リリィの才能

 

 カインとミーシャの寝室に二人は移動した。



「とりあえず、魔法適正を見てみようか。適正が無いと魔法は使えないからね」


「ま、魔法適正……?」

 ミーシャの発言にリリィは首を傾げる。



(適正って何かしら?そんなもの設定したかなぁ?)



 人類が滅びないようにと魔法を設定したナノマシンであった頃のリリィだ。

 だが、人類の活動域が安定してからは、あまり気にしてなかったのである。



「魔法適正は、生まれた時に決まっていて、一人一人使える力が決まっていると言われているの」

 ミーシャが何やら道具を並べながら続ける。



「だから……魔法を学ぶ時には最初に適正があるかをみるの」

「はい」


 リリィはミーシャと話しながら、ナノマシンだった頃の事を思い出していた。



(えっと……確か最初の頃って……)


 リリィは、魔法……イメージによる事象の発生現象……を人類に設定した時のことを思い出す。





 巨大な生物や亜人から身を守る為、魔法を世界中に散らばるナノマシンに設定した初期段階では、その力を使って人類は森を焼き払い、海を割り、山を作れる程の事象を生み出せたのだ。


 だが、強すぎたその力により、周囲に居た別の者が、生み出した炎に焼かれ、津波に飲み込まれ、崖から落下して死んでしまう事が多々起きていた。


 また、全ての人類が使えてしまう状態だったので、それを元に人類同士が争い出す始末だった。


 強すぎる力は逆に滅亡の原因になりかねないと判断したナノマシンは、魔法で起きる事象を制限した上で、使える人も遺伝子情報の一部因子が合致する人だけに限定する事にしたのであった。





「それで、これを使うの」

 ミーシャが1枚の紙を床に敷く。


 リリィが過去を思い出している間に用意が済んだらしい。

 そこには複雑な紋様が書かれた6つの円が六芒星の配置で描かれていた。


「これは何ですか?」


「これはねぇ……昔の偉い賢者様が作り出した魔法適正を見るための魔法陣よ」

 ミーシャがリリィの質問に応える。



「偉い賢者様……賢者って言いながら偉くないと嫌ですよね」

 何故か変な所が気になるリリィ。


「そ、そこはいいのよ……

(相変わらず変なところで細かい…)

 と、とりあえず、魔法を頑張って勉強しても、自分に適正がそもそも無いってなったら時間が勿体ないでしょ?

 だから、勉強をする前に使える魔法の属性が分かるようにしたのがこれなの」


「属性……火、水、風、土……に、光と闇……ですか。氷を作ったりとかは?」

 ふと湧いた疑問をリリィはミーシャに聞いてみる。


「氷は水の属性になるわね」



(液体を操るのが水だとしても、火が物質の温度を変えるなら、同じく温度を下げて氷を作るのは火ではならないのだろうか)


 ナノマシンだったことから、知識がある分、この世界での属性の分類にイマイチ釈然としないリリィであった。



「さぁ、真ん中の円に手を置いて」

 ミーシャに促されて、紙の中心にある円に両手を置くリリィ。


「何も起きない…よ?」

 紙は何も反応を起こさない。


(こんな紙があるなんて知らなかったから、もしかして使えないってなっちゃうのかな……それだと、色々と誤魔化すのが面倒になるなぁ)


 リリィは、アベルに冒険者としてついて行く為に、足でまといにならないと証明しなければ行けないのだが、人間が勝手に作った魔法陣とやらの仕組みがわからず困ってしまう。



「リリィちゃん。今から順番に言うから頭の中でイメージしてみてね」

 ミーシャがリリィに語り掛ける。




「まずは火をイメージして。ロウソクの火でも暖炉の火でも、火ならなんでも良いよ」


(火か……火の玉を出したりとかするのかな? 氷が水から、温度って訳じゃ無いのよね? 燃焼する事象限定なのかな?)




「ダメかぁ。じゃぁ、次に水ね。川とかコップの水とか……とりあえず水をイメージしてね」


(水……魔法の水ってどこから出てくるんだろ? 大気中? でも、それだとたいした量にならないよね)




「……次は土かな。これは、普通に地面が早いかな」


(土って家を作ったり出来るのかな? そうだったら、アベルと住む家を作れたりするかな。あれ? 木は魔法に無いのかな? 植物は駄目なのかな?)




「最後は、光と闇だけど、これは光が当たっている場所と、それで出来る影をイメージするのが早いと思う」


(光ってなんだろう……身体が光ったり?笑 それに闇って影の事? 光で起きる反応よね? 何が出来るのかさっぱり想像つかないけど……寧ろ、光と闇って属性分ける必要あるのかな?)



「……ごめんね、リリィちゃん。魔法適正は無いみたい」

 ミーシャが申し訳無さそうな顔をしてリリィに言った。


「ううん。ミーシャおばさんが悪いわけじゃないよ」

 リリィはミーシャにそう返しながら、


(アベルは剣を習うって言ってたから、弓とか練習した方が良いのかな?

 でも、なんだか今のまま行くと、火が使える魔法使いや、回復が使える魔法使い? みたいな女の子が仲間になりそう。

 二人きりが良いのに……魔法使えるようにならないかな)


 リリィがそう考えた瞬間、唐突に頭に声が流れる。


《管理者用インターフェイスの要望を確認しました。一定条件での意識による事象発生……分類名、魔法に対する権限を設定しました》


(い、インターフェイス……私、もしかして、ナノマシンとして……分離されてた?)


 人間として振る舞う都合上、ナノマシンの集合体から、リリィを構成する部分として既に分離されている事に、人間として産まれてから5年して初めて気がつくリリィであった。


 彼女は、既にナノマシンの意識集合体では無かったのだ。



 次の瞬間、リリィの周囲から何が集まり、手を置いていた魔法陣に流れ込んだ。


「り、リリィちゃん……リリィちゃん!」

「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃってました」

 ミーシャの言葉に我に返り魔法陣に目を向けるリリィ。


 そこには、全ての円が光る紙があった。


「あっ……」


「全ての属性に適正があるなんて凄いよ! あってもどれか1つが普通だし、2つでも稀なのよ!」


「そ、そうなんですか」


「リリィちゃん、王都の魔術学園に行くべきよ!賢者の称号だって夢じゃないわ!」


「考えておきます」


 全ての属性が反応する自体に興奮気味になるミーシャだったが、リリィは自分がナノマシンとして分離されていた事実の前には、瑣末な問題であった。



「リリィちゃん、大丈夫?いきなりじゃ、びっくりするよね。

 でも、全ての属性ってすごい事なんだよ。

 あっ、いくつかの魔法の本、持っていく?」


「はい、ありがとうございます」


 上の空で本を受け取り…気がつくと、リリィは、いつの間にか自分の部屋に居た。


(に、人間として……生きるって事? 死んだら、私はどうなっちゃうの?)


 神ともいえる万能の力を持つ存在から一転、自身が人間として、その力から切り離されている事に愕然とするリリィであった。

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