アベルの剣術

 

 夜中…宿屋の主人とその妻が横になりながら話していた。


「凄いわね〜リリィちゃん。全ての属性の資質があるのよ」


「……それは凄そうだが、複数の魔法使いが居れば同じじゃないのか?」


 カインとミーシャである。


「そういう事じゃないの。宮廷魔導師ですら3つの属性しか無いのよ? 賢い子だなぁ~って思ってたけど、まさかあんな才能があるなんて……」


「そうか……随分と嬉しそうだな」




 カインは魔法を学んだことが無いので、凄さがイマイチわからなかった。

 強いていえばパーティに居れば便利そうだな……くらいの感覚であった。


「絶対にちゃんと勉強するべきよ。王都の魔導師学園なら学べるかなぁ……でも、全て属性を持ってる人なんていないだろうしなぁ」


「あ〜なんだ……浮かれるのはいいが、リリィちゃんは、うちの子じゃないし、本人が王都に行きたいかわからないだろ?」


 浮かれる妻に若干引き気味のカインであった。


「まぁ、何にせよ……あの子らはまだ子供だし、明日の朝からアベルに剣を教えるから、もう寝るよ」


「もう……凄いことなのに……」




(アベル……お前の未来の嫁さんは天才らしいぞ…尻に敷かれなきゃいいけどな…)


 そう思いながら、カインは眠りについた。



 ◇

 ◆

 ◇


 そして翌朝。

 宿屋の裏庭にカインとアベルが居た。



「とりあえず持ってみろ」


 カインが長剣をアベルに渡す。

 カインが昔使っていた鋼鉄の長剣だったが、アベルの身長では自分の身長より長い代物であった。


 かなりの重さのはずだったが、アベルは軽々と持ち、力が強い事はわかっていたので、カインもそれには特に驚かなかった。



「長過ぎない…?」


「短剣の方がいいかもしれないが、無いからな」



 鉄製品は、この世界でそれなりに貴重な代物であった。

 危険な生き物が多数生息する為に、どうしても採掘量が需要に追いつかないのである。

 ましてや子供用の剣など、貴族の子弟用にしか作られていなかった。




「両手で上段に構えるんだ…いや、手はこうだ」


 握り方を直しながら、アベルに上段に構えさせる。


「そこから振り下ろせ」


 ブォン、ガッ


 長過ぎる剣は地面に当たってしまう。



「やっぱり長過ぎるよ、これ…」


「まぁ、地面に当たるのは仕方がないし、下は土だから、多少ぶつかっても大丈夫だ」


「いや、やりにくいって意味で……」


「う〜ん、とは言っても上段からが基本だしなぁ……」


「手本見せてよ」


 アベルがカインに剣を差し出す。




「そうか……俺は片腕しか無いから、使えない技もあるが……よく見とけよ」


 少しにやけながらカインが剣を受け取る。


 息子に言われて少し自慢げな顔をしていたカインだが、上段に構えると一転して真剣な顔になる。


 ヒュ、ヒュヒュヒュン


 上段から振り下ろしたと思った矢先、流れる様な脚さばきで矢継ぎ早に連続技を繰り出すカイン。


 曲がりなりにも熟練冒険者として生き残って来ただけあり、それは隙の無い動きであった。




「おぉ〜」


「わかるか?剣を振った時の音の違いが……身体がブレなくなって剣に力が乗ると音が変わるんだ。それまではひたすら剣を振るんだぞ」


「うん、わかった。やってみる」


「じゃぁ、俺は店の支度をしてくるから、しばらくひとりでやってみてくれ。あ、怪我はしないように気をつけてな」


「うん」


 カインはアベルを残して宿屋の裏口に向かった。




(とは言っても、流石に長すぎるよな…公都まで行けば、丁度いい長さの剣もあるかもしれないな)




 ブォン


 カインの技を真似て見ようとしたが剣を振る度に、剣の重さで身体が振り回される。


 力はあっても体重が足りなかったのである。


「うーん、どうしても流れるなぁ……あ、無理に止めなければどうだろ?」




 1時間ほどした頃、裏口からカインが裏庭に戻ってきた。


「そろそろ腕がパンパンになってきたんじゃないか。少しやす…」


 そう言ったカインが見たものは…剣の重さを利用して、縦横無尽に連続で切り込んみ続ける息子の姿であった。


「あ、音も父さんみたいになったよ」



 ヒュン、ヒュヒュン、ヒュン


「か、変わった剣の使い方……だな」


「自分の身体ごと振らないと安定しないんだよね〜でも、だいぶ思い通りに振れるようになったよ」



(ミーシャ…リリィちゃんだけじゃなく、俺たちの息子も天才かも知れないぞ?)


 変則的な動きで高速に繰り出されるアベルの剣は、カインでもまともに切り合うのを躊躇する速度になっていたのである。

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