恋愛相談室の魔女

 さて、リア充どもへの憎しみから分かりやすいツンデレ自爆アターックまでを心の内で済ませることでようやく現状を受け入れることが出来たわけだけど、さあどうしようか。

 目の前のなんか怪しい恋愛相談室の扉を開けるべきか、はたまた探索してみるべきか。辺りを見渡すと普段の廊下と何ら変わりはない。いや何ら変わりないのは言い過ぎた。違うところはいっぱいあって、その一つはもちろん目の前の教室が恋愛相談室とやらに変わっているところ。多分元々この教室は二年生の教室な気がするけど、一体教室群はどこえやらで、目の前の恋愛相談室しかここには部屋がない。

 そしてもう一つの違いはやけに廊下が長いところだ。どのくらい長いのかと言えば先が見えない。延々とタイル張りの廊下が伸びていってその先に待っているのは暗闇。うーん、この先を進んでいく気にはなれない。探索は無理だ。

 そういえば、夕暮れの日差しが入ってくる窓があった。そこから覗く景色は、うわあ、なんもない。赤焼けの日差しは入ってくるものの、背景でも描き忘れたのか、外には何にもなかった。しかも窓開かねえ。


 そんな扉を開ける選択肢しかないなあと思い至った頃合いだった。


「いい加減、早く入ってきなさいよ!!10巻丁度読み終わって暇なのよ、こっちは!」


 扉の中から女性の不機嫌そうな叫び声が轟いてきた。ひえっ。怒ってる。

 中に人がいることくらいは分かっていた。なんせ恋愛相談室なんだから、相談の相手で恋愛の助言をくれる誰かくらいいるだろうよ。だから入りたくなかったんだ。

 陰キャとして全く知らない人と密室の中で会いたくないのは世の真理だろう。しかし悲しいかな、怒り気味で急かされるとにべもなく従ってしまうのもまた陰キャの真理だろう。

 

 「はい!ただいま!」


 窓の方に向けていた体を百八十度回転させて、上ずった声で返事をする。さっきまでの俊住なんてどこへやら、素早く扉に手をかけて引き開ける。

 

 ガラガラガラガラっと音を立てて扉を開けたその先には漫画の山と海があった。つまりは漫画が部屋に散らかっていた。うん、汚部屋だ。

 そして、その漫画の山海の中央には、寝胡坐あぐらをかいて座る女の子がいた。


 「あんた遅いのよ。なんでとっとと入って来ないわけ?」


 自分の膝に肘をつけて自らの髪の毛を巻き込んで頬杖を付くその子は仏頂面で、あからさまに不機嫌だった。

 勝手に連れて来られた僕の方が怒るべきで、怒られるのは間違ってるんじゃないのかな。そんな言葉はもちろん声帯を震わせることなく消失して、ごめんなさいと一言謝る。


 「この魔女様を待たせたんだから、そんな簡単に許されると思わないことね」


 口の端を上げニヤリと怖い笑顔でそう話す今しがた自分のことを魔女と呼んだ彼女こそ、スイーツ()で恋愛脳()なこの恋愛相談室の主ということは誰の目にも明らかだった。


 あと、この汚部屋を作り上げたのも間違いなく彼女だろう。魔女様、人を勝手にこんなとこに呼ぶ前に部屋を片づけるとかいう恥じらいなどはないのでしょうか。

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