第2話 歪な関係


 俺が知っている中で彼女のフリをしてくれそうな相手は一人しかいない。むしろあいつ以外に話す女子がいないレベルである。そのためにはまず別のクラスに行かなければいけない。俺はC組、あいつはE組だ。

「お、いたいた、崎野宮(さきのみや)ちょっといいか」

「およよ、どうしたの尚和?珍しいね尚和から来るなんて」

 こいつとは小さい頃からの知り合いだから幼馴染みたいな扱いかもしれないが、まあただの腐れ縁である。まあそんなことは割とどうでもいい。厄介なのはこいつの周りからの扱いが天然美少女となっていることだ。俺が話しかけると周りが「えっ」と振り返る。あまり目立ちたくはない俺からしたら少し困り者だ。


「話したいことがあるんだけど、今日放課後空いてるか?」

「えっ、それって」

「いや空いてなければ別にいいんだけ」

「空いてるから!大丈夫、オールフリータイム!」

「おぉ、空いてるならよかった。じゃあ校門で待ってるから帰りながら話すわ」

 食い気味に返事するので少しびっくりしたが、まあよかった。こいつの放課後に予定でもあろうものならその時点で詰んでいたからな。まだ何とかなる可能性があってよかった。まあ不安要素はもう一つあるのだけれど。

 なんか俺が出てからあいつの周りを女子たちが囲んでいたがまあ俺には関係ないことだろう。


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 へぇ、あいつって女子の知り合いいたんだ。てっきり誰もいないのかと思ってたけど崎野宮さんと知り合いだったなんて。誰もいないところに私が救世主のように声をかけることで少しでも恩を売っておこうかとも思っていたけれど今の感じからして彼女のフリを崎野宮さんに頼むのだろう。だがそうはさせない。崎野宮さんだって彼女のフリなんて急に言われても困ってしまうだろう。


 私は朝から隣の席の男子を観察していた。もちろん変に思われない範囲でだけれど。休み時間は次の授業の予習、授業中も居眠りなどは一切なし、隣の私が見ててもそれに気づくことないほどに集中している。受験生とはいえまだ四月の前半、始まったばかりでよくもまあこんなに頑張れるものだ。


 とまあこんな感じでさっきの昼休み、崎野宮さんに頼むところまで観察したわけだけど、どうやっても私と接点がない。これはチャンスだ。接点がない方が最終的にフリだとばれにくいはずだ。反対に少し一緒に遊んだりする機会なんかがあると振る舞いが不自然だったり、呼び方だったりでばれてしまう危険性が高くなってしまうだろう。

 その点では心配することがなかった。フリを必要とする時だけ徹底的にフリをすればいいのである。

 お互いのために、利用しあうために崎野宮さんが来る前に勝負をかける。


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 帰りのホームルームも終わり先に校門前で待っていたいのですでにまとめた荷物を持ち上げ教室を出る。特にいつも教室に残っているわけでもないが、それでもいつもよりも早く出ている。

 はずなのになんで俺よりも先に人がいるのだろうか?しかも同じクラスの奴。


「守山(もりやま)君、ちょっと話いいかな。」

 笑顔である。クラスの、いや学年のアイドルともささやかれるような瀧石萌音(たきいし もね)が作ったような笑顔で話しかけている。

 正直あの席替えの後に一言交わしたことがあるだけなのでなぜ俺に話があるのか全く想像ができない。

「俺この後予定あるんで、また今度で。」

 今日はそんなことより大事なことがこの後あるのだから余計なことは断ってしまおう。


「君の彼女のフリ、私がやってあげようか。」


 え?どういうことだ。学校に来てから誰にもそんな話などしていない。親にだって話していないのだから誰にも知られていないはずなのに。

「な、なんのこと」

「あぁごめんごめん、話聞いてくれなさそうだったから。私昨日お寺に行ったんだけどたまたま会話しているところが聞こえちゃって。」

 右手の人差し指でこめかみをかきながら、申し訳なさそうな顔をする。実際に外に面している部屋とはいえ、かなり奥の方になるわけだからそんなところで何をしていたんだ、なんて思ってしまうけど、知られてしまった今となってはあまり関係がない。

「いきなりそんなこと言われても、昨日の会話ってどこまで聞いてたの?」

「彼女いないならお見合いしろみたいな感じだったかな。大変だね、お寺の跡取りさんは」

 どうやら本当に俺と祖父の会話で間違いないようだ。

「瀧石さんの迷惑になっちゃうし」

「でも誰かがやらなきゃいけないことでしょ、それなら私がやろうかなって。」

 まあ確かにこんなことあいつに頼んでも困るだろうし、すでに俺の状況分かっててやってくれるというなら願ったり叶ったりだが、

「だからさ」

 きた、交換条件だ。カーストトップが俺に何をしろというのか、

「私の彼氏のフリしてくれないかな。」

・・・え、それだけ。いやでもよく考えてみろ、カーストトップの彼氏だぞ、俺なんかに務まるはずがない。というか学年中の反感を買って袋叩きにでもされるのではないだろうか、よし断ろう、それがいいはず、

「ご」

「その、ほんとにたまにでいいから必要な時だけ話を合わせるって感じで、しばらくたったら別れました~で円満解決。どう?」

 俺の声をかき消すように続ける。

「実はこの間告白してきた相手に彼氏いるって嘘ついたらみんなに知れ渡っちゃってて、実はいませんでしたってできなくなっちゃてるんだよね。でもこの案なら私も君も全部が丸く収まると思うんだよね。」

 確かに理屈は通ってるし、何よりも俺がこの案に乗ってしまいたいのは、崎野宮だとさっき言ったもう一つの不安要素が大きすぎるからである。


「ごめーん、またせちゃったか、な?」

 そうしていると当の崎野宮が現れたが、すぐに困惑した表情になる。それはそうか、俺なんかと一緒に美少女がいれば違和感しかないだろう。

「えーっと、どういう状況なのかな?」

「いやお前に話したかったんだけど」

「返事!!聞かせて欲しいな」

 俺と崎野宮の会話をさえぎるように返事の三文字を言い放つ。ここまで強く言われてしまうと先にそちらを済ませなければいけない気持ちになってしまう。

「本当にいいのか、かなり迷惑かけちゃうと思うんだけど」

「まあそれはお互いさまってことで」

「じゃあ俺からお願いする、これからよろしくな」

「うん、大丈夫だよ、こちらこそ」



「え、なに今のやり取り、私ってなんで呼ばれたの?」

 むしろいままでよく何も言わずに会話を見れていたななんてことは言えないが、これで崎野宮にも迷惑かけることなく俺の不安要素も取り除くことができた。

「悪い崎野宮、お前への頼み事今解決したっていうか、なくなったから呼び出しといてなんだけど、もう大丈夫だわ。」

「いいんだよ、私に何でも相談してくれて。神社の跡取りである私に任せなさい。」

 目の前の瀧石と比べてしまうとやや控えめな胸を張りながら答える。

 俺の不安要素というのは、崎野宮が神社の家の子なのである。俺の家から約15分ほど歩いた先にある神社の子。神をまつっている神社を俺の祖父はどうも気に入らないらしい。最近では言わなくなったが、小さい頃は崎野宮と遊ぶことさえ注意されるくらいだった。まあ最近ではそもそも遊んでいないのだけれど。

 つまりどう考えても崎野宮に頼むよりも瀧石さんに頼む方が確実である。むしろ崎野宮を連れていったら、むしろお見合いをさらに強く推奨されそうで怖い。


「なんでもないのに呼び出してほんとにごめんな、今度なにかお詫びするから今日はもう大丈夫だから。」

「う、うん。まあ大丈夫ならいいんだけど。」

 そう言いながら今度はちらちらと瀧石さんの方を見ている。

「尚和って瀧石さんと仲良かったの?」

 違和感ありまくりの光景を変に思っていただけか。まあこいつに嘘をつく必要もないし、

「いや、むしろ今日はじめ…」

「めっちゃくちゃ仲いいよ!席が隣になってからよく話してるの!」

 めちゃくちゃ突っ込んできた!?え、なんでもう彼氏のフリ始まってるの?

「バカ、この学校の人に知られたらどこからウソがばれるかわからないでしょ!もっとしっかりしてよ!」

 崎野宮には聞こえない声で耳元で怒鳴られてしまった。俺にしか聞こえないように怒鳴るなんて器用なことするなぁ。

「へ、へぇそうなんだ。今日この後はもしかしてデートだったり」

 なんか無理やり明るく言おうとしているが、不安になったような表情を隠せていないままに崎野宮が聞いてくる。

「そんなわけ…」

「そうなの!この後実は尚和君の実家に招待されてて。」

 俺に回答権はないのだろうか。すべて遮られていくのだけれど。

「え、」

 すでに疑問を通り越して引かれてしまっている。はあ、今日はあとどれくらいの嘘をつけばいいのだろうか。

 この後俺の実家に行くことは間違いないので否定しようがないのだが、もう少し言い方というものを考えて欲しい。そんなことを言う方が誤解が出回るというのに。

「もうそんな仲だっだんだ…。・・・私帰るね、邪魔になっちゃうかもだし」

 徐々に声がか細くなっていく。そんなに俺と瀧石さんが一緒にいるのって変に思われるのかな?

「お、おぅ、その、来てくれてありがとうな、また」

 そう言って別れたがなんか心がすっきりしない。明日俺の悪いうわさがそこら中に広まっているんじゃないかなんて想像してしまう。

 とはいっても本番はこの後なのだ。いかにして祖父をだましきるかが大切だ。

「瀧石さん、じゃあこの後のこと少し話したいからいいかな。歩きながらでいいから。」

「うん、でも私のこと呼ぶときは瀧石さんじゃなくて萌音ね。そんな他人行儀だとすぐにばれちゃうよ。」

「そうだな、じゃあよろしくな萌音…さん。」

「よし、ばれないように頑張るぞーー!」


こうしてどちらにも好意がない不自然な同盟関係が始まった。いびつな形のスタートがこれからどうなるのどうなるのだろうか。


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第二話読んでいただいた方、ありがとうございます。ようやくこの話からスタートラインってところですかね

それでこんな話をかいていて、なんなんですが、私は寺社仏閣全くもって詳しくないのでお寺と神社それぞれの名前、こんなのがいいんじゃない、なんてものがあったら教えて欲しいです。

というわけでまたよろしくです( `・∀・´)

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