第1話  彼女いないと詰みは鬼畜


ピシャン!!

 祖父が勢いよく閉めた障子の音が当たりに響き渡る。ほかには何も音はしない。


「話がある。そこに座りなさい。」

 畳の上に座るよう促され、しぶしぶ座る。この部屋は昔から祖父の説教の時に使われていた部屋なのであまりいい思い出はなく、自然と身に力が入ってしまう。

 片膝ずつ下げ正座をとる。小さい頃から常にこの姿勢が基本だ。ピリピリした雰囲気が全身に伝わってくる。 

 真正面に向き合うように祖父も座りこちらの目をまっすぐ見ながら口を開き始める。


「尚和(なおかず)、今交際している娘はおるか?」

 ・・・

 ・・・

 ・・・は?


「急に何の話ですか、改まって聞くようなことではないでしょう!」

「それがどうしても必要なことなのじゃ、おるのか、おらんのか!」

 少しだけ砕けた雰囲気になるが、それでもまだ真剣に聞いてくる。

「いや、いないけど、…それがどうかしましたか。」

「よし、おらんのであれば問題ない。ホ~よかったよかった。」

 俺に彼女がいないことを確認して安心されてしまった。家族としてどうなのだろうか。


「いや~実は延行の奴が消えおったんじゃ、しかも手紙を残して。」

え?

「そうなると後継ぎが変わってくるじゃろ、だから心配になってしまってのぉ」

いや、待って

「でも尚和がおるから大丈夫じゃろう思って」

嘘だろー!!

「そういうわけでこれから頑張ってもらうからのぉ」

「さっきの彼女がいるかいないかっていうのは?」

「お主に見合いをしてもらおうと思ってな、すでに交際しとるゆうならさすがにわしとて慈悲があるからのぉ、延行を捕まえに行くつもりじゃったが、まあ正直わしとしては尚和に継いでもらいたかったしのぅ、良いことじゃ。」

 今は高3の4月が始まったばかり。俺の誕生日は来週なので18になってしまう。だが進学校に通っているからこれからは受験勉強だというのにそんなことはしていられない。

「いや無理だって、俺これから受験あるからそんなことやってる時間ないし。」

「なんじゃと」

 やばい、ダメなこと言っちゃった

「そんなことじゃと、代々引き継いできたこの寺にそんなこととぬかすか!」

 あちゃー、

 察しのいい人ならもう気づいているかもしれないが、俺の家は由緒正しいお寺である。小さい頃から厳かな屋敷のような場所に住み、みんなが住んでいるところよりも位置的に高い、階段を200段ほど登らなければいけないようなところである。名前も和尚さんからとって反対にしただけというなんとも安直な名前である。しかし俺は運よく次男として生まれることができた。2コ上の兄貴、延行が長男としてお寺を引き継ぐと決まっていたため、俺には今までなんの被害もなく過ごすことができてきた。兄貴も「俺はすでに就職先が決まったようなものだから」なんてなめきってはいたけれど継ぐつもり満々だったし。



「や、やっぱりいるから!います!俺交際してる人いるから!」

 完全なでまかせだった。一度たりとて彼女なるものが存在したことなどない。普段の生活を見られてしまっている学校の奴らにはこんな嘘通用しないだろうが、今日は大事な話として今呼ばれているわけだが祖父とは普段朝ごはんの際に顔を合わせるだけである。だったら何とかなるのではないか。

「ほ、本当か」

 うろたえだしてしまった。嘘をついて悪いとは思うが、こっちだって背に腹は代えられない。

「ほんとほんと、さっきは恥ずかしくて嘘ついちゃっただけなんだ、ごめんなさい。」

 今はとにかくこの場を収めることしか考えていなかった。嘘がばれないように取り繕ってなんとか兄貴にこのお寺を引き継いでもらわなければ。

「そ、そうなのか。・・・なら明日ここへ連れて来い。それができなければ、お前にこの寺を継いでもらうからの!」

「いや明日は用事があるっていうか、ちょっと厳しいかもしれないし…」

「そんなこともできぬなら、お前さんに残された道は一つしかないからの、お見合いしてもらうからのぅ!」


 あんまりである。明日までに彼女を作ってそれを祖父に見せなければいけない、100%不可能である。どうしたものか、俺はお寺なんて継ぐつもりはないのに。

 俺の夢は医者である。お寺を継いで仏様に仕えることで人を助けるのも確かに重要ではあるが、俺は俺の手で誰かを助けたい、そう思って医者を目指して勉強している。父はそれを認めてくれて、兄貴に継いでもらえるようにしていたというのに。

 あいつに頼んでみるしかないかぁ


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 本当にたまたまである。私がきこうと思ってこうなったわけではない。たまたま来てみたら面白い話が聞こえてきただけである。



「ただいまー」

「あれ、あんた今日帰ってくるの早かったね。」

「まあ遊びの予定がキャンセルになっちゃったから仕方なく」

「それってもしかして」

「女子友達だからね、私に彼氏なんかいないから。」

 なんだー、残念といった表情をする母にうんざりする私。親にまでは嘘をつく必要はなく適当に受け流したり、否定したり。まあ彼氏ができても教えるかはわからないけど。


「あ、そうだー早く帰ってきたならちょっとお願いがあるんだけど」

 面倒ごとが頼まされそうな予感もあったのだが、別にいまやらなければいけないこともなかったのでとりあえず聞くことにした。

「今日掃除してたらお札が見つかってね、たぶん去年あたりにもらったやつだと思うんだけど、、なにか信じてるわけじゃないけど処分するのもあれだからねぇ、そこのお寺に返納してきてくれない?」

「あぁー、別にいいよ。そこの寺にもっていけばいいのね。」



 ほらやっぱりたまたま、わたしはただお札を返納しに来ただけだし、全然人がいなくて、適当に入り込んだら障子の奥から声が聞こえてきただけだから。

 人がいることを確認して声をかけようと思って少し障子をずらしたタイミングで

「そんなこととぬかすのかぁー!!」

 うわっ、驚いて声をかけるタイミングを失ってしまった。けれど顔が半分ほどの幅に空いてしまった障子の奥からは見たことのある顔が見えた。

 あれって、今日隣になった男子じゃん。名前聞いてなかったけどここのお寺の子だったのか。で何を話してるのかな。

「や、やっぱりいるから!います!俺交際してる人いますから!」

 へぇ、あいつって彼女いたんだ、全然パッとしてないから知らなかった。

「いや明日は用事があるっていうか、ちょっと厳しいかもしれないし…」

 あ、やっぱりあれ嘘かな、めっちゃくちゃ目泳いでるじゃん、なんであんな嘘つくんだろう?

「お見合いしてもらうからのぅ!」

 なるほど、無理やりお見合いさせられそうになっているのか、それから逃げようとして嘘ついたってことね。まあでもあいつあの眼鏡で何考えてるかよくわかんないしお見合いしちゃえばいいのに。


 まあいっか、とりあえずこんなこと盗み聞きしているがばれてしまうのもあれなのでそぉーっと障子を閉める。本堂の目の前に戻ると人がいたのでその人にお札を渡して、階段を駆け下りる。


 あれ、もしかして私が彼女のフリをしてあげれば、すべてが丸く収まっちゃうかも。天才じゃん。

 明日ちょっと話を聞いてみよう。せっかく隣になったわけだし。

 クラスの雰囲気が悪くなったけれど、少し楽しみなことができた。


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第一話読んでもらってありがとうございます。

プロローグでは名前も設定も何もない状態だったのでナニコレ、とか思う人もいるかもしれなかったですが、これからいろいろと追加していくので自分自身でもどうなるのか未定です。

どうか長い目で見てくれると嬉しいです。

ヨロシクです( `・∀・´)ノ


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