恋愛相談室の掃除
恋愛相談室は広さだけが僕の知っている教室と同じくらいだったけど他は違っていた。
教室の前後に付いていた扉は部屋の中心に一つだけになっているし、床も隙間に埃の溜まっている薄汚い床板ではなく、潔癖症の田中君も気にせず寝転がれるような綺麗なものになっている。ちゃっかり魔女が座っている周りの床は丸く毛の長い赤の絨毯が敷かれている。
また、窓側にあった時計のかかっていた柱はそのままクローゼットになっていて、その右端にはお菓子のいっぱい入っている棚が並んでいてその反対にはソファが置いてある。そして、教室時代に黒板があった側の壁に本棚、ロッカーのあった側に本棚、つまりは部屋の左右両側には壁いっぱいの大きな本棚がある。「なんて読書家なんだろうか。全部漫画だけど」
「失礼ね。小説もあるわよ」
気付いたらボソッと失言していたようで、ポテチの袋をお供に付けて絨毯の上に寝転がって漫画を読む魔女さんに怒られてしまった。
魔女さんは足をバタバタさせながら言葉を続ける。
「その手に持ってる分までで良いから早く片付け終わらせてね」
そもそも何で僕が散らかった漫画の片づけをしないといけないんだとは溢さず、不承不承だが返事をする。足元に目を遣ると、そこにただ乱雑に漫画の種類も関係なく積まれていたゴミ山は見事に崩され、作品ごとに詰まれた整然とした山脈に変わっていた。うん美しい。
だが、悲しいことに漫画山はまだまだ健在しているし、七つの漫画海だって残っている。さらに、本棚の中身に目を遣れば、何の法則性も見当たらない乱雑な漫画の並べ方。そう本棚の中身すら散らかっている状態なのだ。だから「一度乗りかかった船だ、この漫画たちを綺麗にするまで僕は片付けを止めない」とでも言って本棚の端から出版社ごとに作品のタイトル順で完全に並び替えてやろうかと思った。もちろんそんなこと言わなかったし言うつもりもなかったけど。
はてさて、何故そもそも僕が恋愛相談室に散らかる漫画の片付けをしているかと言えば、そんなものは簡単で「部屋に入ってくるの遅かったんだから、少し漫画片付けて」という言い掛かりも甚だしいお言葉を拒否できなかったことが原因なのであった。強気な人の発言への耐性が無さすぎるんだよなあ。
「魔女さん片付け終わりました」と右手に残っていた最後の一冊を黒板側の本棚に戻して魔女の方を振り返る。
「……待って。今ちょっといい所だから」
魔女を見ればイルカのぬいぐるみを抱きしめながら、真剣な表情で漫画を読んでいた。早く片付けてなどと言った割にはめっちゃ夢中になってるし。
……時間かかるのかなあ。僕、あなたに急に呼ばれて良く分からない状態なんだけどなあ。
時間かかるなら、僕も暇つぶしに漫画読むかな。ここの漫画、見たところ恋愛漫画しかないし、少女漫画ばっかだけど。
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