ゴールデンウィーク4日目

朝、すでにニュースになっていた未知の薬物“パワー”。


名前を知っているのは極一部の人間だろうけど、警察が動いているから成分も売買ルートも名前も、すぐに分かるだろう。


慎也さんが目を覚ましたと連絡があった。


僕は足早に病院へと向かった。


朝早くだったが病院は開いていた。東雲先輩と城戸先輩が先に着いていたからだ。


医者が言うには、検査の結果、慎也さんは更生できるか分からない程に大量のパワーを使っていたらしい。


それほどの依存性と効果とリスクを持った薬物のようだ。


僕が最後に出来ることは一つ。


慎也さんにパワーを食べさせ、能力を僕に向けて使わせる。もちろん警察官と医師の立会いの下でだ。


そして、それで“得た催眠能力”で僕が慎也さんに催眠をかけて更生させるのだ。


超能力の催眠。効果はある程度実証済み、「眠れ」の一言で慎也さんを眠らせたのだ…催眠というよりは“命令”だけど、出来るはずだ。


「しかし、とんでも能力だね。三好君の超能力は」


「…はい、もう二度と使わないつもりでした」


「他人の能力を超能力として使う……。三好君の過去は悲しいと思うわ。でも、だからってこのままお別れは寂しいわよ。音羽ちゃんだってきっと解ってくれるわ!」


「音羽が優しいのは今回の件で充分に分かりましたよ。でも、だからこそ僕が側にいちゃいけない。そんな気がするんです」


「三好君、準備ができました。慎也君に催眠をかけてください」


立会いの警察官が僕を呼んだ。いよいよだ…。


これが、僕に出来る全て…これで終わりだ。


最後に、人を救う為にこの能力を使えて良かった。


これからは別の学区に移って、静かに暮らそう…誰も傷つけずに…また、超能力者の落ちこぼれとして、無能力者として…。


さようなら……ゴールデンウィークの間だけだったけど、キミが声をかけてくれて良かった……僕を頼ってくれて良かった……さようなら、音羽……。


「祐のバカーーーーーー!!」


「え!? へぶっ!?」


何が起きたのかすぐには分からなかった。僕は…病室を抜け出してきた音羽に頬を平手打ちされた。


「さようならなんて言わないでよ! 祐! どっか行っちゃう気でしょ! 祐の能力と関係あるんでしょ! でも私は、祐の味方だよ!」


「音羽……」


「祐の過去とか、能力とか、そんなの知らない! 私は祐と一緒にいたい!」


そんなこと、許される訳がない……僕は、他人の才能を喰らい尽くして、傷つけて、そんなことを繰り返したくない…!


「だってさ~、どうする? 三好君」


城戸先輩…だけど僕は…。


「東雲は、あなたの味方です。辛い事があったら何でも相談して、ね!」


東雲先輩…。


「祐は、もう充分苦しんだよ。もう自分を許してもいいんだよ。もっかい言うよ? 私は祐と一緒にいたい!」


音羽……!


ゆっくりと、僕は立ち上がる。


「うん! じゃあ、待ってて! すぐ帰ってくるから!」


慎也さんを更生させるべく、僕は部屋に入る。


このままお別れなんてしない。


皆が居場所をくれたから。


僕は、必ず皆のところに帰る。

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