不安な事(リリィ)
「な、なんの真似だ……」
雰囲気が変わった事に怯む青年。
それを冷たい目で見るリリィ。
「……水弾:アクアボール」
リリィが呟くと、湯船から水の塊が浮き上がり青年の口元目掛けて飛んだ。
「なっ……ゴボゥ」
水の玉は青年の口を被ったまま貼り付いて止まる。
「何をするのです!」
扉からメイド長が駆け込んでくる。
リリィが、そのメイド長に向かって右手を動かすと、もう一つの水の玉が飛び出し、青年と同様にメイド長の口元を覆った。
リリィは右手を二人に向けたまま、ゆっくりと湯船から出ると、二人に歩み寄る。
「水の塊は、こんな使い方出来るのですよ」
リリィが右手を上にゆっくりと上げると、それに合わせて、液体であるはずの水に掴まれた様に二人の身体が持ち上がる。
「「んん! ゴボッ」」
「……水の中で暴れると、みず飲んじゃいますよ?」
その雰囲気は、周りに愛嬌を振り撒く普段のリリィとは違い、妖艶な冷たさがあった。
「(人間風情が)よくもやってくれたわね」
一部、自分の声が発声させられないのを訝しむ。
《禁止事項に触れる情報開示は出来ません》
(こんな時まで……)
自らの貞操の危機にも関わらず、自分を監視する存在に頭が少し冷静になる。
「ここで殺すと面倒だから……」
二人は、勢いよく何度も頷く。
「……ふふ、死んだ方がましだと思わせてあげるわ……火球:ファイアボール」
その呪文と共に2人の……4つの眼球から火が吹き出した。
「「んんん!!?!」」
「ふふ、目が焼かれる感覚はどうかしら?……癒しの水:アクアヒール」
即座に治療された二人の目からは、治療の水魔法なのか涙なのか大量の水が流れ出ていた。
「さぁ……もう1度よ」
「「んんん!」」
二人は激しく横に首を振る。
「火球:ファイアボール」
目の焼いては治療してを繰り返すこと数回……青年とメイド長の2人は、蒼白な顔の怯えた目でリリィを見ていた。
そんな様子に興味を失ったリリィが、手を横に振るとふたりが床に崩れ落ちた。
「一人で生きてもおかしくない年齢になったら、勝手に出ていくわ。それでも、私の敵に回るって言うなら、わかってるわね?」
リリィの言葉に、二人は必死に頷く。
既に二人には、貴族の誇りは残っていなかった。
ただ、目の前の暴力から逃れたい一心だったのだ。
それを見届けると、近くに掛けてあったタオルを身体に巻きつけ服を持つと、リリィは部屋へと戻っていった。
(はぁ……こんな姿はマスターに見せられないわね)
圧倒的な暴力で危機を打ち砕いたリリィであったが、思うのは復讐でも罪悪感でもなく、暴力的な振る舞いがバレて、アベルに嫌われ無いかどうかの心配だけであった。
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