第4話 初デー・・・ト?


 祖父母の追及を受けてから二日ほど経って今日は金曜日。学校ではまだ瀧石さんの彼氏が誰かといったうわさが消えないでいるが、俺かもなんてことは誰からも聞いたことはない。他校にいるプロ注目のサッカー部キャプテンだとか大学生だとか社会人だとか。そんなわけでここ一週間はクラス、いや学校全体が落ち着きなくにぎわっていた。

 まあ実際彼氏役を引き受けることになったとはいえ、あの日から何かともに行動したわけでもなければ、会話すら一言二言なのでもしかしたらこのまま終わってくれるかななんて考えたりもした。・・・さっきまでは。


 たまにしかな鳴ることのないスマホのバイブがあったためそれを開くと、どうやら瀧石さんからのメールだった。連絡先はあの日俺の家に向かう途中で交換した。とはいえ初メールになるわけだが、その内容は

「明日いろいろやる予定だから空けといて!10時に駅前集合で!来なかったらこの前のこと家にばらしに行くからよろしく」

 若干脅迫めいたものだった。




 とまあそんな連絡をうけて行かないわけにもいかず、この前協力してもらったのだからその分は働かなければなんてわけで駅前に来たわけだが、目の前にいたのはこめかみをぴくぴくさせながら不機嫌そうにする瀧石さんだった。


「ほんとは私よりも早く来てほしかったんだけど、まあそれは今回は目をつぶりましょう。」

 簡単に挨拶を交わした後でなぜか説教が始まった。

「その服はもう少し何とかならなかったの!体裁上は一応デートみたいになっちゃうのにその服じゃ飾りっけなさすぎるでしょ!」

 俺の服装は白シャツにジーパン、ただし俺は自分で服を買うことがなかったのでどちらも兄のおさがりだ。身長が兄貴の方が高いため少しダボっとしているがまあ着れないこともないから今までそれで過ごしてきた。

「あといつも思ってるんだけどその眼鏡ダサいからね。先生に伊達って言われてたけどそんなのかけない方がいいよ。」

 俺の服装は眼鏡すらぼろくそに言われてしまうようだ。これも兄貴が「お前は眼鏡でもかけとけば、キャラ的に。」なんて言われて無理やりつけられてから特に意味もなくかけ続けただけのものだけど。

「ってことで外そうか。」

 彼女の手が伸びてきていつもかけていた眼鏡がとられる。度は入っていないとはいえレンズなしで初めて彼女と向き合うことになった。

「あれ?普通にいい顔してるじゃん。眼鏡ダサすぎて気づかなかっただけかぁ」

 少し驚いたような表情をされるが、彼女はすぐに笑顔に戻り

「これからは学校でも眼鏡禁止ね!そのままの顔で来ること!」

 まあ眼鏡をかけた方が勉強に集中できるのでまだ手放すことはできないと思うが、今は何の問題もないので手渡された自分の眼鏡をしまい、本題に入る。


「それでは今日の目的を発表します。」

 デデーン!と効果音が入りそうな前振りが行われる。

「まあ簡単に言えば君を私の彼氏として信ぴょう性を持たせよう!という企画ね。今のままじゃ変に疑ってくる人とかいそうだから少しでも信じてもらえるようにしようと思ってね。」

 まあ確かにさっきから俺に対して睨むような視線や驚いたような表情をする人がいる。彼女と横に並んで違和感しかないということだろう。

「私は別に気にしないんだけどね、人の外見とかって。でもまわりがそう見てくれないから仕方なくね。ってことでまずはその服をどうにかしに行こう!」

 そう言って駅前からショッピングモールの方向へ歩き出す。

「そうそう、今週はまだ君の見た目改造をやってなかったから何も言わなかったけど、来週からしっかり働いてもらうから覚悟してね!」

 どうやらこれから嵐を起こそうとでもしているらしい…。






「まあ来週というか今日から働いてくれてもいいんだけど。」

「無理です無理です。助けてください、かくまってください。」


 ショッピングモールに入ってから俺の服を選ぶためにいろんな店に連れまわされた。試着させられてはいいと思ったものを買わされ、眼鏡は捨てられ、散々な一日を過ごしていた。・・・まだそれだけならよかった。なんだかんだで眼鏡以外なら俺の意見も聞いてはくれるし、私服なんてそんなに買う機会がなかったのだからありがたいことだった。

 ただやっぱり学校から一番近いショッピングモールを選んでしまったことが間違いというか彼女の策略だったのだろう。


「ほら、ちょうどクラスメイトがいるんだから彼氏のフリお願いね。」


 ついさっきそんなことを唐突に言われた。向こうにはまだ気づかれていないようだけれど、瀧石さんの存在感でこの後気づかれないなんてことはあるわけないだろう。

 ということで逃げようとしたところを片腕掴まれているのがさっきの会話だ。

「いや、ほんとに無理です。大体俺なんかが隣にいても彼氏に見えないですって。」

「うーん、じゃあしょうがないなぁ。ちょっとこっち来て」

 腕を掴まれ為すがままに連行される。

「もうほとんど完成してるからばれないと思うんだけど…、まあ最後に自信をつけるためにもってことで」

 入ったのは靴屋だった。いまさら靴で何が変わるのかはわからないが、ファッションセンスにおいては彼女の言うことに間違いはないはずだからいいのだろう。なにはともあれクラスメイトの集団から離れられたのだから良かった。


「はいじゃあこれ履いてきて、そしたらたぶん変われるかな。」

 瀧石さんが何を言いたいのかあまり分かっていないが、出された靴を恐る恐る履く。あぁなるほど、そういうことか。確かに今までとは違うな~、変わったな~、視点が。

 そう、そのままの意味で視点が違う。大体5センチくらい目線が高くなった。いわゆるシークレットシューズというやつだろう。見えない程度に底が上げられていつもより身長が高くなった気がする。

「うん、これでもう大丈夫かな。じゃあそれ買ってきてね~、ふふっ」

 やはり周りから見ても少しでも身長が高い方がいいのだろうか?もともとが170くらいだから今は175くらいか。そんなに高いわけではないけどまあまともに見られるのだろう。



「嘘・・・だろ。」

 誰にも聞こえない声でつぶやく。なんでこんなことになってしまったのだろう。

「ね、だから嘘じゃないってずっと言ってたじゃん。」

「へー、ほんとにいたんだ。みんなで絶対嘘だって言ってたのに、ねぇ」

「うん、今までそんな素振り全くなかったからね。でもやっぱり萌音の彼氏だからお洒落だね、さすが!」

 まさか靴を買ってはいてきたら目の前にはクラスメイトの集団がいっぱいいましたとさ、なんて想像してなかった。その真ん中には瀧石さんの姿があり、楽しく会話していた。

 こんなところでいきなりのネタ晴らしされるのか。なんの心構えもしてないのに、これできっと月曜日から目の敵にされるかもしれない。


「真面目そうな人だね、名前はなんていうんですか。」


 ・・・あれ?俺が誰か分かってない。まあもともと俺のことを誰も知らないって可能性もあるけど、でもクラスメイトにばれてないのであればこれから非難される心配もない。それなら何も問題がないじゃないか!


で、名前か。そんな設定なんて何も考えてなかったな。まあでもこれからまた会うわけでもないのだから適当でいいだろう。

「えーっと、や、山田です。」

 ダメだ、ほんとにアドリブ弱いなぁ。山田て。こんなのいつばれてもおかしくないな。

「へえ、山田…さん、君?年は?」

「高校どこ通ってるの~?」

「はいはーい、そんな一気に質問してもあれだし、今日は私がこれからデートしたいから月曜日に話聞いてあげるから。」

 瀧石さんはさあ散った散った、と軽く手を振りみんなをあしらってしまった。それでも雰囲気は前の教室と同じメンバーだったとは思えないほど軽くなっていた。きっとこれなら今度から教室の雰囲気も改善されるだろう。


「ほらね、大丈夫だったでしょ。これだけ普段と変わってれば誰も気づかないって。」

 戻ってきた瀧石さんは俺に向かってそう言った。確かにこれで俺も瀧石さんも狙い通りの結果を得られたのだ。

「うん、ありがとう瀧石さん。おかげでこれから心置きなく勉強できるよ。」

「え?何言ってるの?」

「ん、だってお互いにもう用済みじゃないか。」

「いやいや、これからだって必要になることあるって。なんでもう終わったことにしようとしてるの?まだまだたくさん付き合ってもらうからね。」


 一件落着に思えた俺にとっての出来事はこれからもまだまだ続くらしい


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