名前
次の日の朝、俺がまず目にしたのは、見慣れない白天井。
数秒の思考の後、ここがどこなのかと、いまの状況を思い出す。
「また大変なことになったな~」
ソファから起き上がり、軽く身体を伸ばす。
何か違和感があり、服が少しはだけている気がする。
そんなに寝相が悪い方ではないと思うが......。
ベッドを見ると、ユリエルはいない。先に起きて、どこかへ行ってしまったらしい。
特にどうすることもできないので、ソファに座ってダラダラしていると、数十分後、部屋の扉が開き、何か荷物を抱えたユリエルが入ってきた。
「キド様、起きていらっしゃったのですね。使用人に頼んで、服を見繕って来ました。私の恋人を演じていただく以上、ある程度正装をしていただかないと。今の服ではその...」
分かってる。俺の今の格好は、もとの世界にいたときのままの、ダサいTシャツとジーンズだ。
「それでは、私は一端部屋を出ますので、サイズが合わなかったら言ってください」
「あぁ、わかった」
ユリエルが部屋を出た後、俺はユリエルの持ってきてくれた服に着替える。
サイズはちょうどだった。
着替え終わって、鏡を見てみる。
タキシードに近いパリッとした服だ。
「あの、もういいでしょうか?」
「いいぞ」
ユリエルが入ってきて俺を見ると、ハッとした顔をする。
「変かな?」
「いいえ、とっても凛々しくて素敵です」
やっぱり照れる。
「では行きましょうか」
「え?どこへ?」
「これから私の父、アルファ王国国王に会っていただきます」
「え?」
・・・・・・・・
俺はユリエルに連れられ、広い通路を歩いていた。
「あのさ......」
「心配いりません。私に話を合わせていただければ」
「そうじゃなくて......後ろの人、誰?」
並んで歩く俺たちの後ろに、十代中盤くらいのメイド服を着た女の子がついてきている。
「私の専属メイドです。事情は話してあるので安心してください」
「はぁ...」
振り返って専属メイドさんを見ると、色白で可愛い顔なのに、どこか無機質感が否めない。
というより、さっきから顔動いてなくないか?
しばらく歩くと、そこそこに大きな門の前に着いた。
「ここが謁見室です。先ほども言ったように、私に話を会わせてください。それから......」
「それから?」
「ここからは、できればその......名前で呼んでいただけると」
「?」
「恋人を装うのですから、名前呼びの方が自然かなと......」
「分かった。なら、俺のことも颯って呼んでくれ」
「ハヤテ様?」
「そう、言い損ねてたけど、そっちが名前なんだ。それから呼び捨てでいいよ」
「わかりました、ハヤテ!」
「うん、ユリエル」
口ではこんなこと言ってるけど、頭の中はだいぶパニクってます。
「お二人とも、そろそろ入られたほうが」
専属メイドさんが喋った!(当たり前だけど)
俺たちはなんかドギマギした状態で、扉を開けた。
初めての異世界だけど仲間が超TUEEEEから多分大丈夫 秋野シモン @akinoshimon
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