業(アベル)

 

 アベルが目を覚まして数日後、すっかり身体は回復しアベルは動けるようになっていた。


 いや、倒れる前より身体は軽く、調子が良くなった気がする程だった。



「もう、身体は大丈夫なのか?」

 アベルが1階に降りると、父親のカインが尋ねてきた。


「うん、もう大丈夫。学校に行って来るよ」

 カインにそう伝えると、アベルはそのまま家を出て、久しぶりの学校に向かった。



「あ! アベルが来てる! どうしたんだ、何日も休んで」

「アベルくん、大丈夫?」


 学校に行くと、心配してくれていた友人がアベルに声を掛けてくる。



「あぁ、もう大丈夫。ありがとな」

「おう! しんどかったら言えよな」

 そう言いながらアベルの背を友人が軽く叩いた。



「そう言えば、今日、弓の授業あるけど出来るのか?しんどくないか?」

 今日の授業の内容を思い出した聞いてくる。


 平民が通う幼年学校では、文字の読み書きの他に、男子は狩りに使う弓や槍、女子は裁縫などがあった。


「大丈夫だと思う」

 身体はすっかり良いのだが、数日休んで心配を掛けたのを考えて、アベルはそう答えた。



 そして弓の授業に出る為に、男子が校庭へと移動する。


「アベルか。もう大丈夫なのか? 無理はするなよ」

 教員も体調を気にしたのだろう。アベルに声を掛け来る。


「はい。ありがとうございます」

 そう返事をしながら、アベルは弓を持つと空いた的の前に立った。


「休んでる間に腕なまってたりな。今日は、俺が勝つんじゃないか?」


 ニヤリと友人が後ろから声を掛ける。

 その友人は弓が上手かったが、それでもアベルの方が僅かに成績が良かったのだ。



 アベルは友人をチラリと見て笑うと、弓に矢を番えた。


(なんだ……これ……)


 アベルの目には、何故かハッキリと矢が飛ぶ軌道が映っていた。

 僅か動かすだけで、矢が何処に刺さるのかがハッキリとわかる。



 目に見える軌道に躊躇いながらも、その軌跡が的の中心に行く様にして矢を放つ。

 放たれた矢は、まるで吸い込まれる様に的の真ん中に当たる。



(まだ! もっと上手くやれる!)


 何故か直感的にそう感じたアベルは、感じるままに素早く2本の矢を取ると、立て続けに連続で放った。


 立て続けに放たれた2本目の矢は、先に刺さっていた矢を弾き飛ばして的の中心に刺さり、3本目の矢は……2本目の矢に当たると、その矢を2つに割きながら矢尻の部分に突き刺さったのだ。


「……」


「す、すげぇ」

「なんだ、それ!」

「すご〜い」


 一瞬の間の後、溢れんばかりの騒ぎとなる周囲の友人達。


「お、おい、アベル! 今のどうやったんだ?」

 先程の友人がアベルに聞いてくる。


「いや、なんとなく出来る気がしたんだ」

「なんとなくって……すげぇな、おまえ」


 友人の言葉に、アベルは照れくさそうに笑っていた、



 帰宅後、アベルはカインに声を掛けた。


「父さん、弓矢借りていい?」


「別に構わないが、どうするんだ?」

「ん〜、ちょっと森に狩りに行ってくる」


 その日から、毎日森に行き獲物を狩って、肉や毛皮を売るのがアベルの日課となった。

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